第12話「欠けたまま」
朝、同じ場所にいた
昨日と同じ時間のはずだった
そう思うだけで、確かめる方法はない
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空気は変わらない
温度も、匂いも、音も
全部が“昨日の続き”みたいに並んでいる
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隣に、いる
それも同じ
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「早いな」
声がする
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「たまたまだ」
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同じやり取り
少しだけ安心する
何も変わっていない気がする
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「なあ」
そいつが言う
⸻
「今日もやるか」
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「何を」
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「半分」
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意味は通じる
昨日の続き
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「ああ」
頷く
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それだけで足りる
それ以上の確認はいらない
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広場に人が集まる
距離が少し近い気がする
でも、
もう誰も言わない
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一、二、三――
⸻
数える
途中まで
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「……三十六」
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同じ数字
同じ場所
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「なあ」
そいつが言う
⸻
「これでいいのか」
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「いい」
すぐに答える
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「……そうか」
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それで終わる
それ以上は続かない
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沈黙が落ちる
短い
短いはずなのに、
少しだけ長く感じる
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視線を上げる
白い布
揺れている
⸻
奥に、
何かいる気がする
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でも、
今日は見えない
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何もない
⸻
「なあ」
声がする
⸻
横を見る
⸻
誰もいない
⸻
さっきまで、
確かにいた
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言葉も、距離も、音も
全部あった
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でも、
今はない
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最初から、
なかったみたいに
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立ち上がる
理由はない
ただ、
その場にいられなくなる
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周りを見る
人がいる
いつも通り
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数える
今度は最後まで
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一、二、三――
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止まらない
止めない
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八十七
⸻
変わらない
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減っていない
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おかしくない
⸻
何も、
おかしくない
⸻
さっきまでの“何か”を考えようとする
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誰かと話していた気がする
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何を話していたのか
どんな声だったのか
どんな顔だったのか
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何も浮かばない
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空白だけがある
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でも、
その空白に違和感がない
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「……」
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言葉が出ない
⸻
出す必要もない気がする
⸻
視線が動く
白い布
⸻
揺れている
⸻
その奥に、
一瞬だけ、
誰かの輪郭が見える
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手が動く
⸻
振られている
⸻
こっちに
⸻
少しだけ迷う
⸻
それから、
手を上げる
⸻
返す
⸻
それが自然な気がした
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誰に向けたものかは、
わからないまま
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布の奥は、
もう何もない
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最初から、
誰もいなかったみたいに
⸻
広場に戻る
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
それだけが、
確かだった
⸻
さっきまでの時間は、
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――
⸻
思い出そうとした瞬間、
その必要すら、
消えていた




