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63 死闘

 ソータはヘカントケイルと向かい合いながら、どうしたものかと思案していた。


 はっきりいって回復が早すぎる。あの後、ミゲールと即席の連携攻撃でかなりの手傷を負わせた。残念ながらフォノンメーサーは照射時間が長すぎて使い物にならず、スタンナックルでは気絶なんて全くムリなのは使わずとも予想された。


 仕方なく剣術と格闘戦という方法になっている訳だが、銃器の類は持っていないしスキルなしの銃弾なんかじゃ役に立たないだろう。



「回復早すぎ!一瞬でバラバラにするか消し炭にしないとムリじゃない?」


 なんだかんだで、一度はミゲールが首をほぼ斬り落とす所まで致命傷を与えたのだが、あいつはそれすらも回復してみせた。今も何事もないように目の前に立っている。

 何度目かのヘカントケイルの剛腕をかわして大きく下がりつつミゲールに声をかけた。


「お前も見ただろ!首がほぼ落ちてるのにくっつくような化け物だぞ。それが出来るならとうにやってるわ!」

 冷静な中にも呆れと怒りを感じさせる声でミゲールが答える。


 ヘカントケイルは再び手頃な木を引き抜くと、今度は棍棒のように構えている。

 ソータらは再びとびだすと、振り下ろされる大木をかわす。巨大な腕が殴りかかってくるが、このパターンは読めているのでヒートソードを突き立て斬りつける。切られながらも反対の腕が横殴りに振り払われソータはガードごと飛ばされた。その隙をついてミゲールが追加で斬撃を与え、腕を一本切り落す。


 受け身を取りながら立ち上がり、ダメージ確認をするソータにネマからのメッセージが伝えられる。


<胴部にダメージを確認。エネルギー残量75%、放熱は現在問題はありません>


 ソータの身体は全身機械な上に電力作動だから適度に放熱しないと発電効率が落ちてしまう。機器に与える影響もゼロではないだろう。長期戦闘が可能ではあるが長期戦になるデメリットでもある。


 ヒートソードもほぼ最大火力で使用し続けているから、あとどれだけ使えるか分からない。回路が焼けつくか剣が折れるか、どちらにせよ問題だ。


 ヘカントケイルの格闘術はさほどではないのだが、食らう事を前提としたカウンターは厄介極まりなかった。いわば後出しジャンケンみたいなもので相手の手を見てから勝てるカウンターを繰り出してくるのだから。

 隙を伺いながら後退りしながらも剣を構え直す。


「ムダだ、このヘカントケイルには貴様らの攻撃では効か、?!」


 何かの気配を感じたのかヘカントケイルが突然、奥の森を凝視する。


 その奥の木々の合間から淡い光が漏れている。光がより明るくなると同時に光線が放たれる。周りの木を丸く抉り取るように貫きながらヘカントケイルに向けて真っ直ぐに打ち出された。


 キュイン!


 空を切り裂き放たれた光を咄嗟に回避をしようとしたヘカントケイルだが腕が一本消えており、胸から肩にかけ丸い風穴が開いている。さすがにまるごと肉体が消滅するのは応えたのか膝をついて動けなくなっている。


