観察15:報告と相談
「というわけで瑞菜と付き合うことになった」
夜。雪奈も家に帰った時間帯。オレはこころに今日あったことを説明した。
「……あんた馬鹿でしょ?」
「確かに頭がいい方ではないけど」
「やっぱあんた馬鹿だわ」
なぜだか思いっきり呆れられてるオレだった。
「ていうか、何でそんな展開になるのよ?」
「勢い」
「…………」
「い、いや、待てそんな虫を見るような眼でオレを見ないでくれ」
恐い上になんか悲しいから。
「けどまぁ……なんて言うか……やっぱり勢いとしか言えないんだよなぁ」
はっきり言うとやはりそうなってしまう。
「コロスヨ?」
「片言で言うとさらに怖いな……」
「……本気で言ってんの?」
「申し開きはない。その場の雰囲気に流されたのが一番の理由だと思う」
昨日のことを瑞菜に見られてたのがそもそもの発端みたいだし。
「雰囲気に流された割には後悔とかしてないのね」
「流されたのは認めるけど、それでも瑞菜を好きって気落ちに嘘はないしなぁ」
例え今回の告白が偶発的な物だったとしても、そこにある想いに嘘はない。だから今回のことがなくてもいつか同じようなことがあった可能性は高い。
「……本当に瑞菜さんのことが好きなの?」
「ああ」
「……雪奈よりも?」
「っ……」
雪奈のことを思うと胸が痛む。でもそれがどうして痛むのかは考えてはいけない。どちらにせよオレはもう選んだのだから。答えは決まっている。
「雪奈は妹だから……比べるような存在じゃないよ」
そうオレは決めたのだから。
「ふぅん……じゃあもう一つだけ。俊行はアタシよりも瑞菜さんが好き?」
「……言いたくない」
「あら?どうして?」
意地の悪い質問をすることだ。分かってないならこんな質問をするわけがない。
「言ったら軽蔑するから」
「大丈夫よ。あんたの浮気性は7年前から気づいてる」
「……そうだよ。お前のことも瑞菜と同じくらい好きだよ」
だから悩んでいたのだから。3人を本当に同じくらい好きで大切だったから。瑞菜とこころの二人には雪奈と違い自分の気持を抑える理由がなかったから特に。
「はいはいごちそうさまありがとう」
そう言ってこころはくすくすと笑う。
「お前は――」
「ん?何?」
「――いや、なんでもない」
どの口を下げて聞くのか。お前はオレのこと好きなのかと。
「それでここからは相談なんだが、オレと瑞菜が付き合いだしたって事、雪奈に伝えるべきだと思うか?」
「とりあえず俊行はどう思ってるの?」
「オレ自身はまだ伝えるべきじゃないと思ってる」
「それはどうして?」
「……雪奈からの告白断ったの昨日だぞ?」
「あー……それは辛いわね」
自分の告白を断られた次の日に好きな人が別の人と付き合い始める。我ながらひどいと思う。
「まぁそういうことなら黙っといてあげる」
「ありがとう」
「けど俊行が誰かと付き合い始めるなんてねー。しかも相手はとびきりの美少女。世の中何があるか分からないわね」
「うるさいよ」
誰よりも分かってるよ。瑞菜がオレにはもったいないくらいの女の子だってことには。
「あと、これだけは言っとくわね」
「なんだよ?」
「同時攻略だけはやめなさいよ?」
「………」
「素人にはきびしいわ」
「……オレはたまにお前が分からなくなるよ」
「あと私は隠しヒロインだから。全キャラ攻略後じゃないとルート出てこないわよ」
「聞いてねぇよ……」
なんだかなぁと思うと同時に少しだけ心が軽くなるオレだった。