第2話 居眠りと唐揚げ
春というのは、眠たくなる季節です。
――…ら、う…はら
――歌原、起きろぉ!
突然、名前を呼ばれた気がした。
「はへっ?」
机に突っ伏していた顔を上げる。
隣の親友、ルナが小声で耳打ちする。
『ルナ、前!』
5限はたしか国語の授業だったはずだが、黒板は数式の羅列に変わっていた。
――歌原、私の授業で寝るとは良い度胸だなぁ?
数学の担当、もとい1年2組の担任である風真先生はそう言うと白のチョークを親指でバキバキッと折る。
「あ…いや、国語の授業だと思ってました…」
「あっ」
思わず口を塞いだが、
――国語なら寝て良いと…?
風真先生のこめかみに血管が浮き出ている。
隣のミコトは手で顔を覆う。
3秒間の静寂。
――歌原ルナ。
裁判官、口を開く。
「はひっ!」
彼女に下された判決は、
――あとで職員室に来い。
当然、[有罪]だった。
「やっと解放されたぁ〜!」
1時間こっぴどく叱られたルナは、職員室を出ると笑顔を取り戻していた。
足早に教室に戻ると、ニコニコのモモとゲンナリしてるミコトがいた。
“ルナっち、おかえり〜”
『ホント、ルナしっかりしてよ…』
「ごめんってぇ〜」
ルナ、両手を合わせて必殺のウィンクを発動!
『早く帰るぞー』
“モモも〜”
効果は無かったようだ…
「怒られたから腹減ったぁ〜」
帰り道でルナは愚痴る。
すると、ミコトは腕時計を見ながら一言。
『いつもの商店街行くか』
その左で目を輝かせるモモ。
“モモ、『たべろう』の唐揚げ食べたいかも!”
「いいねぇ行こう!」
彼女らは駅を通り過ぎて商店街へ進む。
土屋商店街。
この町最大のアーケード街で、数々の店が軒を連ねる活気ある場所である。
「ここに来るのは久しぶりだわ」
“モモ、お腹すいたぁ〜”
『えっと…『たべろう』は――』
「あれじゃね?」
左前を指差すルナ。
その先にはのぼりに『たべろう』と大きく書いてある店があった。
「ほら、はやく行こうぜ!」
走り出すルナ。追いかけるミコトとモモ。
――へい、らっしゃい!
「おっちゃん、唐揚げ300gちょうだい!」
すると、『たべろう』の店主は唐揚げを揚げ始めた。
しばらくして、
――あいよ、毎度あり!
紙袋いっぱいの唐揚げをルナに手渡した。
「ありがとう!」
笑顔でルナはそう答えた。
土屋商店街の近くの公園に移動したルナたち。
「さてと、さっそく――」
「『“いただきます!”』」
爪楊枝でアツアツの唐揚げを食べる3人。
「あふあふでほいひい!」
“ほいひー!”
『ちゃんと食べてから言いなさいよ…』
ミコトは握りこぶしくらいある唐揚げを思いきりかぶりつく。
『あふっ…』
中からは湯気が出ていて、ついさっき作られたという事は誰が見ても明らかだった。
ミコトはしっかり口で噛み締める。
『一度噛むと高音で揚げられた皮のカリッと感を感じるんだけど、噛み締める度にモモ肉の柔らかさと旨みを感じられて――』
『…しあわせ♡』
「食べたぁ…!」
ルナたちは食べた後、ベンチでゆっくりしていた。
“食べたねぇ〜”
「今日は居眠りして怒られたけど、唐揚げ食べれたからどうでも良くなったわぁ」
『…ルナは元から気にしてないでしょ』
「それは聞き捨てならんなぁ!」
“そういえば明日の小テストどうしよかなぁ〜?”
3秒の静寂。
「え、テスト?」
『ルナは国語の時間寝てたから知らなくて当然よ』
『――明日、朝一番に国語の小テストがあるのよ』
ルナの脳内、白紙になる。
「…へっ⁉︎」
“範囲は授業中にノートとった所でしょ?”
『えぇ、そうよ』
ルナ、すぐさま土下座の体制へ移行。
「お願い、ノート見せて!」
『“いやだ♡”』
明日の国語のテストまで、残り12時間。
歌原ルナに未曾有の大寒波、接近中。




