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妹?観察記録  作者: 河上 誤停
リア充?編
11/165

観察10:歓迎会

「それで? どういうつもりか答えてくれるか?」

自宅。期待に違わずオレの家に当然のごとくやってきたこころにオレは問い詰める。

「俊行の家にお世話になるつもりなのよ」

……普通にいわれましたが。

「じゃあ質問を変える。何で他人の家にお世話にならないといけないんだ?」

「家庭の事情よ」

「……その家庭の事情をきいてんだが?」

「はぁ……男のくせに小さいこと気にするのね」

「おあいにくさま、オレと雪奈にとってはお前のことは大切なことだからな」

それこそ俺と雪奈が互いに必要としている事くらいには。

「……恥ずかしいやつ」

「うるさいよ」

言いたいことをずけずけ言う所は本当にあの頃と変わっていない。

「まぁ少し詳しく言うと、今回の保護者はこの辺りに住んでないのよ」

「……だったら何でわざわざこっちに転校して来たんだよ?」

「そこまで言わないとダメ?」

「じゃあ質問を変える。どうしてオレ達がどこに進学したか知ってんだ? あの日以来、オレとも雪奈とも連絡とってなかったろ?」

「住んでるところが分かってたらそれくらい調べるのは簡単よ」

まぁどこに進学したかとかは制服見れば赤の他人でも分かる。それこそ探偵でも何でも雇えば一発だ。

「それで? 結局あんたはアタシを追い出すの? 別にアタシは野宿でも大丈夫だし、嫌だったらそう言ってくれていいのよ」

「誰もそんなこと言ってないよ。お前には借りがあるし」

そう。こいつには借りがある。一生かかっても返せないような大きな借りが。

「それがなくてもオレ達はお前のことが好きなんだ」

そうした義理とかを無視しても、オレ達がこころを見捨てることは絶対にない。

「……かなり恥ずかしいやつ」

「雪奈も全く同じ事を言うと思うけどな」

雪奈と瑞奈は今買い物に行っている。こころの歓迎会の準備だ。それでもこの場に雪奈がいたらオレと同じ事を言う事は簡単に想像できた。

「恥ずかしい兄妹」

「お前のおかげでな」

皮肉でもなんでもない。オレが雪奈と一緒にいるのはこころがいたからだから。終わってしまったはずのオレと雪奈の関係を繋げたのはこころだから。

「改めて言っとく。ありがとうこころ」

「…………バカ」

珍しくこころの恥ずかしがってる顔が見れて、なんだか得した気分になったオレだった――


――と、少しだけいい気になってたんだが……。

「うにゃー、お兄ちゃ~ん」

「ひっく……くすん……私もお姉ちゃんて呼ばれたい」

「あれ? もうお酒空になってる。……俊行あんた少し走って買って来なさい」

「……ちょっと待て、この状況は何だ?」

少し状況の整理をしよう。まず、ここはオレの家だ。で、こころの歓迎会をやってたはずだ。ある程度ご飯を食べた後はトランプをしたり遊んで……。

(……ここまでは問題ないよな)

問題はこの後か。というかアレしかないよな。

(王様ゲーム)

正確には王様になったこころの命令が問題だった。



「という訳で王様ゲームすることにしましょうか?」

「……どういう訳だよ? こころ」

「何よ? 主賓の頼みが聞けないの?」

「聞けないことはないけど……雰囲気によってはかなり厳しいだろ」

発案者と周りのテンションの差が激しくなりやすいゲームだ。

「大丈夫でしょ? このメンバーなら」

問題があるとしたらこの場に男が一人ということだけか。いや、それが致命的な問題な気がするけど。

「それで? くじは?」

「もちろん既に用意してる」

「……ただの思いつきじゃないのか」

すごく嫌な予感がする。

「とにかくさっさと引きなさい」

「仕方ないな……」

「あれ? もしかして王様ゲーム? 王様なれるかなぁ」

「とーくん、もしとーくんが王様になっても変な命令しちゃだめだからね」

思い思いの言葉をいいながらも抵抗なくみんなくじを引いていく。

「……変な命令さえなければ大丈夫か」

それなりに盛り上がるかもしれない。

「「「「王様だ〜れだ?」」」」

お決まりの台詞を言い、くじを見る。王様は……。

「アタシみたいね」

「こころか……」

一番王様になったら危険そうな奴がいきなりなってしまった。

「こころ……少しは手加減しろよ?」

「大丈夫よ大丈夫。そんなアウトな命令はしないから」

「……ならいいけど」

本当に大丈夫か?

「じゃ、命令言う。1番から3番まで、このウィスキー飲みなさい」

……どこから突っ込めば良いんだろう? とりあえず順番に突っ込むか。

「1番から3番までってどういうことだよ?」

「全員ってことよ」

いや、なんでそんなに堂々としてるの?理不尽にもほどがあるよ?

