観察1:変な夢
「俊行? 入るわよ?」
朝。起きてこない俊行の元へあたしは向かった。
「返事なしか」
別に寝坊という時間でもないけど昨日の話―雪奈の誕生日会の後の話―を考えると起こしてあげたほうがいいと思う。
「俊行? 入るからね」
もう一度だけ声をかけ部屋に入る。
「やっぱり寝てるし」
案の定というか俊行はスヤスヤとベッドで寝ていた。いや、少しだけ寝苦しそうかもしれない。
「俊行? いいの? 雪奈そろそろくるわよ?」
声をかけながらゆさゆさと俊行を起こす。
「ここ……ろ……?」
「起きたんだったら早くじゅん……っ!?」
ガバっと俊行は起きたと思ったらあたしに抱きついてきた。
「ちょ……と、俊行? いきなりどうしたのよ?」
「……なんでいないんだよ……馬鹿こころ」
「はぁ? 俊行、あんた何を言って……?」
あたしはここにいるのに。
「お前がいないとオレはダメなんだよ……」
そう言って俊行は更に強くあたしを抱きしめてくる。力が入りすぎて流石に少し苦しい。
……でも、こうしてこいつに頼られるのは嫌じゃない。
(なんだか、あの時みたいね)
あの日海辺で俊行を抱きしめたことをあたしは思い出す。ここまで直球に甘えられたのはあの時以来かもしれない。
「……大丈夫よ。俊行がダメじゃなくなるまで、あたしはあんたのそばに居続けるから」
それはあたしの義務……いいえ、それはきっとあたしに許される願いだから。
「だからお前は馬鹿なんだよ……いなくならないって……そう言えよ」
「……ごめん」
あたしと俊行の関係はずっと続けていいものではないから。俊行が誰かと付きあおうと思った時、あたしの存在は邪魔になる。
事実、あたしが原因で俊行は瑞菜さんと別れた。同じアヤマチを繰り返す訳にはいかない。
……これ以上罪を重ねることなんて許されない。
「お、お兄ちゃん? お姉ちゃん? 朝から何を……」
雪奈の声。あたしは俊行に抱きしめられながら少し無理をして動き扉の方を見る。やはりというか、そこには微妙な表情の雪奈がいた。
「せ、雪奈? これは別にそういうんじゃないの……よ?」
ふわりと、いきなりあたしの拘束が解かれる。そしてあたしにしたのと同じように雪奈に抱きつく俊行の姿が見えた。
「お、お兄ちゃん!?」
「……ごめん」
「ふぇ? 何を謝って……?」
「そしてアホ」
「ぅぐ……そしてなんでいきなり私悪口言われてるの?」
「オレもお前もこころがいなきゃ大馬鹿野郎ってことだよ」
「はぁ……まぁ、そうかな」
雪奈は分かりやすいくらいに困惑している。あたしも多分似たようなものだったからからかえないのが残念だ。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんてばどうしたの?」
「さぁ? 変な夢でも見たんじゃない?」
大馬鹿な俊行が悔い改めるくらいの……ね。