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女子演劇部  作者: くろっこ
第一幕 悪役令嬢は舞台袖から

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1/5

1 いきなりスポットライト (1)

「高校で麻雀部に入部するぞ!」

 志望校を決める時に部活動一覧で「麻雀部」の文字が目に入った。聞いたことがない部活だった。それまで麻雀には興味がなかったけれど、調べてみると、ただの大人の遊びではなかった。論理的思考、状況判断、心理の読み合い、集中力。最近では小学生や高齢者にも裾野が広がっているとか。周囲からは「普通の部活にしなさい」と反対されたけれど、私の高校生活は麻雀三昧になる予定だった。

 だった? そう、だった。過去形である。合格通知が届いた数日後、中学の親友の里那りなからLINEが届いたからだ。

「麻雀部、賭け麻雀で廃部になったらしいよ」

 はっ? 今日、入学金を払ってしまったのだが・・。「麻雀部が廃部ならお金を返して下さい」とは言えないだろうな。「一度払い込んだ入学金・授業料・施設費などは一切払い戻ししません」と書いてあったし、両親は別の高校を希望したのに、私が麻雀部があるからと押し切ったから相談できないし。



 今日は入学式。麻雀部がない高校の正門をくぐった。改めて麻雀部がないことを実感する。いいんだ、いいんだ。世の中には麻雀部がない高校の方が多いのだから、普通の高校へ行くと思えばいいんだよ。私は普通の高校へ通う普通の女子高生、桜丘朱萌さくらおかあけもだ。


 新入生の部活勧誘が活発だ。グローブとバットを持っているのは野球部。ボールを持っているのはサッカー部とバスケ部。バレー部は近くにいないな。

 書道部は筆を振っている。筆やすずりは振るものではない。硯なんて、うっかり手が滑って投げてしまったら危険だろう。入学早々、間抜けなニュースで学校名が有名になるのは嫌だ。

 やる気がなさそうにサックスを持っているのは吹奏楽部。勧誘したいのに元気がないのはどうなのか。吹奏楽部に入部しても、サックスは希望者が多くてチューバやホルンに回されそうだ。中学にそういう子がいたから知っている。その後、ホルンの子は「裏拍の伴奏が多いけれど楽しいよ」と言っていたからいいけれど・・。


 踊っているダンス部の近くにはスマホを構えている人がいる。

「TikTok用のダンスのコツを教えます!」

 そんな甘言に釣られる人がいるのか。あっ、いるんだな。


 ギターとベースを肩にかけている茶髪の人は軽音部。さすがにドラムはない。朝から叩いたら近所迷惑だ。ギターとベースの人だってアンプがないから音を出していない。

 眉間にしわを寄せるのがカッコいいとでも思っているのだろうか。泣くのを我慢しているように見える。でも、同じ表情でも、あれでつま先から頭のてっぺんまで見られたら、因縁をつけられているようで怖い。


 何か光った。

「YouTubeの編集を教えます!」

 映画部か。高そうなカメラを持っている人の隣には、レフ板を持っている人がいる。レフ版が朝日を反射したのか。ダンス部で習ったダンスを映画部の技術で撮ればいいのではないか?


「秋のコンクールに向けて、今からレギュラーを目指そう!」

 何も持っていない。何部だ? あっ、歌い始めた。『夢の世界を』だ。合唱部か。わかったところで入部しないから。


 恐らく、どれも人気の部活なのだろう。それはわかる。わかってはいるけれど、麻雀部以外は眼中にない。どうして廃部になってしまったのか・・。いや、賭け麻雀というのは聞いた。理由は知っている。私が言っている「どうして」は理由ではない。

 校舎の入口まで、もうすぐだ。目ぼしい部活がないまま入学式がある講堂へ向かうしかない。あぁ、高校生活をどうしようかな。うちの学校はバイト禁止だから、バイトに明け暮れるわけにはいかない。学生は勉強が本分か。3年後には大学受験だから。学歴を否定する人もいるけれど、学歴は努力の証だ。学生時代に努力しなかった人は入社後も努力しないと思われてもおかしくない。自分が勉強をしないでおいて、勉強をした人と同等に扱えという要求は理不尽だ。



 カシャーン!