「じゃウィスキーってどういうことだよ? お酒は二十歳からって知らないのか?」

「知らない」

こいつ言い切りやがった。

「心配しなくてもちょこっとだから大丈夫よ」

量じゃないだろ問題は。というかどこから持ってきた。

「ていうか普通に無効だろ」

「何よ。王様の言うこと聞けないって言うの?」

なるほど……こうして歴史の中で革命というものが繰り返されてきたんだな。

「100歩譲ってオレが飲むのはいい」

少しだったら正月の行事でお酒飲むこともあるだろうし。

「だけど雪奈と瑞菜が飲むのは本人が許可しないとダメだ」

「ふーん……雪奈、 どうする?」

「お姉ちゃんの命令だったら何でも聞くよ」

「じゃあ……瑞菜さんだっけ? アナタは?」

「とーくんが飲むんだったら私も飲むよ」

「だってさ。これで文句ないわね?」

ないわけないんだけど……まぁ少しなら大丈夫か。

「じゃあコップ一杯に注ぐから三人で回して飲みなさい」

「……小さいコップとはいえストレートかよ」

「鼻を摘まめば大丈夫よ」

いやそんな問題じゃないから。

「これに均等に移せ」

オレはコップ二つ持って来て移すように言う。

「うぅ……お兄ちゃんと間接キスのチャンスが……」

ないから。

「仕方ないわね……」

しぶしぶと、こころが3つのコップに均等になるように移していく。

「で、水を限界まで入れて」

そう言ってオレは水で割っていく。

「これで少しは飲めるものになったかな」

正直ここまで薄めるともったいなく感じるが、アルコール自体ほとんど初めての奴らにウィスキーストレートとか正気の沙汰じゃない。

「……あんたまるでウィスキーを飲んだことあるみたいな感じね」

「気のせいだろ」

「よく分かんないけど、もう飲んでいいんだよね? お兄ちゃん」

「ああ」

本当はダメだけどな。

「うぅ……やっぱりキツいな」

これをストレートで飲むなんて正気の沙汰じゃない。

「うぅ……胸が熱いよぉ」

「と、とーくん……もう少し薄めて欲しかったかも」

しかしよく飲めたな。瑞菜の言う通り、初めてならまだ薄めた方が良かったかもな。

「よし、みんな飲んだわね」

「お陰さまでな」

「王様の命令は絶対だから当然よ」

そう言いながらこころはまたコップにウィスキーを注いでいく。

「……なにしてんだよ?」

「何って、飲むのよ」

「誰が?」

「アタシが」

「何で?」

「飲みたいから」

さっきのは百歩譲ってゲームの中の事にしても、これはどう考えてもアウトだ。

「まぁ、あんたは気にしなくていいわよ」

「……つかまっても知らないからな」

「大丈夫よ。アタシ、法律なんてしらないし」

「止めなかったらオレも危ないんだけどなぁ……」

「あんたにアタシが止められるの?」

「無理だから困ってんだよ」

話ながらもこころはコップを空にしていく。

「……どうなっても知らないからな」

「ご忠告どうも」

そんな感じで10分後。


(……こんな惨状になってしまったと)

「こりゃ、もうお開きだな」

「何言ってのよ? 王様ゲームはこれから盛り上がっていくところでしょ?」

むしろぐだぐだになると思う。

「じゃ、続きはじめますか!」

「了解だにゃーお姉ちゃん」

「いいなぁ……私もお姉ちゃんてよばれたいなぁ……くすん」

雪奈ネコ化してるし、瑞菜なんか泣いてるし。

「……帰りたい」

そういえば家ってここだったなぁと思うオレだった。


「にゃー……にゃー……」

「うぅ……くすん……」

雪奈ネコ化。瑞菜泣いてる。

「帰っていいか?」

「ここはあんたの家でしょ」

なに馬鹿なこと言ってのよ? って感じでいいながら、こころは焼酎の瓶を空にしていく。

「……そしてお前は何を当然のように焼酎飲んでんだよ?」

「だってウィスキー空になったんだもん」

「……もういいです」

こいつに何を言っても無駄なのは最初から分かってる。

「てか、マジでこの状況で王様ゲームなんてことするのか?」

「何よ? なんか問題ある?」

「あの二人思いっきり酔ってるだろ?」

「あー……本当ね。たったあんだけでよくあんなに酔えるわね」

「むしろ雰囲気に酔ってるのかもな。酒は酔っ払うものだって意識があったのかも。それにずっとテンション高かったから、ちょっとしたきっかけで理性が崩れやすくなってたとか」

