4
「ねぇ……お兄ちゃん」
雪奈も俺も風呂に入り、いつものようにテレビを見て、雪奈が帰るまで時間つぶしをしていた。見ていたドラマが終わったところで雪奈の思い詰めたような声がする。
「どうかしたか? 雪奈」
別に心配という訳ではないが、雪奈の様子に戸惑いを受ける。
「……もし私がお兄ちゃんの事好きって言ったらどうする?」
「………………………はぁ」
思い詰めてるからどうかしたかと思ったが。
「どうするもなにもどうもしないに決まってるだろ」
いや、二重の意味でどうもできない。
「……どうして?」
「それをオレもお前も望んでいるからだ」
それは雪奈自身が望んだことだし、もとより俺には不可能なことだ。
「そう……なのかな?」
分かりきったことだ。俺と雪奈の関係はそうでないといけないのだから。
「……お前さ、少しおかしくないか?」
俺は雪奈に感情を向けてはいけないし、雪奈も俺に感情を求めてはいけない。これは約束こそしていないが今の関係の大前提だ。
「おかしくなんか……ないよ」
「そうだな。俺がおかしいだろう。……だが、それはお前も同じだろ?」
俺と雪奈は同じだ。普通を諦めたという点で。限られた世界で生きると決めた点で。
「私は……違うよ。ううん。私はそうなのかもしれない。でもお兄ちゃんは……」
「?……どういうことだ?」
「私ね、気づいたの」
「……気付いたって、何にだよ?」
「自分の気持ち……大切なことだよ」
「……訳が分からない」
「うん。私もわからなかったよ。ずっと。お兄ちゃんが優しすぎたから。甘えすぎて大切なことにずっと気付けなかった」
「大切なことね……オレには興味ないな」
大切な思いなんて既に諦めて忘れた。
「そうだね。私もそう思ってた」
「だったら……」
「でも、私は気付いたの。おかしいって」
「そんなのは最初から分かってる」
歪んでいるのは分かりきったことだ。
「違うよ。そういう意味じゃない」
「……じゃあ、どういう意味なんだよ?」
「………………」
「言えないのか?」
「なんて言ったらいいのかな……? ただ、このままじゃいけないって思ったの」
「……結局オレにどうして欲しいんだ?」
「……ううん。お兄ちゃんは今はどうもしなくていい。お兄ちゃんはきっと大丈夫だから」
「そうか」
雪奈が何のことを言っているかは分からない。でも何かを覚悟しているのは分かった。
「それと……これだけ受け取って」
そう言って雪奈はなにか中身の入った封筒を渡してきた。
「……手紙か?」
言いたいことがあるなら直接言えばいいのに。
「明日の夜。もし私がちゃんと来れなかったら読んでくれないかな」
ん? ちゃんと……?
「……気が向いたらな」
オレは違和感を無視してそう返す。
「うん……それでもいいよ」
淡く笑う雪奈の顔は今までで一番きれいに見えた。
そして次の日の朝。雪奈が死んだことがオレに伝えられた。