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妹?観察記録  作者: 河上 誤停
悪友?編
120/165

観察22:上機嫌

「あ、とーくんおは……よう?」

朝。家の前で待っていた私はやってきたとーくんに声をかける。

「ん……あー……瑞菜か。おはよう」

「ど、どうしたの? なんだか目の下にすごいクマができてるよ?」

ひと目で分かるくらい顔色が悪い。

「そうか? まぁ、気にしないでくれ。ちょっと寝不足なだけだから。……あー、なんだか今日はいつにもまして太陽が黄色いなー」

「い、いつも通りだと思うけど……」

……おかしい。そう思った私はとーくんの後からやってきたこころさんに近づいて挨拶をする。

「ね……とーくんてばどうしたの?」

「ん? 何かおかしいかしら?」

つやつや

と、なんだか表現したくなる笑顔をしてこころさんはそう言う。

(お、おかしい……)

こっちはこっちで今まで見たことないくらいの上機嫌だ。

「ね、ねぇ雪奈ちゃん……あの二人どうしたの?」

「さぁ? 朝来たら最初からあんな感じだったよ?」

「じゃあ昨日の夜は普通だったの?」

「というより昔の人も気づいてるんでしょ?」

「あはは……それはまぁそうなんだけど」

不機嫌そうに言う雪奈ちゃんに私は苦笑いするしかない。

「でも、とーくんが死に体なのはともかくこころさんがあんなに機嫌がいいのがよく分からないんだよね」

「……そういえばなんでだろう? お姉ちゃんがこんなに機嫌良さそうなの本当に久しぶりかも」

いつものこころさんらしくない上機嫌っぷりに二人して首を傾げる。

「なに? あたしが上機嫌なのが不思議?」

「あはは……いや別に――」

「不思議だよ」

お茶を濁そうとした私に対して雪奈ちゃんはストレートに聞く。

「……今がまだ続くみたいだからね。あたしにとって辛いけど、それでも何にも代えられないくらい大切な今が」

「? 意味がわからないよ」

「……もしかして」

「瑞菜さんは分かったみたいね」

「あはは……ごめん、ちょっととーくんと話してくる」

疑問符を浮かべている雪奈ちゃんと優しく笑うこころさん達から離れ、何故か野良猫に話しかけてるとーくんに近寄る。

「ん? 話は終わったか? そろそろ行かないと」

「あ、うん。そうだね」

とーくんに話しかけられ私は生返事をする。

聞きたいことはある。でもなんて聞けばいいのか分からなかった。

「あ、そうだ瑞菜。今日加奈ちゃんの所に行こうと思ってるんだけどさ」

「うん。それがどうしたの?」

「その帰りに瑞菜のお母さんのお見舞いに行っていいかな?」

「それって……」

「瑞菜のこととかいろいろ聞いてみたいし」

「あ…………」

これは……ダメだ。これは我慢出来ない。

(……分かってるのに。もう自分が選ばれないということは)

それでも失ったと思った事が、終わったと思っていた事がまだ続くって分かったら……。

「……とーくんのバカ」

私はとーくんの腕に抱きつく。顔が見られないように思いっきり。

(……今の顔をとーくんに見せられない)

絶対に情けないくらいに緩んでるから。もしこころさんが私と同じ気持ちだとしたら、あれくらいの変化ですんでることを尊敬する。

「み、瑞菜……?」

戸惑っているとーくんの声。私はそれに答えず代わり更に強く抱きついた。

「あー! 昔の人ってば何してるの!?」

そう怒った声が聞こえたと思ったら、雪奈ちゃんが私とは逆のとーくんの腕に抱きつく。

「えへへー、なんだかこんなにくっついたの久しぶりかも」

「ちょ……雪奈まで……」

「あらあら、俊行ってばモテモテね」

「こころ! この状況どうにかしてくれ!」

「んー……あたしはどこに抱きつけばいいのかしら?……背中でいっか」

「って、お前まで……! てかお前が背中に抱きつくのはシャレにならない!」

「ごめんね俊行。あたしもまだ自制が効かないのよ……てわけでえいっ」

そう言ってこころさんもとーくんに抱きつく。

「あはは……すごいねとーくん。両手に花どころじゃないね」

「いや、笑い事じゃないって……!」

とか何とか言って、とーくんの顔が緩んでるだろうってのは声だけで分かる。

(……でも、わたしはきっとそれ以上に緩んでる)

この気持ちを抑えることなんてできそうにない。

「情けないなー」

「そんな事言われても仕方ないだろ……!」

私の呟きを自分への言葉だと思ったのかとーくんはそう言う。

「あはは……うん。とーくんも情けないよ」

そんな感じで私たちは楽しく登校できた。

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