 乾いた音が斜め前から響いた。映画の撮影で見かけるクラッパーだ。映画部は、さっき通り過ぎたはず。

 ロングヘアの大人びた女性が私へ一直線に向かって来る。いや、私へというのは傲慢だ。私の後ろの方にいる人に向かっているかもしれない。道路の向こう側にいる人に「おーい!」と手を挙げたのに、タクシーが止まってしまう場合もあるそうだが、私はそういう運転手と一緒にされたくない。


「あなた、新入生ですよね?」

「はい」

 女性が向かう対象は私であった。年上なら、あるいは先輩なら、敬語を使わなくていいという風潮もある。しかし、面識がない人には敬語を使うべきだと私は思う。この人は私を新入生だろうと思いつつ、丁寧語で話しかけてくれた。余裕を見て登校したし、不特定多数に声をかける他の部と違って、この女性は私を呼び止めたから、少し話すくらいはいいか。

「私は演劇部所属で2年生の高嶺絢乃たかみねあやのです。『たか』は梯子はしごではない方です」

「はい」

 梯子かどうかはどうでもいい情報だ。でも、丁寧な名乗り方であるのは確かだ。違う違う、丁寧とか思っている場合ではない。「たか」の説明をするなら、「みね」の説明も必要だろう。峰か峯か嶺か。もしかすると岑の線もあるのか。

「あなたは・・名前を名乗らなくて結構です。個人情報を気にする時代ですから」

「はい」

 高嶺さんの名前も個人情報だと思うのだが・・。

「あなたは遠くから見て、オーラがあると言うか、とても輝いていました。顔立ちも可愛くて良いけれど、立ち姿が良いです。離れていても目を奪われました」

「いえいえ、普通です」

 可愛いは昔から言われる。でも、「昔から言われます」などと言えない。立ち姿を褒められたのは初めてだ。

「それに声がいいです。とても優雅で、澄んでいて、温かくて、でも芯があって、耳に残ります。あなたならアナウンス部とか話す方面でも良いでしょう」

「演劇部の勧誘ではないのですか?」

「そうです。私は新入生を演劇部に勧誘したいのです。でも、入部は本人が決めることでしょう? 強制的に入部させて、高校生活の3年間を無駄にさせるのは違うと思います。私は演劇部であなたを主役にしたいです。でも、あなたは、あなたの好きなクラブで充実した学生生活を過ごして下さい」


「高嶺さんに言うのは変かもしれませんが・・」

「私で良ければ聞きますよ」

「私は麻雀部に入部しようと思って、この学校を選んだのに廃部になったと聞きまして・・」

「あぁ、麻雀部ですか。賭け麻雀が発覚した時期が時期でしたから、変な時期に廃部が発表されましたね。でも、麻雀部で学校を選ぶほど麻雀が好きなのですか?」

「いいえ、まったく経験がありませんけれど、頭を使う遊戯ということで興味が湧いたのです」

「そうですか。部活とは違いますが、麻雀をするだけでも良ければ、顧問がお相手できると思います。ただ、顧問が相手をするから演劇部に入部してなどと言いませんよ。入部は別の問題です」

「高嶺さんは、本当に新入生の勧誘に執着していないのですね」

「そう見えますか? あなたを入部させたくてうずうずしているのですよ。でも、そこは演劇部。自分の感情には仮面をかぶせています」

「えっ、高嶺さんは二重人格だったりしますか?」

「演劇部ですから、いろいろな人格を演じます。でも、それはあくまでも演技でのこと。私の人格は1つです。すべての学生が、数年後、数十年後にいい学生時代だったと振り返れたらいいなって、それだけです」

「高嶺さんもいい学生時代だといいですね」

「あなたが入部してくれたら最高の学生時代になります」

「えっ」

「まぁ、部活選びは即決せず、時間をかけて決めてもいいです。後悔しない選択をして下さい。私は放課後はいつも部室にいますから、もし興味があったら来て下さい」

「はい。考えておきます」

 いい学生生活ではなく、いい学生時代か。いい学生生活がいい学生時代になるとは限らない。いい学生時代だったと思える3年間にできたらいいな。



 講堂に入ると、「アルセナール」が華やかに奏でられている。ヤン・ファン・デル・ローストのコンサートマーチだ。エルガーの「威風堂々」やシュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」も悪くはないが、定番過ぎるから、私はアルセナールの方がいい。

 吹奏楽部の勧誘をしていたのは補欠だったのかもしれない。他の楽器を勧められても、サックスに固執して、レギュラーになれなかったのだろう。有能な1年生が入部したら、さらにレギュラーは遠のく。これが、やる気がなさそうな理由。確定だな。


