観察25:弱いあたし
「そっか……ありがとう。こころ。これで心置きなく頑張れる」
好きといってくれるなら。オレは迷いを捨てられる。
「……やっぱり、気づいてたのね。あたしの気持ち」
うつむきながらこころはそう言う。
「まぁ……なんとなくだけどな」
好きと言われた今でも、本当にこころがオレの事を好きなのか確信は持てない。自分がこころに好かれるようなやつだと思えないから。それでも、そうじゃないかというのはなんとなく感じていた。
「……いつから気づいたの?」
「こころが夜にオレの部屋に来なくなってからかな」
「……変な話ね。あたし達がやってたのは本来愛を確かめる行為なのに、それをやめてから好意に気づくなんて」
「だからだろうよ。順番を間違えて近づきすぎたから」
本当は見えてから近づくはずなのに。見つけたものを見失わないように近づかないといけないのに。
「……そっか」
「ま、これでとにかく安心してアタックが出来るよ。お前の頑固さが勝つか、オレがどうにかして悩みを解きほぐして素直にさせるか。勝負だな」
オレが勝てばこころと一緒にいられる。負ければこころがバカをやらかす可能性が増える。
「……そんな勝負しなくていいわよ」
「お前にとっては迷惑かもしれない。けど……オレはお前と一緒にいたい。だから……」
「だから、そんな勝負いらないのよ」
「? こころ……?」
「勝てる訳ないじゃない……今のあたしが今の俊行に……」
「………………」
「あんたに好きって言われただけでこんなに揺れてるあたしが、目的を見つけた俊行に」
「こころ……」
「意地を張り続けられるはずないじゃない……あんたのこと好きだって認めたのに……」
うつむいているこころの顔は見えない。それでもこころが泣いているのは分かった。
「なんで……あたしに意地を張らせてくれないのよ……それをなくしたらあたしはあなたに……」
オレはそっとこころの隣に座る。
「いいんだよ。頑張らなくて。それをオレが望んでるんだから」
「対等じゃいられなくなるのよ?……あなたに依存しちゃうかもしれないのよ?」
「オレが好きになったのは強いこころかもしれない。でも……オレが恋したのはきっと弱いこころだよ」
こころにはいっぱい世話になった。それは姉のような母親のような強さを持ったこころだ。でも、オレが恋したのは触れれば壊れそうな……そんなこころなんだって気づいた。
「そっか……そういえばあんたってめんどくさい女が好きだったわね」
「ぅぐ……否定はできないけど……」
雪奈にしろ瑞菜にしろ一筋縄じゃいかないような子ばかり好きになってるのは確かだ。
「そっか……弱いあたしでいいんだ。甘えてもいいんだ……」
「ああ。そのほうがオレは嬉しいよ」
「ねぇ……一つお願いしてもいい?」
「一つと言わずいくらでも」
「くすっ……じゃあ、降りるまでの間胸を貸して……」
「それくらいならいくらでも」
オレの返事を聞き、こころはぎゅっとオレの服を掴み頭を胸に預けてくる。
「ふむ……なんだか、あの時と逆のシチュエーションだな」
7年前のあの日と。
「あたしはこんなに強引じゃなかったわよ」
「ま、オレも別に胸を貸してとか言わなかったしな」
「うるさい。抱き枕にするわよ」
「それもそれで嬉しいけど……雪奈に見つかったら怖いな」
「この状況で他の女の子の話を出せるってすごいわね」
「悪いな。……ところで一つ質問いいか?」
「なに?」
「結局、付き合ってくれるってことでいいの?」
「バカ……それくらい察しなさい」
そう言ってこころはオレにキスをした。