観察9:空元気
「よーし……じゃあ雪奈、今日はチャーハンを作りましょ」
「はーいお姉ちゃん」
エプロンを付け気合を入れている雪奈とこころの二人を俺は後ろから眺める。こころがきてから雪奈はこころに料理選択掃除と家事全般をいろいろと習い吸収していた。少しずつではあるが成長が見えるのは雪奈にとっても嬉しかっただろう。
「ん? なによ俊行。エプロン姿に興奮してるの?」
「……お前ほど色気づいてねぇよ」
そういうのに興味が出始めた頃ではあったが、日常的な姿に興奮するほど盛ってはいなかったと思う。……夜にこころに抱きしめられたことを思い出して顔を赤くしてたような覚えはあるが。
「ただお前らが仲いいなぁって思ってただけだよ」
本当にいつの間にか仲良くなっていた。オレの方が雪奈と付き合い長いはずなのに。
「だってお姉ちゃんは私の憧れだもん」
「憧れね……」
この時オレは少しだけ嫉妬していたと思う。
「ま、女の子同士じゃないと分からないことってあるものよ。だから俊行も嫉妬しない嫉妬しない」
「……お前のそういうところ嫌いだ」
そして同時に好ましく思っていた。
「いただきます……もぐむぐ……」
「どうお兄ちゃん? 美味しい?」
「これ、雪奈が作ったのか?」
「あたしは少し手伝っただけでほとんど雪奈ね」
「それでお兄ちゃん味は?」
「普通だな」
「ぅぐ……そこはお世辞でも美味しいって言ってよ」
「いや、ここで美味しいって言ってこういうのがオレの好みだと思われるのも後々を考えるとマイナスだし」
「……頑張る」
「ああ、頑張れ頑張れ」
「……そういう俊行は料理勉強しないの?」
「オレは雪奈がうまくなったら雪奈に教えてもらうよ。そっちのほうが雪奈の成長も大きいだろうからな」
「……上手い逃げね」
明るい食卓。今でこそ思うが3人とも空元気な部分は大きかっただろう。大きな人生の転機……それも客観的に見て好ましいことではなかった。
それでも、その空元気を続ければきっと本物になれたと思う。少なくともオレはそうなれると思っていた。雪奈だけじゃなくこころも一緒に家族になれると。本物にはなれないけど、本物以上に絆で結ばれた。
……今がそうではないとは言わない。でも、あの電話が……俊行さんからの連絡がなければ、オレとこころの関係はもっと素直なものになっていたと思う。
「ん、電話か」
『俊行かい? ちょっと僕の家に来てくれるかな?』
「ええと……はい。わかりました」
「俊行? 誰からの電話だったの?」
「叔父から。ちょっと来てくれって」
「ふーん……あたし、挨拶しに言った方がいい?」
「いや……雪奈一人にするのはまずいし。そのうち機会があるだろう」
そう言って、実際にあったのは7年くらいたった後になったが。
「んじゃ、行ってくる」
そうしてオレは紘輔さんの家……雪奈の家に向かった。