「そんなもんなの?」

「知らん」

適当に理由つけてみただけだ。

「まぁとにかく、あの子達は酔っ払っていると」

「そうだな」

「やっぱり王様ゲームしかないじゃない」

「どうなっても知らないからな」

「とにかく始めるわよ」

「はいはい。主賓の言うことは聞いてやるよ」

こうして危険な状況で王様ゲームなんていう爆弾が投下された。



「王様は……アタシね」

「またお前かよ……」

「でもさ、俊行。なんでアタシって王様なの? 王女とか女王とかじゃなくて」

「そんなことにいちいちケチつけるな。さっさと命令を言え」

「じゃあ………1番が……」

オレは2番だからとりあえず大丈夫か。こういうのは何かをする方が恥ずかしいからな。

「2番を社会的に抹殺する」

大丈夫じゃありませんでした……。

「1番は誰?」

「私だにゃー」

雪奈か……。

「じゃ、2番は?」

「……オレだよ」

「じゃ雪奈。俊行を社会的に抹殺してちょうだい」

「了解だにゃー」

「了解すんなよ!? 何する気だ!?」

「お兄ちゃんはにゃにもしにゃくていいよー」

「すっごく嫌な予感がする……」

「お兄ちゃんを社会的に抹殺すればいいんだよね?」

「手段は問わないから」

問えよ。いやお願いします手段を選んでください。

「じゃあいくね………『私はお兄ちゃんにょ奴隷でペットです。お兄ちゃんに調き―――」

「うわー!! 放送事故放送事故!!」

「―――ょうされてます。家に帰るといつもご主じ―――」

「待て! 本気で待て! それ以上はアウトだ! outだ!」

「―――ん様と呼ばされています』」

「………何を言い出すのかな? 雪奈」

「今の携帯で録音したにゃ。これを学校とかで流したらお兄ちゃんは破滅にゃ」

「思いっきり嘘じゃん……」

「でも、俊行みたいなさえない男になんで雪奈がなついてるのか、みんな納得できるじゃない」

「本当に破滅だな!!」

マジでしゃれになってない。

「後で今の録音したのは雪奈にもらうとして……次行くわよ」

「うぅ……もう勘弁してください」

「何言ってのよ? まだ始まったばかりでしょ?」

「そんなの関係ないくらい疲弊しました」

「知らない。じゃみんなくじ引いて」

オレ以外の全員がくじを引いていく。

「じゃ、最後に余ったこれが俊行のね」

そう言って手渡されたくじの番号は3番だった。

「うぅ……やるしかないのか……」

「あら? またアタシが王様ね」

「怖いよぉ……恐いよぉ……」

「なんか俊行が壊れてんだけど……まぁいいか。じゃあ1番が……」

「くすん……あれ? 私だ」

瑞菜が1番か……。

「3番を社会的に抹殺する」

「同じ命令かよ!? そして狙ったようにまたオレか!?」

「あんたも不運ねぇ……」

「チートしてないよな?」

「確率は3分の1なんだからおかしくないでしょ」

確かにおかしくない確率だけど……。

「くすん……とーくんを殺せばいいの?」

「あのぉ……瑞菜さん? 社会的にですよ? だからその果物ナイフはしまってくださいね? オレまだ死にたくないですよ?」

「くすん……じゃあ社会的にとーくんを貶めればいいんだね?」

「いや……うん。そうなんだけど……」

やっぱおかしくね?

「じゃあ、とーくんとの想い出を言うね」

「は? それが何でオレを社会的に殺すんだ?」

「うん実は私……『とーくんに濡らされて服を脱がされたり―――」

「え? 何それ? そんなことあったか?」

「―――下着の中に手を入れられて探られたりしました』」

「いや、オレ知らないですよ?」

「「うわー……」」

「オレはそんなこと知らないからな!」

「くすん……とーくんてば私をお嫁さんにいけない体にしたのに……」

「いや、マジでオレ身に覚えないし」

「うぅ……とーくんてば秘密基地でのこと忘れたの?」

「?……ぁ……」

そう言われればあった。でもあれは……。

「あれは水遊びしてたら瑞菜の服がびしょびしょになったから脱いだ方がいいんじゃないかって言っただけだし、下着に手を突っ込んだのはカエルが入ったから瑞菜がおびえてオレにとってって頼んだんじゃないか」

オレに罪はない。だいたい小学生にもなってない頃の話だろ。

「でも、そんなこと、録音したの聞いただけの人じゃ分からないわね」

「録音ってこころ……」

まさか……。

「もちろん録音したわよ」

やべぇ……マジで破滅だ。

「はい。なんか死にかけてる俊行は無視して次いくわよ」

これ以上はやめてくれよ……?

「あら? またアタシが王様ね」

「チートだ! 絶対チートしてんだろ!?」

「してないわよ……たぶん」

「嘘だっ!!!!」

「い、いや俊行……なんか怖いから……」

「だったらやり直しを請求する」

「わかったから。もう一回引きなおしましょ?」

「今度はオレから引く」

「わ、分かったから。なんか本当にあんた怖いわよ?」

オレは1番にくじを引く。結果は……。

「ふ、ふふ……来た……王様だ……」

「い、いや、俊行? 目がなんかいってるわよ?」

「こころ……お前3番だろ?」

「な、何で分かるのよ?」

「いや、あてずっぽうだったが……なるほど、こころは3番か」

「しまっ……」

「じゃあ、1番と2番が全力で3番をこちょこちょだ」

「了解だにゃー」

「くすん……こころさんを発狂するまでこちょこちょするんだね」

「い、いや……来ないで……」

「じゃあオレもう寝るわ。後かたずけよろしくな」

「おやすみお兄ちゃん」

「とーくんまた明日ね」

「ああ。おやすみ」

オレはそのまま自分の部屋へと戻った。途中で悲鳴だか笑い声だかわからない叫びが聞こえたが当然無視した。

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