転生したら、極右政党の党首になりました!
「耕介さん!しっかりしてくださいよ!」
耕介は目を覚ますと、なんと目の前には日の丸のはちまきを巻いた見知らぬ男の顔が!!
男は耕介の胸ぐらをつかみ激しく揺さぶった。
「生きてたんですね!耕介さん!」
── あんた、誰だよ!? ってか、なんで全身迷彩柄の服着てんだよ!そんで、一体ここはどこよ?
「ああ、神よ!」
男の唾が耕介の顔に飛び散った。
── 臭っ!!
ベッドから起き上がると、なんと、目の前には旭日旗が吊るされている!!
── うわーマジかよー最悪だよー。転生してこれかー
「さあ、今から演説に向かいましょう!」
耕介は、迷彩服の男に連れられて、病院の駐車場までやってくると、そこには白字で大きく「共産党撲滅!」と書かれた、街宣車が停められていた。男はその車の前で立ち止まり、「さあ、乗ってください!」と耕介に声をかけた。
── うわー最悪だよー。乗りたくねー。
しかたなく後部座席に座ると、運転席には日の丸のはちまきを巻き、和服姿の女がハンドルを握っていた。
──って、あんたもかいっ!
女はアクセルを踏むと、急発進した。耕介は、その反動で、へッドレストに頭をぶつけた。
「痛っ…」
「耕介さん!しっかりシートベルトしてくださいよ!」
──もう勘弁してくれよ。あんたたち、めちゃくちゃなんだよ…
「ダメだ山田さん、それじゃ間に合わないわ」
男が女を煽った途端、山田はアクセルを思い切り踏んだ。
「ちょっと!? 赤信号だぞ!」
耕介はたまらず叫んだが、女は平然とした顔で車を走らせている。すると、後ろから、一台のパトカーがサイレンを鳴らし、こちらに近づいてきた。
「そこの車、止まりなさい」
男は舌打ちし、「撒け!」と叫んだ。
女はさらにアクセルを強く踏み込んだ。車体は大きく揺れる。
「おい、もう降ろしてくれ!」
耕介は再び叫んだが、その声はサイレンにかき消された。
「その角を曲がれ!」
男が女に指示を出すと、女はアクセルを踏んだまま、ハンドルを大きく切った。次の瞬間、警察車両は目の前ビルに突っ込み、爆発した。
「やったな!」男はそう言うと女とハイタッチした。
──ワイルドスピードかよっ!!
街宣車はスピードを落とすと、通常運転に戻った。
「それにしても、耕介さん。無事でなによりですよ」
男はそう言うとサイドミラー越しに耕介を見た。
「あの…さぁ……」
「はい。なんでしょうか?」
耕介は恐る恐る聞いた。
「いったい、俺の身になにがあったの?」
すると、男は笑いながら言った。
「もおぉ〜やだなぁ〜耕介さん。ブラックジョークは勘弁してくださいよ。」
「もしかして、俺、撃たれた?」
男は顔を引きつったまま、遠くのビルをを眺めていた。
「えっ?マジで、撃たれたの?」
「もうやめましょう……笑えないっすよ、耕介さん」
男はそう言うとしばらく無言になった。
──ってことは……
「あのさ、一つ聞いていい?」
耕介は男の方を見た。
「なに党?」
「何言ってんすか」
「いや、だから、なに党なのかって聞いてんの」
その時、男はガラリと表情を変えた。
「ちょっと、耕介さん何言ってんすか!しっかりしてくださいよ!党首が政党名忘れて、どうするんっすか!!」
「えっと……ほら、撃たれた時にど忘れしちゃったみたいでさ、保守党…だっけ?」
「大日本保守党でしょ!!」
なぜか、その時、男はタメ口になった。
「僕たちは大日本保守党!!」
「あ〜そ〜だった、そ〜だった。思い出した。思い出した」
耕介は、頭をわざとらしく掻いた。
「どうしちゃったんですか!政党名忘れちゃダメでしょ!しっかりしてくださいよ!」
男はところどころタメ口になった。
「それで……俺を撃ったヤツって…」
耕介はまた、恐る恐る聞いた。
「大日本帝国党の党員ですよ!」
── おい、おい、大日本帝国党ってなんなんだよ………… いったい、俺がいない間に日本はどうなっちまったんだよ……
耕介は思わず吐きそうになった。
「オエっ…」
「大丈夫ですか?耕介さん!」
男はグローブボックスから、ティッシュを取り出すと耕介に渡した。
「あのさ、もう一つ聞いていい?ウチらと、その、大日本帝国党はどこが違うの?」
すると男は顔を真っ赤にして答えた。
「どうしちゃったんですか!耕介さん!全然違うでしょ!ウチはウチ、大日本帝国党は、大日本帝国党!」
「具体的には…………」
「イデオロギーが違うでしょ!ウチは国家主権!向こうは、天皇主権!」
耕介は、おずおずと聞いた。
「あの……国民主権は……」
「それは、前提だから!!」
── ……………………
耕介は、驚きのあまり言葉を失った。
「到着致しました!!」
女は車を止めると、いきなり大声を上げた。
そこには、ちらほらと人が集まっていた。
──少なっ!!
男は助手席から降りると後部座席のドアを開けた。
── やれ、やれ……
耕介は仕方なく、車を降りた。
そこには数名の紫のポロシャツを着た選挙スタッフが立っていた。スタッフは、耕介に拡声器を渡した。
「あの…………………………」
拡声器を口に近づけてた瞬間、耳をつんざくような不協和音が鳴り響いた。
「えっ…あの……にほ……にほ……あの、今の日本は………」
言葉に詰まるのも無理はない。耕介が人前でスピーチをするのは、親友の結婚式から実に50年以上ぶりのことだった。
見かねた男が近づき、耕介に耳打ちする。
「あの、お騒がせしてすみませんでした。ボク…… えっと…私は、みなさんのお陰で生きています………」
すると聴衆は一斉に拍手した。
「頑張れ!!」
耕介は軽くお辞儀をすると、拡声器に口を近づけた。
「あの、にほん、日本人で……日本人である以上は、皆…平等………皆平等に…幸せになる権利が、憲法……憲法…じゅう……憲法じゅう…さん……」
「憲法十二条!幸福追求権!!」
その時、聴衆の中の誰かが大きな声で叫んだ。
「そう。憲法十二条の幸福追求権によって、日本人なら誰でも幸せになる権利があるのです!」
「そうだ!」
「その通り!」
耕介の演説に聴衆は声を上げた。
「ですから、日本が……いや、日本人が優先されることは、当たり前のことであり……」
その時、聴衆の中に、不審な動きをする男が相槌をうちながら、耕介の方に近づいてきた。
「日本国籍を有する限りにおいては……」
耕介はその男と目が合った。
その瞬間、男はボストンバッグから、拳銃を取り出し、耕介に向けた。
「逃げろー!」
聴衆は、どよめきその場から逃げ出した。
耕介が、逃げようと背を向けたその時、銃声が鳴り響いた。
──えっ、嘘でしょ。
胸に手を当てると、大量に出血し、服は血まみれだった。
──ちょっと、また俺、死ぬの?
耕介は地面に膝をつくと、天に向かって、最後の捨て台詞を吐いた。
「なんじゃあ!こりゃあぁぁぁぁ!!!!」