観察26:感謝の気持ち
「おかえりーお兄ちゃん」
「ああ、ただいま雪奈」
遊園地からの帰宅。玄関で出迎えてくれた雪奈にそう返す。
「お姉ちゃんもお帰り」
「うん。ただいま、雪奈」
一緒に帰ってきたこころもそう返す。
「? んー……お姉ちゃんもしかしてなんか雰囲気変わった?」
「べ、別に何も変わらないわよ」
「ああ、実は……って、雪奈、分かるのか?」
「分かるって何が?」
「こころの雰囲気とかそういうの」
「え? うん。なんとなくだけど……」
今までの雪奈であればそういった違和感に気づいていない可能性が高い。仮に違和感を感じたとしても『変わった』と表現する事はなかっただろう。
(……瑞菜がうまくやったのかな)
兄として少し悔しいが、この件に関しては近すぎるオレやこころではどうしようもなかったことだ。瑞菜が一番適任だっただろう。
「それで、お兄ちゃん。もしかしてお姉ちゃんと何かあったの?」
「それなら多分、オレとこころが付き合いだしたかじゃないか」
「へー……お兄ちゃんとお姉ちゃんがねぇ……」
「ああ。付き合いだした」
「…………………………ほんとうれすか?」
「本当だな」
ギギギと音がなりそうな動作で雪奈はオレの方からこころの方に向く。
「…………………………まじれすか?」
「なんなのよその喋り方……いや、うん。まぁ、その……」
「お、お姉ちゃんが恥ずかしがってる……!」
……なんなんだこの雪奈の突っ込みいれてくださいと言わんばかりの反応は。もともとからかいやすい奴ではあったが。
「まぁそのなんだ……。そういうわけだ」
「う……うわーん! 助けて瑞菜さーん!」
なんか涙目で家を飛び出す雪奈。
「……良かったの俊行?」
「さあな」
いつの間に瑞菜のこと名前で呼ぶようになったんだろうと思いながらオレはこころにそう返す。
「ん、電話……瑞菜からか」
早いなーと思いながら電話にでる。
『なんか雪奈ちゃんが泣いて私の部屋に押しかけてきたんだけど……』
「悪い。オレたちじゃどうしようもないから慰めてくれると助かる」
コメディっぽい反応だったがショックなのは確かだろう。
『あはは……了解。……思った以上にうまくいったみたいだね』
「ああ。瑞菜のおかげだよ」
『あはは……とーくんが頑張ったからだと思うよ』
「そうかな? そうだといいけど」
『うん。そうだよ。……そうだ、こころさんに替わってくれる? 近くにいるかな?」
「いるぞ。……こころ? 瑞菜が話したいって」
「? なにかしら」
「じゃあ替わって……あ、そうだ。瑞菜、これだけは言わせてくれ」
『? 何かなとーくん』
雪奈の愚痴だか泣き言だかを電話の向こう側から漏れているのを聞きながらオレは口を開く。
「……雪奈のことありがとな」
『…………うん。少しだけ頑張ったよ』
その少しはどれだけ大変な少しだっただろうか。そう思いながらオレはこころに携帯を渡す。
2、3会話の応酬をしてそのままこころは通話を終わえた。
「? もういいのか? あんまりお前は喋ってなかったみたいだけど」
瑞菜が何を言ったかは聞こえなかったが、こころは生返事しかしていなかった。
「うん…………」
「もしかして……なにか恨み言とか言われたのか……?」
ないとは思いたいが、オレたちは瑞菜に恨まれる理由は十分以上にある。
「ううん。そんなことは一言も」
「? じゃあ、何を?」
「内緒。……ただ、あたし、あの人には一生頭が上がらないと思う」
「なんだ。それならオレと一緒だよ」
本当に。あの幼馴染には。