観察20:一番目の理由
「オレのことが好きな奴には激甘か……海原のやつ言ってくれるじゃないか」
「兄様? それ、海原さんが言ってたんですか?」
加奈の病室。海原達も帰り静かになった場所で俺は海原のセリフを思い出していた。
「ああ。雪奈ちゃんのことを話している時に。海原のくせに自信有りげに言うもんだからちょっとな」
ほんのちょっとむかついた。
「雪奈ちゃんが……そういえばそんなことも言ってましたね」
「なぁ加奈。やっぱり海原のことが好きなのか?」
その感情に押されたのか今まで聞けなかったことを加奈に俺は聞く。
「はい。好き……みたいです」
「少し自信無さ気だな」
「だって、わたし海原さんとまともに話したことまだないんですよ?」
「……それもそうか」
そんな状態で断言できるほど加奈は夢見がちじゃない。
「でも、兄様に海原さんの話をしてもらう時は心が踊りました」
いろいろな話を加奈にはしてきた。その中でも海原の話は楽しそうに聞いてたと思う。
「海原さんとの手紙のやり取りは心があたたかくなります」
手紙をもらい返事に頭を悩ませてる加奈は、俺が見てきた中で一番幸せそうだった。
「だから……はい。きっとわたしは海原さんの事が好きなんです」
「……そうか」
加奈の言葉に俺は複雑な感情が渦巻く。それを飲み込み俺は口を開いた。
「なら、海原は正しかったんだな」
正直悔しいという気持ちはある。この感情は理屈じゃない。長い時間を掛けて消化していくしかない。
「それなんですけど兄様。海原さんの言っていた海原さんの事を好きな人ってのはきっとわたしのことではありませんよ?」
「ん? じゃあ誰なんだ?」
あの場で春日さんや山野さんの事を言うはずないし。
「それは――」
「――てわけでね、すっごく打算的で嫌な女の子だったよ」
「あはは……」
病院からの帰り道。オレはお前が言うなというセリフを飲み込んで瑞菜のように笑う。
「まぁでも実際、そんな相手とよく友達になろうと思ったな」
そうなるだろうとは思っていたが、ここまで悪口叩ける相手とよく友達になろうと思えたものだ。
「んー……まぁいろいろ理由はあるけどねー。でも一番大きな理由は決まってるよね」
「ふむ……オレがお前に加奈ちゃんと友達になって欲しいと思ったからか?」
違うといいなと思いながらオレはそう聞く。
「おしい。それは二番目の理由かな」
「じゃあ一番目はあれか」
「うん。……あんな妹でも友達が一人もいないってのはかわいそうだからね。永野さん」
想像通りの答えにオレはなんだかおかしくなって笑ってしまった。