観察8:知られたくないこと
「あはは……なるほど。永野くんが言ってたことはこのことなんだ」
白畑病院前。永野とオレに三人娘の5人組はそれぞれの考えを巡らせながらその建物を見ている。
「ねぇ、俊行。ここって病院?」
「まぁ、見ての通りだな。もしかしてお前は知らないか」
「知らないって何? もしかして有名な病院?」
「お姉ちゃんも名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな。白畑病院って」
「知識としては……って、そうか。白畑の本社の近くにあるって話だったわね。そっかここが……」
「この街近辺に住んでてここを知らない人はいないだろう」
同時に来ることもほとんどない。そんなちぐはぐな場所だ。
「それで? どうしてここに?」
「俺の妹がここに入院しているんだ。海原には一緒にお見舞いして話し相手になってもらってる」
「といってもまだ加奈ちゃんとまともに話したことはないがな」
「……やっぱり女絡みだったわね」
「むぅ……お兄ちゃんの浮気者」
「否定はしないが……そんな色気のある話じゃないってのも想像つくだろ?」
可愛いのは認めるが、ここにいるってのはそう簡単な話じゃない。
「……とにかく永野。ここでこうしてても仕方ないし早く入ろうぜ」
「ところがだな海原。ここで一つ問題があるんだ」
「はぁ? 問題ってなんだよ?」
いきなり。
「ここには許可証がないと入れないってのは知ってるよな?」
「それはな。オレは永野と一緒だったから入れたんだよな確か」
許可証を持っている人とその人が連れてきた人だけが入れる仕組みらしい。
「それ、俺の許可証じゃ二人までしか一緒に入れないんだ」
「…………は?」
「一応研究機関でもあるし、ここでは元気そうに見えるかもしれないが重病人たちの集まりだ。流石に大勢で押しかけるのは無理なんだよ」
「言われてみればそうだが……だったら最初からそう言えよ」
瑞菜たちを連れてくる前に。
「えっと……もしかして私やお姉ちゃん入れないの?」
「このままじゃそうだな」
「どうにかならないわけ?」
「事前に伝えとけばどうにかなっただろうけど今からじゃ無理だな」
「……どうすんだよ」
手詰まりじゃねぇか。
「あはは……まぁ大丈夫だよ」
「瑞菜?」
「こころさんと雪奈ちゃんは私の許可証で入れるよ」
「言うことにしたんだ。春日さん」
「まぁ、ずっと隠し続けられることでもないしね」
「……瑞菜。とりあえず説明」
「あはは……了解だよ」
「というわけで、ここには私のお母さんが入院してるの」
「はぁ……そんな大事なことはもっと早く言えよ」
瑞菜の母親のこと、そして瑞菜自身のこと。それらを聞いた俺は大きくため息を付いた。
「あんまり知られたくないってことなのは分かるよね?」
「幼馴染に黙っていてほしくないってことも分かるだろ?」
「あはは……それを言われると痛いけど」
誤魔化すように笑う瑞菜を見てオレはまたため息をつく。
「とりあえずお説教はまた後だ。とにかく入ろう」
「あはは……逃げたいなぁ」
そんな瑞菜のつぶやきは無視してオレたちは白畑病院へと入っていった。