観察19:こころの願い
「はぁ……何なのかしらあの二人……」
あたしは登校中、前方でギプスをめぐってイチャコラしている俊行と雪奈を見ながらため息を漏らす。
「あはは……とーくんと雪奈ちゃんがどうかしたの?」
そう拾ってくれるのは隣を歩く瑞菜さんだ。
「いや、あの二人なんか今日の朝から様子がおかしいのよ」
「様子がおかしいってどんな感じ?」
「俊行はなんか女ったらしになってるし、雪奈は雪奈でなんか幼児化してるし」
「え、えーと……とりあえずとーくんが女ったらしって、何があったの?」
「抱きついていいかって聞いてきて抱きついてきた」
「………………………………それ普通にセクハラじゃない?」
「い、いや、一応あたしにしてもいいかって聞いてからだから……」
「それで、こころさんはしてもいいよって言ったの?」
「え、えと……うん。まぁ、嫌じゃないとは……」
「……………………ただのバカップルじゃないかな」
「ぅぐ……そ、それにしても俊行のキャラが違いすぎると思わない?」
「思うけど……それがとーくんのやりたかったことなんじゃない?」
「やりたかったことって……確かにそんな事言ってたけど……」
「あはは……まぁ、とーくんのことはとりあえず置いといて雪奈ちゃんが幼児化してるって?」
「うん、それはなんて言うか言葉で説明するのは難しいんだけど……全体的に行動が幼くなってる気が……」
もともとわがまま娘で子供っぽいところはあったけど、それに素直というか……無理して大人ぶっている所がなくなっている気がする。
「あはは……まぁなんとなく分かるよ」
「ねぇ、瑞菜さんはあの二人がそうなってる理由、なにか心当たりがない?」
前方で今度は腕を組んで歩き始めて完全にイチャイチャしだした二人をジト目で見ながらあたしはそう聞く。
「あはは……心当たりというか、完全にあたしのせいなんじゃないかな?」
「…………なんとなくそうじゃないかって気がしてたけど」
あたし達三人の関係が変わってしまう時、その時はいつもこの子が関係していた気がする。
「何が目的なの?」
「あはは……目的と聞かれてもなぁ……あえて言うなら三人が素直になれるようにってのが目的なのかな?」
「……それはただのおせっかい?」
「それもあるけど……一番の理由は私が三人のことが好きだからだよ。とーくんはもちろん雪奈ちゃんや今のこころさんもね」
「…………はぁ。なんでこうあたしの周りにいる人たちはこう揃いも揃って一筋縄じゃいかない人たちばかりなのかしら?」
特にこの瑞菜さんは。
「あはは……それはきっとこころさんにだけはみんな言われたくないんだよ」
「……お互い様か」
何を思いどんな行動をするのか。そして皆がそれぞれ動いた結末は。
その結末が前方でバカやってる二人の幸せになればいい。そう願った。