観察6:力が抜けて
「ただいまー」
病院からの帰宅。あの後は特に問題もなく永野に見送られオレは家へとたどり着いていた。
「あ、お兄ちゃんおかえり~」
ぱたぱたと音を立て雪奈が出迎えてくれる。
「って、あ……」
……雪奈を避けるために時間つぶししてたはずなのにすっかり忘れてた。
「? どうしたのお兄ちゃん?」
「いや……なんでもない」
……まぁ、そこまで無理に避ける必要はないのかもしれない。
(理想としては永野みたいな兄になることだな)
今日のお見舞いで雪奈にどう接していけばいいか分かった気がする。離れすぎず近すぎず。でも大切に。そうすることが普通の兄なんだろう。
(……それだけじゃきっと雪奈は救えないけれど)
でもオレにはきっとそれだけしかできない。
「……がむしゃらにやってたらまた違ったのかね」
「? お兄ちゃん?」
「といっても今までも精一杯やってきたしなぁ……」
「んー……?」
「こころも帰ってきてもダメだったしこれ以上どうすればいいかという……」
「おねーちゃーん! お兄ちゃんがなんか壊れてるー!」
『壊れてるのはいつものことじゃないあんた達兄妹は』
「「普通に酷いな(よね)!」」
「おかえり俊行」
すたすたとエプロン姿のこころがやってくる。ちょうど夕食を作っていたところらしい。
「……普通に今のひどい発言はスルーか」
「意外に早かったのね」
「……本当にスルーなんだね。? でもお姉ちゃん早いって? いつもと比べたら遅いくらいじゃないかな?」
「まぁ、思ったより時間潰せなくてな。明日からもこれくらいの時間になるかも」
「ふーん……それでいいのね?」
「悪いな。わざわざ頼んだのに」
「別にこの時間くらいでもおもりが必要なのは変わらないしね」
「?? なんの話してるの?」
オレたちの会話を雪奈は疑問符を浮かべて眺めている。
「これからはちょっと一緒に帰れそうにないって話だよ」
「えー……そんなのつまんない」
「あんたの面倒は私が見るから安心しなさい」
「んー……でもやっぱりお兄ちゃんがいないと寂しいよ」
「お前本当に子どもだな……その分はちゃんと夜に相手してやるから安心しろ」
「んー……じゃあ七並べしようね」
「また地味なのを……まぁいいが」
その時は瑞菜をよんで遊ぶのもいいかもしれない。いい加減二人にも仲良くしてもらわなきゃ困るし。
「……なんか、俊行良い感じに力抜けてるわね」
「そうか?」
「ええ。昨日とは大違い」
「んー……まぁ、難しく考えても仕方ないしな。雪奈のことは」
加奈ちゃんと永野の関係を見てるとそう思った。
「? 私の話?」
「さぁな。それでこころ。夕食はすぐ出来るか?」
「少しかかるわね」
「ん、じゃあ手伝うよ。雪奈も手伝うよな?」
「むー……お兄ちゃんが帰ってくるまで手伝ってたし当然なんだよ」
「というかあたしのほうが手伝いって感じだったけどね」
「それもそうか」
もともと我が家の家事担当は基本雪奈だし。
「てわけで、さっさと作ってさっさと食べるぞ。少しお腹が空いた」
「「了解」
こうしてオレたちは夕食作りを再開するのだった。