許可証
「……これがあれかな」
配達員から郵便物を受け取ったオレはそう呟く。いつくるだろうと思っていた物がやっときたらしい。夏休みも後数日で終わろうとする今日に。
「お兄ちゃん、郵便なんだったの?」
郵便片手にリビングに戻ると借りてきた映画を見ていた雪奈がそう聞く。
「んー……なんだったのかをここで教えてもいいんだが……雪奈、お前今日暇か?」
「宿題も終わってるし瑞菜さんも今日は定期健診らしいし……私が暇なのは見れば分かると思うんだよ」
ラフな格好でアイス片手に寝転んでB級映画見てる奴にする質問じゃなかったか。
「じゃあちょっと一緒に出かけるか?」
「もしかしてデート!?」
「……デートとはちょっと言い難いなさすがに」
場所が場所だし。目的を考えても。
「なーんだ……」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど……デートじゃないならお兄ちゃんと二人で引きこもってたほうが嬉しいんだよ」
「引きこもるって……」
不健康だなおい。
「だってこんなに暑いんだもん……外に出るのは……」
「少しくらいは我慢しろ。目的地が快適なのは保障してやるから」
「んー……分かった。それじゃ着替えてくる」
少しダルそうに起き上がり雪奈はオレの家にある自分の部屋に向かう。もともとあった部屋で寝具こそないが、着替えや勉強道具などは雪奈の家の部屋よりこっちの方が充実している。
(……少しずつ向こうの方も充実させていかないとな)
心奈さんとの和解後は雪奈の家の方の部屋もベッドしかないというひどい状況からは脱却しているが、まだまだ個人の部屋として寂しいのは確かだ。
「……とりあえずオレも着替えてくるか」
今はとにかくあそこに向かおう。
「で、お兄ちゃん。なんでこんな所にきたの?」
「そりゃお見舞いだろう」
場所は白畑病院の前。当然の疑問にオレは少しとぼけながら返す。
「いや、だから誰の……って、そもそも私たちだけじゃ入れないよね? また臨時の許可証もらったの?」
「いや、ちゃんとした許可証があるぞ」
ほら、とオレは今日受け取ったばかりの許可証を魅せる。
「それ瑞菜さんが持ってたのと同じ……なんでお兄ちゃんが持ってるの?」
「そりゃ作ったからだろう」
「だからどうやって……んー……瑞菜さんのお母さん?」
「だとしたらわざわざ許可証なんて発行せずに瑞菜と一緒にくるさ」
流石に瑞菜がいない状態でお見舞いするには繋がりが薄すぎる。
「そもそもそんなに簡単に作れるものなの?」
「簡単じゃないぞ。入院患者の家族でもなければ外の人間が作るのは不可能に近い」
「あーもー訳が分からないよ」
「まぁいいからここでこうしてても暑いだけだしさっさと入るぞ」
「んー……なんだか釈然としないというか……嫌な予感もするんだよ」
無駄に難しい顔をしている雪奈をつれ、オレは出来立ての許可証を使い院内へと入っていった。