愚痴
「……ってことがあったんだけど!」
語尾がついつい荒くなって、僕はあたりをうかがう。カフェの客は誰も気にしていないみたいでホッとする。向かいに座るマサ君も涼しい顔だ。
「いいじゃない、優さん独身に戻ったんでしょ? 挨拶の一つや二つ、してあげなさいよ」
「でもさぁ、こんな複雑な気持ちで挨拶するってなんか……」
「いーじゃない、好きなものは好きなんでしょ」
「他人事だからって好き勝手言って……」
「他人事ですもの」
マサ君はニヤニヤしながら、イチゴパフェを口に運ぶ。
ガタイのいい坊主頭がオネエ言葉で話しているのでギャップがすごい。
マサ君はゲイバーでできた友達で、たまに一緒に買い物する仲だ。
「離婚した理由、価値観の不一致って言ってたけど……どうも歯切れが悪いんだよね」
「ふうん」
マサ君はなにやら考え込む。僕は鮭とほうれん草のクリームパスタを一口食べた。少し、昔作った味に似ている。
昔、料理が苦手な優さんにかわって、ごはんを作ってあげたら「中学生にやらせるなんて」と恐縮していた。だけど最初に作ったカレーをすごく気に入って「うまい、うまい!」とバクバク食べてくれた。
嬉しくていろんなメニューを覚えた。こういうパスタも作った。唐揚げ、カレー、肉じゃが……ごはんの話をするようになって、一気に距離が縮まったっけ。
──また優さんに手料理食べてもらえるかな。
そんなことを考えていると、マサ君が「ひらめいた!」と顔をぱあっと明るくした。
「優さん、好きな人ができたんじゃない?」
僕はあやうくパスタを吹き出すところだった。慌ててアイスティーを飲む。
「何言ってんの」
「可能性はゼロじゃないわよ。
結婚したものの、魅力的な美女が現れて優さんの心は揺れるの」
だんだんマサ君の目がうっとりしてきた。
僕は冷静に食べ続ける。
「『いけない、僕には妻が……でもあの人のことが気になる』
美女も優さんに惹かれていく。そして、奥さんが気づいて身を引くの。
『ごめんなさい、別れて。私あなたより仕事の方が大事なの』
そんな嘘をついてね。
そして離婚成立。でも、美女は美女で気にするの。『私のせいで優さんの家庭を壊すなんて……』
そこで、大丈夫だよ、と美女に示すために、優さんは思いつくの。『そうだ、離婚式をやろう』……どう?」
「どうって。
そんな昼ドラ風に言われても反応に困るって。だいたい美女はどっから出てきたの」
マサ君の妄想に呆れていると、爆弾発言が落とされた。
「この美女、悠斗に置き換えてもいいわね。
その可能性はないわけ?」
「ないよ!」
思わず強い口調で言ってしまった。
「……僕、1回フラれてるし」
目をそらしてつぶやく。
マサ君はガタッ、と椅子を前に寄せてきた。
「ちょっと、その話初耳よ、詳しく聞かせなさいよ」
僕は「そろそろ買い物行こうか」と伝票を手に席を立つ。
「悠斗ー!」と声が追いかけてきた。