交戦③
(ようやく、俺様の時代が来た!)
勇者アベルは、仲間と共に意気揚々と魔王ラムトスの城のある街に潜り込んだ。
「あの聖騎士団達の顔見ました?」
魔法使いの女性が、アベルに話しかける。
「ああ・・・オーガを甘く見ていたんだろうな」
あの聖騎士団達が慌てふためく姿に、アベル達は爆笑しそうになった。
あれだけ威張りくさっていたのに、オーガにすら苦戦させられているのだ。
「奴らは国内では最強だが、魔王領の怖さを知らない・・・人間領では《聖力》によって魔物達は力を弱められている事も・・・」
そんな事は、冒険者や旅人、商人でも知っている事だが、あまり外に出ない聖騎士団は知らなかったのだろう。
(だが、アイツ(ユカタ)は油断出来ないな・・・)
彼女があの混乱を納めた・・・そう聞いた時には[えっ?もう?]と驚いてしまった。
しかも、聞いた話では、ユカタも外での実戦経験は無かった筈だが・・・知識は有ったのか。
「計画通り・・・あの《女》は魔王城に引きずり込んで《始末》するぞ!」
アベルは自分の出資者の貴族から、ある《依頼》を受けてここに来たのだ。
その一つがユカタの失脚させる事だ。
詳しい話は聞いていないが、ユカタの父親は聖騎士団の総隊長に当たる人物だが政治にも強く王の信頼も厚い。
だが、貴族の派閥争いに無頓着な人物で、それはユカタもだが、出資者達にしてみれば引きずり込みたいのだった。
そこで、ユカタの失脚を《理由》に交渉するつもりらしい・・・
(まー俺としたら、あの女にひと泡吹かせられれば面白いだけだがな)
最初こそ、勇者として丁重に扱ってくれたが、段々と扱いが雑にされてきているのだ。
それがアベルには気に入らないのだ。
(俺は久々に現れた《紋付き》の勇者なんだ・・・たかが、聖騎士団の小団長より《偉い》んだ!)
アベルは自称勇者ではない・・・勇者の紋を宿した正式に国が認めた勇者なのだ。
(・・・それを《無能》扱いしやがって・・・)
「そういや・・・まだあの女と、村人を《面会》させてないんだよな?」
近くを歩く双剣士に、アベルは尋ねた。
「ええ・・・会ったりしたら、あの団長の性格では《中止》して帰還すると言いかねませんからね〜」
ユカタは人間にはたとえ奴隷の様な者でも博愛主義で救援するが、魔物は排除すべき者と考えている。
物乞いの豚頭族が、誤っで人に手を出した途端に◯殺したのは有名な話だ。
「・・・そんな人が、あの村人の《救助》だなんて笑えますよね〜奴らを見たら、あの人はどんな顔をするんでしょうね〜」
その仲間の言葉に、アベルは笑いが止まらなかった。
「それもだが・・・お前ら、ちゃんと『計画』は頭に入っているな?」