観察6:怪我の具合
「一番大きいのが右腕の骨折か……運が良かったのかもな」
事故った日の翌朝。オレは自分の体の状態を改めて確認してそう呟く。
「ホントだよー。私、お兄ちゃんが事故ったって聞いた時は心臓止まるかと思ったもん」
そう言って雪奈は片手の使えないオレに合わせて作られたサンドイッチにハムっと口をつける。
「怪我、どれくらいで治るの?」
「骨折が全治1ヶ月で他は2,3週間で治るな」
リハビリもいれると夏休み中は少し不自由しそうだ。
「結構長いんだね」
「金かければ結構早くで治るらしいけどな」
白畑の台頭で医療技術の進歩は目覚しいが、それは難病関係の進歩がほとんどだ。骨折など命に関わらないようなものは技術自体は進歩していても、主流の治療方法は前時代的なものになる。骨折で最先端医療を受けようと思ったら治療費の桁が軽く二桁は違う。
「ふーん……。まぁお兄ちゃんが怪我してる間の世話は私たちが頑張るから大丈夫だよ。ね? お姉ちゃん」
「…………え? あ、うん。大丈夫。俊行の面倒はあたしが見るから」
ぼーっとしていたのか、こころの反応は遅れていた。
「むぅ……だめだよお姉ちゃん。お兄ちゃんの面倒見るの独り占めしたら」
「……そんな、ご褒美じゃないんだから独り占めって表現はどうなんだよ?」
「え? でもきっと昔の人も面倒みたいって言うよねきっと」
「……まぁ、あいつもおせっかいな所あるしな」
小さい頃から泣き虫なのにいろんなことに突っ込んでいく所があった。
「それはきっと昔の人もお兄ちゃんにだけは言われたくないんだよ」
……その瑞菜の面倒をあいつがいなくなるまでずっと見続けたオレも傍から見れば十分おせっかいだったんだろう。
「ん……それで、お兄ちゃん。今日は学校休むんだよね? 一人で大丈夫?」
「基本寝てるつもりだし昼飯もサンドイッチを雪奈が作りおきしてくれたからな。大丈夫だよ」
本当は入院を勧められていた。でも、それはこころの事を思えば出来ない。かといっていつものように学校へ行く事は許されなかった。轢かれたりはしなかったが気を失うくらいの衝撃を受けたのは確かだった。
「そっか。……ん、ごちそうさま。それじゃお兄ちゃん、私たちは行くね」
てきぱきと食べたあとを片づけ、雪奈はカバンをとりに自分の部屋に向かう。
「……こころ? お前も急いだほうがいいぞ」
どこか気の抜けた様子でのろのろとサンドイッチを摘んでいるこころにオレはそう言う。
「……ねぇ、俊行。あたし……」
「話は後だ。今はとにかく食べ終われ」
「……うん」
こころの様子にオレは気付かれないように息をつく。こうなるんじゃないかとは思っていたが、それでもこうして実際に見ると辛い。
「……ごちそうさま。それじゃ、俊行また後でね」
「ああ」
雪奈と同じように部屋へ戻っていくとこころを見送りながら思う。オレがあいつにできることは何があるのかと。