それから
離婚式当日は気持ちのいい青空だった。
緑あふれる、カジュアルなガーデンパーティ。司会者に呼ばれ、僕は挨拶に立つ。
横を見ると、優さんと玲奈さんが、それぞれの席に離れて座っている。
僕は息を吸い込み、話し始めた。
「ただいまご紹介にあずかりました、裂人の加川悠斗と申します。
優さん、玲奈さん、本日はこのような式に招いていただきありがとうございます。
最初『裂人として挨拶を』と言われた時は、なんの冗談かと思いました。一年前、私達は確かに皆さんと二人の結婚を祝ったはずです。何が原因でそんなことになるんだ、と思いました。
でも、私の人生を振り返ってみると、決して問題のない人生とは言えませんでした。いくつもの選択肢があったし、一つの後悔もないと言えば嘘になります。
皆さんもそうではないでしょうか。
優さんも玲奈さんも、それぞれご自分のこれからを考え、ここで夫婦という形にけじめをつけよう、と決断されました。
夫と妻としての関係は終わりですが、全く交流がなくなるわけではありません。これから友人として二人は生きていきます。
僕にとって二人は、変わらず大切な人です。心からこれからの人生を応援したいと思います。
皆さんも、僕と同じ気持ちであれば幸いです。
お二人の新しい門出をお祝いすると共に、それぞれの末永い幸せをお祈り申し上げます」
拍手が起こる。
心なしか、固かった参列者の表情がほぐれて、明るくなったような気がした。
優さんも玲奈さんも笑っている。
「これでよかったんだな」と僕が思うのに足る、晴れやかで素敵な笑顔だった。
それから2年後。
「悠斗、行くぞ」
「待って、部屋にスマホ忘れてた!」
僕は慌てて部屋に戻り、玄関へと向かう。
靴を履いてる時、玄関に飾られた写真に目が吸い寄せられた。思わず数秒見つめてしまう。
「ゆうとー」
「わっ!」
ドアがわずかに開いていて、優さんが僕を見ていた。
「どの写真見てたんだ?」
「ないしょ!」
僕のお気に入りは、離婚式の写真。優さんと玲奈さんに挟まれた僕。3人とも幸せそうな笑顔だ。
離婚式に参加してよかったと、今では心から思う。
あの場所からそれぞれ好きな道へと旅立てたから。
僕は鍵をかけて、先を行く優さんの後を追いかけた。