観察19:激甘
「なぁ永野。お前、雪奈にどんな印象持ってる?」
屋上。雪奈はまだ加奈ちゃんの所から帰ってこず、オレはまだ永野と話していた。
「正直よく分からないな……海原が好きだってこと以外は」
「分からないってどうしてだ?」
オレはその理由が想像ついていながらそう聞く。
「海原に紹介される前に会った時が別人みたいだったからな」
「二重人格みたいに感じたか?」
「近いかもしれない。……なぁ海原、あれはなんなんだ?」
「オレもよく分かってないけどな。こころに言わせれば自己防衛の一種だとか言ってた」
「自己防衛ねぇ……それだけじゃよく分からないな」
「詳しくはこころに聞いてくれ。まぁ雪奈の境遇を考えればなんとなく分からないでもないが」
「自分とその周りだけで完結したいってことか?」
「近いな。基本的にはそうなんだろうと思う」
だからオレとこころを介した知り合いにはある程度心を開く。……それが見せかけだけであろうとも。
「近いってことはなにか違うのか?」
「これがあいつの一番厄介なとこなんだがな……あいつ、自分が大嫌いなんだよ」
「自分が嫌い? それはよく分からないな」
「……なぁ、雪奈と瑞菜って似てる所あると思わないか?」
「んー……言われてみればそんな気も……って、もしかして……」
「そゆこと。未だに雪奈が瑞菜に喧嘩腰なのはそういう側面もあると思う」
まぁ瑞菜の場合こころにも似てるなぁって所があるからあの喧嘩腰も一種の甘えみたいな部分もあるんだろうが。
「……そんな子と加奈は友達になれるのか?」
「こころが言うには雪奈と加奈ちゃん似てるらしいし大丈夫じゃないか?」
あいつが間違ったことを言うことなんてほとんどないし。オレが雪奈と加奈ちゃんが友達になれると思ったのもこれが理由だ。
「似てるって……ならなおさら難しいんじゃないか?」
雪奈は自分が嫌いなのだからと永野は言う。
「まぁ、中途半端に似てるだけなら難しいだろうけどな。よくて雪奈と瑞菜みたいな関係になるのが精一杯だろう」
でも……。
「あのこころがわざわざ言うくらいに似てるんなら大丈夫だろう」
「? そこまで似てたら絶望的なんじゃないのか?」
「あいつはあれで結構打算的なんだよ」
「はぁ……それが?」
「だから自分の目的に合うなら自分の感情も無視する」
「……訳が分からない。その目的ってなんだよ?」
「あいつは自分が好きになりたいんだよ」
「…………なるほど」
「加奈ちゃんもそういうところあるんじゃないか?」
「……そうだな」
だからこそ二人が本当の意味で友達になれたらと思う。
「……二人が友達になれたらいいな。海原」
「ま、大丈夫だろう。二人が似てるって事以外にもオレが自信持つ理由がある」
「? まだあるのか?」
「あいつはな――」
「お兄ちゃん帰ろー」
バタンという音とともに扉が開き屋上に雪奈がやってくる。
「――オレのことが好きな奴には激甘なんだよ」