69 任務終了
ソータが寝た。
多分、寝た。いや、倒れたというか寝込んだというか。顔を見たら少しほてったような赤みがあって、見た感じは熱で倒れたみたいな感じね。バカだけに風邪なんか引かないはずだけど、あっ、機械だから引くわけないか。
コレットは横で倒れているソータをグレムリンに突かせながらそんな事を考えていた。
ちょっとグレムリンに頑張らせ過ぎたのではないかとちょっぴり、ほんの少し、気持ち程度反省はしている。
普段から模擬戦でお互い攻撃する事にはあまり躊躇がなかったが、今回はちょっといいのが入ったのかもしれない。
とはいえ、あーでもしなければもしかしたらあのソータに殺されていた可能性はある。
本気じゃなかったと信じたいが冷静に考えるとゾッとする話だ。
「ランチ程度で済まされる話じゃなかったわね」
ソータなんだからもっとフッかけてもよかったかもしれない。
そんな事を思いながら、よっこいせと腰を上げる。まずはミゲールを起こして、あの姉妹を探さないと。恐らくガイアは全滅しただろうが、野良生物兵器や変異種が現れないとも限らない。
「グレムリン」
ソータの顔をぺちぺち叩き続けていたグレムリンを呼ぶ。
ミゲールを起こしに行って……と声をかけようと
口を開くと、真横に人の気配を感じた。
「俺ならここだ」
その声で振り向くとミゲールがいつの間にか立っていた。腕に力が入らないようだが、使える程度には回復しているようだ。
「ガイアは全滅したみたいだな。ソータに任せっぱなしになってしまったようだ……不甲斐ない」
ミゲールが悔しそうに握りしめた刀を地に突き刺す。
「まぁ、あんたもソータのフォローしながら戦ってたんでしょ?任せっぱなしって訳でもないでしょうに」
いつもなら、ここぞとばかり煽り続けるコレットが今回ばかりはミゲールの肩をもつ。さすがのコレットも今回の激戦がかなりのものであった事は身体で理解していた。だから茶化す事もなく続ける。
「あれだけの力を持ってるガイアの連中を倒したんだから、多少なりとも戦果はあげたんじゃない。こっちは犠牲者ゼロだし、それでいいじゃん」
そんなコレットの言葉を受け、ハッと自嘲気味にミゲールが笑うと刀を鞘にしまう。
「まさか、お前にそんな事を言われるとは随分俺も弱ってるようだな。確かに任務は成功、それ以上にガイアも倒したオマケ付きだが、お前達を危険に晒したのも事実だ。だから……」
俺の責任だと続けようとして、木々の向こうから来る人影に気付き言葉を止める。
「任務に危険はつきものですよ。簡単に出来て安全な戦場なんてある訳ないじゃないですか」
木々の奥からルシンがそう声をかけながら現れる。背中にはグッタリとしたファロムを背負っている。
「ルシンか。そっちのは大丈夫なのか?」
そっち呼ばわりされたファロムは薄く目を開くもそのままグタっと項垂れてた。
もしや重傷かとミゲールが動きかけたところを
ルシンの後ろから現れたリンディが手で制した。
「大丈夫よー、お腹すいてるだけみたいだから」
「うにゅー、お肉食べたい」
力なく項垂れながら腹の虫を盛大に鳴らしつつファロムが呟くとそれに感化されたのかコレットのお腹も小さく鳴った。
戦闘前だったので軽めにしか口にしていない所にもってきての激戦。加えて、回復促進剤による自己再生の影響で身体のエネルギーをかなり使ってしまったので致し方ないだろう。
「とりあえず、休息がいるな。問題は……」
ミゲールが足元に倒れているソータを足蹴にしながら腕を組む。
「こいつが動きそうもないって事だな。こんな重いバカを運ぶのはムリだぞ」
「ある程度回復したら何とか出来るから大丈夫よ」
リンディがミゲールの側まで歩いてくるとソータを見つめながら声をかけた。
「強いとは聞いていましたけど、この子達がここまでなんて思ってもなかったです」
「正直、ここまでやれるとは俺も思っていなかったがな」
「サイボーグに召喚士、果てはミュータント。今までのニルヴァーナではあり得ない混成チームですよねー」
