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7 これからの事


「んぐぐぐぐっ」


 かなりの気合いを入れているが、実際にはベットの上で指先が僅かに動いた程度しか変わっていない。


 あの戦闘の翌日からソータは体を少しでも動かすよう意識して練習を始めた。持ち前の前向きさで、既に改造されたものは仕方ないと割り切って考えるようにした。驚きもあったが、それよりもあれだけあった痛みや苦しさから解放されたのは事実であり、この点に関して感謝しかなかった。

 ただ、以前もそこまで動かせなかったとはいえあまり意識しないで動かせていた身体が、どんなに頑張っても僅かしか動かせない。


 今まで、どうやって手足を動かすか? なんて考えたことはなかった。一々考えなくても動くものだったから。尤も病気が進行してからは精々がナースコールを押し込むのが限度であったが。

 しかし、今は違うはず。とにかく意識を集中して動かそうとしてようやく僅かしか動かない。AIがいう同調率とやらを上げないとこのままでは以前の生活と何も変わらない。


 遅々として進まないが以前のように熱や痛みを伴う事がないので頑張れば治るならやりがいもあるというものだ。

 悪戦苦闘しながら、ベッドの上で指先を動かそうと唸っていると派手な音をたてて扉が開かれた。ドアが壁に勢いよく当たる音が部屋中に響き渡った。

ソータは驚いて一瞬動きを止める。視線をドアの方に向けると、そこには表情を強張らせた来客が立っている。息を切らして駆けつけたその女性はソータの様子を見て一瞬戸惑っていたが、すぐに駆け寄り、心配そうに顔を覗きこんできた。



「ソータくん、大丈夫ぅ? ケガしてない?!」


 飛び込むように入ってきたオレンジ色の作業着(オーバーオール)姿の女性は顔を見るや否やソータに抱きついてきた。大きな胸がソータの顔を圧迫しているが気にする様子もない。銀髪を一つ括りにした三つ編みが特徴的なその女性はずり落ちたメガネを直すと緑の術衣を捲り上げソータの背中やら脇やらを真剣に見つめている。


「あー、ここに再生した傷痕がぁ!こんな可愛い子に傷痕作るなんてあり得なーい。」


 ソータの顔を撫で回すように触っていた彼女が哀愁漂う声でいう。まだ動く事も叶わないソータは抵抗出来るはずもなく、女性は全身撫で回す勢いであちこちを触っている。


「あのー、失礼ですけど、どなたでしょうか?」


「あ、ごめーん。チェックに夢中で忘れてたぁ。あなた専属の技師兼身の回りのお世話係に任命されているソニアよぉ。よろしくねぇ」


 20歳そこそこぐらいにみえる彼女、ソニアはそう言いながら握手を求めてきた。

 あっどうも。とソータは応えるがソニアの顔はソータの頬に頬ずりしたままだ。


「このすべすべした肌感。スレてない感じ、無垢な童顔、自分好みに造ったとはいえ完璧だわぁ。大丈夫、あなたの元の顔は損傷が激しかったけど、おおよそ寄せたつもりだから安心してねぇ」


 ソニアはやおら、手鏡を取り出すとソータの顔に突き出した。そこに映し出されている顔は以前のような爛れた顔ではなく、整った顔の子供のそれがあった。多少いじったような話ぶりであるが、自分な顔など暫く見たことがなかったので、これが以前に近いのかどうか自分では分からない。


 驚くソータを無視してソニアはやや上気したような顔で、鼻息荒く、頬をモミモミしたりさすったりしながらブツブツ呟いている。


「ソータくん。心配しないでいいからねぇ。あなたは私が完璧に育ててあげるからぁ!」


 妙に爽やかな笑顔を振りまいているが、ぐへへ、とかいう声が聞こえてきそうなぐらいの若干危ない人の顔をしている。


 突然、目から火花が飛び散るぐらいのゲンコツがソニアの頭にめり込んだ。涙目で振り返る彼女の前に同年代ぐらいだろうか? 燃えるような赤毛の女性が仁王立ちしている。女性にしてはやや高めの身長で軍服姿のせいか威圧感を感じる。

 透き通るような白い肌と軍服の色に似たやや薄いグリーンの瞳が鋭くソータとソニアを捉えていた。


「ソーニーア。いつからあなたが彼のお世話係になったのかしら?」


 静かな口調だが、怒気の孕むその雰囲気は隠しきれていない。


「やーねー、ジャンヌったらぁ。ちょっとしたぁ、言葉のあやじゃないのー」


 小さくか細い声で囁くように答えながら徐々にソニアが後退りしていく。その一歩毎にジャンヌと呼ばれた女性が一歩詰めていき、部屋の緊張感が高まっていく。


「で、さっきの痴態はなにかしら」


「メ、メディカルチェックに決まってるじゃない。な、何言ってるのぉ?」


「にしては、無駄が多いように見えたけど?」 


「貴重な素体なんだからぁ、念入りにみるのは当然じゃない、やだわー」


 猫に追い詰められたネズミのように扉までたどり着いたソニアは、「またねぇ、ソータくん」というと逃げるように出て行った。


 残された仁王立ちのジャンヌと呼ばれた女性は振り返ると腰の後ろに手を回し姿勢を正した。


「すまないな。アイツは優秀なエンジニアだが、少し嗜好の方向性に若干ズレがあってな。多様性の一つと理解して欲しい」


「悪い事はされていませんし」


「そうか……。少し借りるぞ」


そう言うと、女性はベッド横にある椅子を引き出すと音もなくそこに腰掛けた。


「さて、改めて自己紹介をしよう。私はジャンヌ少尉、きみの教育係を正式に任命された。以後、私の指示に従って行動して貰うつもりなのでよろしく」


 優しく話しかけているつもりだろうが、命令口調で言われているのがわかった。


「あのー、質問いいですか?」


 気持ちは挙手をしてソータは話しかける。


「構わん、許可しよう」


「僕はこれからどうなるんですか?」


「大まかな事は恐らくAIに聞いているんだろう?」


「なんとなくですが」

(どこぞの敵と戦う人型決戦兵器で間違いないんだろうな)


「なら話しは早い。さきの戦闘で分かったが、あんな戦い方をされてはチームを組んだ者がたまったものではない。だからお前を鍛える」


 途端にソータは泣きそうな顔になる。大変な思いからようやく離れたのにまたあんな思いをするかもしれないと分かったからだ

 ジャンヌは少し怯んだような顔をしている。子供に泣かれるのは苦手なのだろうか。


「どうしても戦わないといけないのですか?」

 (それは兵器だから?)とは続きがいえず口籠る。


「残念ながら君はその為にこの計画に参加してもらっている。だが、君自身の意志が重要だ。Ωの作った自動人形のように意志なき物なら無理やりでも戦わせる。確かに世界でも例のない、全身機械化をおこなった貴重なケースだか君は人間だ。君の意志が必要になるが概ね拒否権はない」


 ソータはその言葉を聞いて泣き顔がさらに崩れる。兵器扱いされなかった事もそうだが、自分を一人の個として認めてくれていたからだ。


 拒否できないと聞いて泣いていると思ったのかジャンヌは困った顔で目を逸らす。


「拒否するもしないも、体を動かす事もままならんようでは何にもできないだろう。色々と楽しいイベントを用意させてもらっているぞ」


 そう言うとジャンヌはニヤリと怪しい笑顔を浮かべた。


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