観察24:ゆっくりと
「良かったの? 雪奈ちゃん」
病院の屋上。初夏も過ぎ本格的に暑くなり始めた時期。日も大分落ちたとはいえ少し暑い。そんな場所で私と昔の人は話していた。
ちなみにこころお姉ちゃんは夕食のお買い物だ。夏休み目前という事で景気づけに豪勢にしようという話らしいけど、様子を見るにお兄ちゃんとの事が原因なのは間違い無いと思う。
「良かったって何が?」
「とーくんと加奈ちゃんの所に一緒に行かないでって事」
「別に一緒に行く必要なんてないんだよ」
「あはは……でも心配じゃない? とーくんと加奈ちゃんが急接近するかもよ?」
「んー……永野さんが一緒だから大丈夫だと思うけど……」
それにそうなった時はそうなった時だ。どっちにしても私はお兄ちゃんと一緒にいれさえすればいい。もちろんお兄ちゃんと恋仲になれたらとは思うし、私一人を見て欲しいとも思うけど、そんなのはお兄ちゃんがお兄ちゃんな時点で無理な気がする。それにそんな事を言うには私はお兄ちゃんに迷惑をかけすぎてる。
「それに私が加奈ちゃんと一緒にいる所をお兄ちゃんに見られたくないから」
「? それはなんで?」
「自分でも引くくらい嫌な子になってるから」
私の大嫌いな子で恋敵。そんな子と表面上でも仲良く出来るわけがない。……なんで私は友達になったんだろう。
「あはは……私と一緒にいる時は気にしないのに?」
「え? 私、昔の人の前だといい子だよね?」
「…………うん、まぁ可愛いとは思ってるけどね。いい加減その呼び方はやめて欲しいかなぁ」
「えー、この呼び方気に入ってるし、別に本当じゃん」
付き合って別れたんだし。
「だからこそきついんだけどなぁ……」
「それくらいは我慢して欲しいよ」
じゃなきゃ私はこの人の前でも嫌な子にならないといけない。
「あはは……うん、そうだね」
そう言って優しく笑う瑞菜さんを見て思う。
(……もっと別の出会い方をしたかったな)
恋敵としてではなく。そうすればきっと私はこの人に甘えられたから。
「……別に今からでも遅くないか」
「? 何の話?」
「んーん。なんでもないよ昔の人」
でも、今はこういう関係も悪くない。
(別に急ぐ必要はないもんね)
お姉ちゃんが言ってたことはきっとそういう事なんだと思う。
「あはは……どうにかしてその呼び方変えてもらわないとなぁ」
「頑張ってね。昔の人」
そうからかいながら私はお兄ちゃんたちが来るのを待っていた。