今までのニルヴァーナにはサイボーグなんかはいなかったし、ましてや召喚士はガイア以外の組織に存在するはずがない。ミュータントに至ってはもはや人類の敵ぐらいの扱われ方のはずだ。迫害されて人類を恨む事はあっても協力なんかあり得ない彼女らをよくぞ味方につけたものだ。
「さすがミゲール大尉です」
「厄介者の集まりなだけだ。どこの部隊も運用できないから押し付けられただけだよ」
俺も含めてな、と小さく呟く。
ミゲールは対ガイアでは冷静さをかきやすい事は自覚している。彼とガイア戦をを組んだ者ならばミゲールが執拗なまでにガイアに固執するが故に戦果以上に損害も多くなる傾向がある事を知っているだろう。
鏖殺のミゲールと不名誉な二つ名で揶揄される事もあった。
だから、どの部隊にも所属する事はなくほぼ、単独ミッションが多かったのだが、超支部長に何を言われたのか厄介者のまとめ役になっている。
「それでも、大尉だからみんなついて来てくれたんじゃないですか?よくは分かりませんけど人間嫌いのミュータントの人達ですら慕ってくれてるんだし」
リンディの視線の先にはミゲールのリュックから食糧を漁っているファロムの姿があった。携帯食のビスケットを食べながらその欠片をボロボロとリュックの中に落としている姿を見てミゲールが頭を抱える。
ミゲールがファロムを飼い猫の如くつまみ上げて引き剥がすとリュックから別の缶詰も投げ渡した。猫耳をピコピコ動かしながら喜んで飛んでいくファロムをため息とともに見送る。
「あれは餌付けしてるようなもんだろ。そんないいもんじゃない」
リュックを拾い上げるとミゲールがビスケット屑を払った。
「そもそもニルヴァーナは慈善団体じゃない。子供でも戦える奴や使える奴は使っていかないと。アイツらを使ってるのもそれだけの事だ」
「どっちかっていうと引率の先生って感じだけどね」
ボソっとコレットが呟くのが聞こえたのかミゲールがジロリと睨むがコレットはどこ吹く風とばかりにムシを決め込む。
「とりあえず、休憩しましょう。その間にソータくんも起きるかもしれませんし」
リンディはそう言うと装備を外し、座り込むとポーチから飲み物を取り出すとゆっくりと飲み始めた。
「あのミュータントの子にもそうだけど随分と大尉も落ち着かれたのかな。
「起きませんね」
「起きないな、コイツ」
ルシンとコレットがソータの前でしゃがみ込んで顔を合わす。
あれから結界が完全に消滅しガイアがいない事を確認してから3時間以上は経過した。早朝の戦闘だったので、まだ昼にはまだまだ早い。
多少は回復し、動けるようにはなったのだがソータが目覚める事はなかった。
呼吸はしているから生きてはいるのだろうが、呼吸回数も極端に少ないのでちゃんと見てないと死んでるのかと錯覚してしまう。
やはりやり過ぎたのかとコレットが内心焦るぐらいだ。
「まだ日が高い。今のうちに出来るだけ移動して帰還したい。念のため通信はなるべくギリギリまでは避ける」
リンディやコレット達を見渡しミゲールが方向性を決める。ここを早く離れた方がいいのは皆が理解していたため、反対意見もなかった。が、問題は……。
「このバカはどーすんのよ?」
コレットが足下を指差して尋ねる。10歳程度の体格とはいえ、全身サイボーグの彼の重量は並のものではない。そもそもが美容目的や日常生活を目的とした設計ではなく軍事用なので、出力も大きいが重量もかなりのものになっていた。
ここにいるメンバーでは誰もが持ち運ぶ事は無理だろう。
「ハイ、ハーイ!と、とりあえずちょっと軽くするぐらいなら出来ます」
自慢げにリンディが手を挙げてピョンピョン飛び跳ねる。
「それだけだと運べないだろうが。コレット、お前もなんとかしろ」
「ハァ?!こんな重いの持てる訳ないじゃないの」
「バカかお前、お前の持ち駒で何とかしろって言ってるんだ。担架ぐらいあれば下級の奴でもなんとかなるだろうが」
「バカって何よ。バカっていう奴がバカなんですぅー」
ギャーギャーと二人が舌戦を繰り広げる姿ををみながら、やっぱり大尉は慕われてるんじゃないの。とリンディは生暖かい目線で見つめるのだった。
