観察17:単純なこと
「……あんまり眠れなかったな」
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。まだ起きるには早いとはいえゆっくりと寝ている時間はないだろう。
「このさい今日も休もうかな……眠いし」
どうして眠れなかったのかというと、昨晩の瑞菜とのメールのやり取りが原因だった。それ自体は10分ほどで終わったが、そのやり取りの中で瑞菜から送られてきたメールがオレを悩ませた。
『とーくんは自分が何を望んでいるから考えいるといいよ』
すごく抽象的で酷く単純なことだと思う。そう難しく考えるようなことではない。これは答えのある問ではないのだから。ただ自分の中にあるもので一番その問いに近いものを見つければいいだけ。
(……それすら分からなくなってるから寝れなくなったわけだが)
本当にどうしたものか。うじうじと悩むのは好きじゃないし、そうしていても何も解決しないってのは骨身にしみているというのに。
「……頭で考えるからいけないのかね」
だとしたら頭の中を空っぽにして、その後始めて浮かんだことを自分の願いにしてみよう。
「よしそれでいこう」
そう決めて目を閉じる。大きく息を吸いゆっくりと息を吐く。それを何度か繰り返し、息を吐いている途中で息を止めた。
10秒、20秒とそのまま時間がすぎる。生きが苦しくなってきた所で思い浮かぶ言葉があった。
(……そばに居て欲しい)
大仰な事をして思い浮かんだことはそれだけだった。
「なんだかなぁ……」
それは大前提だ。本当にそれこそ考えるまでもないこと。
「……でも、それすら分からなくなってたのか」
自分のことながら世話のやけることだと思う。そんなのだからうじうじ悩むはめになるのだと。
「ま、なんとなくやらないといけないことは分かった気がする」
この自分の願いを思い出したら、自然とやらなければいけないことは分かった。そこまで見越して助言しただろう幼馴染には本当に頭が上がらない。
「辛くても一緒にいて欲しい……そのことをあいつに分からせてやればいいんだ」
袋小路を抜けやっと目的地を見つけた。そんな気分だった。