 しばらく聞いていると、別の曲が流れた。校歌か。私は時々、周囲を見回す。親友の里那が遅れて来るはずなのにまだか・・。

 再びアルセナールになった頃にキョロキョロと周囲を見回している女子がいた。来たか。

「里那、ここ!」

 大き過ぎず、小さ過ぎない声で呼んだ。

「朱萌、おはよう! 遅くなってごめん」

「いいよ。朝から大変だったね」

 「リボンの色で争っているから、先に行っていて」とLINEをもらっていた。

「うん。昨日、白いリボンを準備したんだよ。でも、今朝になってから、パパが臙脂えんじ色がいいと言い出したの。制服に馴染むし、落ち着いて見える。式典には絶対に臙脂だと。そしたら、白で何も言わなかったママが桜色がいいと言い出したの。春らしいし、顔が明るく見えるわよって。そんなの聞いてられないじゃん。だから、白で玄関を出ようとしたら引き止められた。もう参ったよ」

 今、ポニーテルを留めているのは白色だ。

「結局、里那が選んだ白になったから良かったじゃん」

「いいや、違うんだな。見てよ、これ」

 里那が臙脂色と桜色のリボンを出した。

「何、それ」

「あとで写真を撮る時に付けるの。パパと撮る時には臙脂色、ママと撮る時には桜色」

「3人では撮らないの?」

「その時は白だよ。私は白がいいんだから」

「でもさ、ポニーテールのリボンって正面から見えないよね」

「あっ・・・」

 親子3人そろって気付かなかったのか。似た者同士と言うか、親子だな。

「正門に『入学式』の立て看板があるから、その前で斜めを向いて撮るとかしなよ」

「名案だね。そうする」

 里那は、中学の頃からの親友で、惣社そうざ里那。麻雀部が廃部になったことを教えてくれた子だ。



「あけぼ? あけぼいるじゃん!」

 あぁ、この声は無視したい。小田和吉。通称、おかず。小学生の時から女子にちょっかいを出すので有名な男子だ。里山辺夏渚ちゃんの捌き方は天才的だった。私は夏渚ちゃんのようにできないから無視する。

「あけぼって何だよ?」

「ほら、あの女子、可愛いだろう」

「あぁ、同じ中学なら紹介してくれ」

「バカ、紹介なんてできるかよ。あいつは顔だけでなく、声も可愛くて、同じクラスになっただけで癒されるんだよ」

「癒されるって何だよ」

「国語とか英語とか音読するだろ? うっとりするんだよ」

「大袈裟過ぎるだろう」

「大袈裟じゃないさ。こう言っているのは俺だけじゃないから」

「でも、あのレベルなら、彼氏がいるだろう」

「アタックした男子は全員玉砕した」

「全員玉砕って・・」

「友達から始めようの友達にすら、誰もなれなかったくらいだ」

「それで、なぜあけぼなんだよ。あけぼという苗字なのか?」

「違う。声がいいから、誰か男子が『イケボ』と言ったら、女子が『イケボは男に対して使う言葉だから失礼だよ』って言って、朱萌という名前だから、あけぼになったんだ」

「そうか。同じクラスだといいな」

「そうだな。俺もだよ。まさか、あけぼと同じ学校だとは思わなかったから、クラス名簿で女子をチェックしていなかった」


 小田君の隣の男子にどんな声なのかなと思われていると話しにくい。可愛いと言われて付きまとわられるのも迷惑だけれど、可愛くないと思われるのも嫌だな。単に「可愛くない」と思われるなら構わない。私は普通なのだから。でも、向こうで可愛いと勝手にハードルを上げて、「なんだ可愛くないじゃん」と思われるのが嫌なのだ。

 あの2人とは違うクラスになりますように・・。麻雀部が廃部したのだから、これくらいの願いは叶ってもいいだろう。


 それにしても、麻雀部よ、どうして君は廃部なんだ~っ!

はじめまして。桜丘朱萌です。

「朱」は、朝焼けのような赤い色で、夜が明けて新しい一日が始まるという意味があります。「萌」は、草花が芽を出して育ち始めることを表しています。父と母が相談して、「新しいことに向かって元気に育って欲しい」という願いをこめて、命名してくれました。私も、朝日のように明るく、芽のようにすくすくと育っていきたいです。

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