一通りの舌戦が終わり、お互いが冷静になった所で方向性を再度話し合う。
「で、要はリンディがサイキックで軽くしたやつを私の召喚獣で運ばすって事ね」
髪を束ね直しつつ話すコレットにやや疲れた顔のミゲールが答える。
「そう言ってただろうに。コストの低い下級の召喚獣なら数が呼べるだろう?そいつらがバテるまで担架を担がせればいい」
召喚獣の人権?を無視した発言を聞き、コレットの肩口につかまっていたグレムリンは意味がわかったのか、背中に隠れてしまった。
「まぁ、そういうのに使えそうなブタとかいたわね」
そういうと、やる気がなさそうに手を組むと召喚をおこなう。
現れたのは、以前、下水任務の際に召喚した豚の顔をした小鬼、オークだ。それが五体同時に召喚される。
リンディが息を飲むのを知ってか知らでか、コレットはリンディにニコリと微笑む。
「召喚を間近で見るのは初めてかしら?そんなに怖がらなくても大丈夫よ。あなたを襲ったりする訳じゃないから」
ブヒブヒと鳴いている五匹の小鬼を前にリンディが固まっている。
コレットとしては予想されていた反応だ。こっちに来てから、誰もが自分が召喚する事に驚きと恐怖の目で見てきた。唯一、反応がなかったのがソータだ。正確に言うと驚きはあったが恐怖はなく寧ろキラキラした目で見てきたという記憶がある。
ガイアと敵対する組織である以上、当たり前の反応ばかりだったのにソータだけはまるで、召喚そのものを知らないような印象だった。この世界で過ごしている人間ならばそんな事はあり得ないのだが。
だからリンディが固まっても、自分に恐怖を感じたとしても最早どうでもよくなっていた。
リンディはワタワタと手を振ると更にブンブンと三つ編みのおさげが千切れんばかりに頭を振った。
「違うよー。まぁ、驚いたのは事実だけど。基本、敵対してきた召喚獣だから、くせで身構えちゃうけど。それよりもキレイな召喚だなって」
「キレイ?」
訝しげにコレットが鸚鵡返しに聞き返す。
「そうよ。ガイアの召喚って、なんか血の色っていうか悪意をビンビンに感じるの。ほら、私ってそういう精神波みたいなの敏感に感じやすい体質だから。
それでね、コレットちゃんからはそんなの感じなくて、優しさっていうか愛情表現っていうかそんな気持ちが伝わってきた感じがしたから」
間違ってたらゴメンねー、といいながらオークに手を差し出しては噛みつかれそうになっている。
「ソータのバカと同じ事言ってる」
ボソっと呟いたその言葉は誰にも聞き取られる事なく、グレムリンだけが不思議そうにコレットを見つめている。
その頭を撫でながらリンディに対する感情を少し緩めた。
あのブタ達にも愛情があるというと全力否定するが、使い捨てにしても心が痛まないかというとそんな事もない。
初めてソータにあった時、最初に言われたのが「綺麗な光だね」だった。誰もが禍々しいとしか言わなかったのに。
だから、私もアイツをサイボーグだからと差別なく一人の人間として扱おうと思った。
そうだ、アイツはもっと私の為に働いて貰わないと困る奴だ。
「リンディ!ちゃっちゃっと帰るわよ。早くこの役立たずをなんとかして」
「えっ、あっ、はい!」
コレットの勢いに押され、階級的には上官になるリンディがワタワタとする。
ソータに手を触れ軽く集中すると、その身体がフワリと浮いた。
「サイコキネシスで少し浮かせてるけど、ずっとはムリだから少し軽くする程度に抑えるよ」
ルシン達が即席で作った担架に乗せるとかなりの重さがあるはずのソータをオーク達が担ぎ上げ、ブヒブヒ鳴きながら進み出した。
「ちょっとー、そっちじゃないわよ。あっちよ!」
適当に進み始めたオーク達にコレットが鋭いツッコミをいれつつ後を追う。
ふと覗き込んだソータの顔が心なしか笑っているように見えた。
「キモっ!」
これにて第一部は終わります。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。




