観察25:そうなりたい
「はぁ……まぁこうなることも予想してたけどさぁ」
「そんな落ち込むなって」
屋上。そこに妙に落ち込んでいるお兄ちゃんと妙に元気そうな永野さんがやってくる。
「あれ? お兄ちゃんたち早かったね」
「うん……まぁな」
「あはは……もしかしてまた?」
「気絶はしなかったけど布団に入って出てきてくれなかった……」
「まぁ、そう焦るなって海原」
本当にお兄ちゃんと永野さんの表情が対照的だ。
「うーんと……じゃ、とりあえず私も加奈ちゃんの所に行ってくるね。昔の人はどうする?」
「私は顔出すだけにしようかな。お母さんのところに行ってとーくんが来ること伝えときたいし」
「ん。じゃあとりあえず一緒だね」
「じゃ、とーくん。永野くんとのお話が終わったらお母さんの所に来てね。病室は覚えてる?」
「ああ、分かってるよ」
「それじゃお兄ちゃん、また後でね」
そう言い残して私は屋上を後にした。
「…………………………」
「…………………………」
病室。昔の人が挨拶してすぐいなくなったため、この場には二人しかいない。そしてその間には会話がなかった。
「…………雪奈ちゃん、なにか話しませんか?」
「…………私からは話すことはなにもないよ」
ようやく交わされた会話もそれで終わってしまう。
(……うーん、やっぱり私感じ悪いなー)
こう会話が続けられないのは加奈ちゃんが好きになれないってことだけじゃない。もともと私は知らない人と会話するのは得意ではないから。
(……加奈ちゃんも同じ感じなんだろうなぁ)
そういうところまで似ている。
「……何か聞きたいことはない?」
でも苦手だからといってこのままでいたらここにきた意味が無い。私はこの大嫌いな子と仲良くなりたいんだから。
「聞きたいこと…………それじゃあ、海原さんと雪奈ちゃんはどういう経緯で今みたいな関係になったか教えてください」
「……やっぱり、お兄ちゃんの事を聞くんだね」
それはある程度想像していた。
「はい。きっと今の雪奈ちゃんを話すのには海原さんの存在は切り離せないだろうから」
「……………………」
「雪奈ちゃん。正直に言ってわたしは雪奈ちゃんのことが苦手です。……でも、だからこそ親しくなりたい……いいえ、親しくならないといけないんだと思います」
「……うん。そうだね。私たちは私たち自信のために仲良くならないといけない。そのために友だちになったんだから」
自分で言って歪んでるなぁと思う。でもそんな歪んでいる自分を好きになりたいから。だから私はわたしを利用する。
「もう一度言うね。私は加奈ちゃんのことが嫌いだよ」
「はい」
「だから……加奈ちゃんの事を好きにさせてね」
「はい……こちらこそお願いします」
友人と呼ぶには冒涜的な関係。本物には程遠い。そこから本物に近づけていかないといけない。お兄ちゃんや永野さんのような関係を築いていきたい。
(……なんだか似てるかも)
7年前のあの日、今が始まった時と。状況もそこに込められた感情も大きく違うのに。
「ふふっ……」
そう思うと自然と笑みがこぼれる。
「? 雪奈ちゃん? どうして笑ってるんですか?」
「うん。ちょうどいいからこの話をするね。私とお兄ちゃんが今の関係を始めた時の話を」
あの時とは大きく違う。でも、『そうなりたい』と思う気持ちは今もあの時も変わらない。
(……うん。だからきっと大丈夫)
きっと時間はかかるけど。それでも……。
(私たちは本物になれる)
そう信じられた。