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女子高生、ただチルく飯を食う。  作者: 片桐 りのん


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10/11

第10話 平日の禁断、すなわちサンデー。

――マスター。

――[いつもの]、あるかい?

 赤いドレスを纏った女は微笑んで言う。

 カフェベストを着た白髭を蓄えている老人は静かに頷き、何かを作り出す。

 数分後、女の前に差し出される何か。

 それは、カクテル。

 グリーンペパーミントリキュールの鮮やかなエメラルドグリーン、底に沈むマラスキーノチェリーの大胆な赤。

 その名は――[青い珊瑚礁]。

 彼女はコースターの上に置かれたカクテルをしばらく見つめると、

――マスターの作るカクテルは、モノクロでつまらない世界を唯一彩ってくれる存在だよ…。

 そう呟き、口に含む。

 ここは限られた人しか知らない、秘密のカフェ。

 渇きに飢えた客が、今日も密かに癒されにやってくるのであった――


「くうっ、シビれる〜!」

 歌原ルナ、16歳。

 彼女はテレビで流れている映画を観ていた。

 前回行ったモモとの映画鑑賞会によって、映画ブームがやってきていたのだった。

「――[いつもの]、あるかい?」

「って、あたしも言ってみたーい!!」

 映画やドラマに感化されやすいタイプ。

 彼女は言ってみたい。

――[いつもの]、あるかい?

 思案する事、早5秒。

 閃く。

「言える場所、あるじゃん。」

 彼女は決意するのであった――


 翌日、土屋商店街付近。

 放課後にルナは喫茶店の扉の前にいた。

 今回は1人で訪れた。

 理由はシンプル…あのコールが人前、友人の前なら尚更恥ずかしいお年頃だからである。

 [カランカラン]

 ドアベルの音とともに喫茶店へと入っていった。


――どうも、いらっしゃい。

 マスターの柔らかな声が聞こえた。

 幸い、店内には誰もいないようだった。

――お久しぶりだね。

 マスターは以前の来店を覚えていたらしい。

 正直、恥ずかしい。

 でも言わなければ、来た目的が消えてしまう。

 深呼吸をする。

 自分を取り繕え。

 あの映画の赤いドレスの妖艶な女を演じろ。


「マスター」

「[いつもの]、あるかい?」

 言った!言った!言った!

 恥ずかしさと興奮、喜びが押し寄せ混ざる。

 マスターの反応は――


――[いつもの]、ですね。

 先ほどと同様、微笑みながら答える。

 ルナはカウンター席に座る。

 しばらくすると、何かが目の前に置かれた。

 ゆっくりと視線を上げる。


――こちら、[サンデー]になります。

 

 底の浅い丸い器に、2つの異なるアイス・ソフトクリーム・チョコソース・イチゴ。

 あの映画とは、全くの真逆。

 しかし、抗えぬ魔性の魅力。

 チョコソースのかかったアイスとイチゴをスプーンで掬う。

 食べる。


 瞬間、世界が彩られていく。


 脳に来たるは甘みの暴力。

 『甘い』が…神経を、脊髄を、血液を満たしてゆく。

 スプーンが止まらない。

「――しあわせぇ♡」


 あっという間に完食した。

 気がつくと、マスターがルナの食べっぷりを見て微笑んでいた。

――満足してもらえて、嬉しい限りだよ。

 ルナは素直な疑問をぶつける。

「なぜ、[いつもの]でこれが?」

 マスターは言う。

――私もね、映画をよく観るんだ。

――あそこでは[いつもの]は、よく言うでしょう?

――だからね、これは時代に取り残された者のちょっとした『遊び心』だよ。


 彼女は喫茶店を出た。

 風が涼しい。

 ルナは感じていた。

 あのマスターは、『時代に取り残された』と言っていた。

 けれど、本当は『時代を守っている』のではないか。

 と。

「あたしは、まだガキだからよく分かんねーや」

 [青い珊瑚礁]を嗜むのはもう少し先でいいや、と思う16歳の甘い1日。

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