 振り返ると後方でリンディが手を挙げているのが見えた。


「あの子達はとりあえずは生きてるから大丈夫よー」


 リンディの声がほぼ耳元で聞こえた。思わず後ろを振り返るが、そこにいる訳もなく先程と同じ離れた位置に変わりなく立っている。


「サイキックの一つだ。それよりリンディ(あのアホ)がやばい、合流するぞ」


 千載一遇のチャンスであるにも関わらず、それを気にする事なくミゲールは素早くリンディのもとに走り出した。

 ヘカントケイルはと見ると再生はしているがまだ動けないようだ。


 リンディの元に急いで駆けつけてると、彼女は片腕を負傷しているのかダラリと腕が力なく垂れ下がっていた。

 全身に細かな傷もあるようだが、それらはどれも大きな傷ではなさそうだ。しかし、それ以上に顔色が悪くかなり疲労しているようにみえた。


 そんな雰囲気を察したのかリンディはぱたぱたと手を振ってニコリと笑う。


「ちょっとだけ疲れただけだから大丈夫よー。君みたいな子供に心配される程、お姉さん、か弱くないぞ」


 弱々しい笑顔で微笑むリンディだが、その鼻からツウッと血が垂れるとポタポタと落ち始めた。

 思わず鼻をこすり鼻血が出ている事に気付いたリンディが慌てたように袖で拭う。


「ちょっと興奮し過ぎちゃったかなぁ。ゴメンね、カッコ悪くて」


「リンディ、お前、かなりとばしたな」


 ミゲールが努めて冷静な声を出しているが、怒気を隠し切れていな声で聞いた。


「やっ、何言ってるのかよく分かんなーい」

「煩い!ガキども庇うのとさっきの攻撃でブースト重ねただろっ。その鼻血とその目がお前の脳が飽和しかけてる証拠じゃねぇか!」


 よく見ると確かにリンディの目はかなり充血しており真っ赤になりかけている。


「あの二人にシールド全開で張って、応急処置してからなるべく遠くに飛ばして、さっき頑張ってサイコショット撃っただけ……」


 そう言いながら誤魔化し切れないと悟ったのかショボくれた顔でリンディが下を向いた。


「どアホ!飛ばしまくってるだろうが!命令だ、あの二人の護衛をしながら撤退しろ」

「でも、結界が……」

「境界線まで下がれ!ガキどももどうせそこだろ。あとはコイツらとなんとかする……。コレット!」


 少し後ろの木々の影からコレットがひょこっと顔を出す。


「よく逃げ切ったな。で、そろそろいけるか?」


 疲れた顔をしたコレットがおもむろに空を指差す。


「今の状態ではアレが限界よ。牽制ぐらいには使えるかしら」


 木の隙間から黒い影がヘカントケイルに向かって滑るように飛んで行くのがみえた。

 そのヘカントケイルの風穴は既に肉が埋まっており組織は既に修復が始まっている。

 が、ソータは何か違和感を感じていた。さっきより遅い?肉が埋まっているだけで身体として構成されてない感じだ。おまけに腕は再生されていない。


<先程までの攻撃により、組織修復に使用するエネルギーを大幅に消耗したと思われます>


 そうか、何らかのエネルギーで回復しているのなら無限に治る訳ではないのか。いずれは回復できなくなるはず。

 とはいえ、あとどれくらいかかるか、だな。


<参考になる戦闘データ該当なし。下位種とはいえ時間を要すると推測>


「ネマ、なかなか厳しい意見だな」


<過去のデータと戦力を分析し、AIとしての意見を述べたままです>


 しれっと言っているがなんか最近人間くさくなった気もするが、今はヘカントケイルだ。


 そのヘカントケイルは呻きながら暴れ始めた。なんか様子がおかしい。頭を掻き毟る、いや抉っている?! 

 血が吹き出るが気にせず肉をむしるように掻きむしっていた。更に切断した二本の腕の一本の前腕の骨が、剣のように変形しながら修復されている。

 血塗れになりながら、二本の腕と一本の骨剣という歪な姿に再生されていった。もう一本は修復されていない。


「フシュシュシュ、アレは危なかッたナ。だガ、ムダだ!キサマらはここデ消えル!」


 あれ? なんか、おかしくなってないか?!


「あー、あの人、魂が変質してるかも。そもそも器が違い過ぎて受け入れられないのに、更に能力を全開で使ってたもんね」


 コレットが横でボソっと呟く。


「どういう事だ?」


「あの人も言ってたじゃない。魂がどこまでもつか分からないって。いくら人型でも異質な鬼の体に適応能力もないのに同化して、何回も……それこそ死ぬような痛みを繰り返し受けて。再生するのに異質な力を使い続けて……。そもそもが違う存在なのに、魂が削れない方がどうかしてるわよ。私ならゴメンだわ」


 憐れむような目線でヘカントケイルを見つめている。


「だからと言って同情も情けもかけてやる気もないけどね。……あいつらは奴らと組んでいるんだもの」


 最後の言葉は呟きに近かった。


「コレットはさがってろ。お前も守りながら戦うなんてムリだ」


 前線で戦闘力皆無のコレットなんかお荷物以外の何者でもない。


「ダメよ、臨機応変に対応するなら近くがいいの。声の届く範囲だけどもちろん出来るだけ離れるわよ。私だって死ぬのはゴメンよ」


 よろしくね、と言って肩を叩くと少し下がっていく。


 面倒ごとばかり押し付けやがって。とは思うものの普段みない踏ん張りをみせるコレットに内心で驚いていた。

 三人でヘカントケイルのもとに駆けつけた時には

 ヘカントケイルの再生はほぼ終わり、呻き声とも咆哮ともつかない声を発する。


 その声を合図とするかのように空から火球が降り注ぎ、ヘカントケイルが再度燃え上がる。続け様に降り注ぐ火球は剣と化した腕が真っ二つに切り裂かれ、後ろで火柱をあげた。


 旋回するように飛ぶ黒い影が上空に上がっていくのがみえた。

 コレットの召喚獣、ワイバーン。竜種ではあるが所謂、ドラゴンとは見た目がだいぶと違う。大きさは小型であり尻尾が矢印みたいになっていてシルエットが特徴的だが、中々に醜悪な顔付きをしてい

る。


 ヘカントケイルの気がそがれた瞬間にミゲールが踏み込み間合いを詰め斬撃を繰り出すが、反撃の拳がミゲールに迫る。

 大きく飛び跳ねて回避しところに、上空からワイバーンが急降下してきた。


「デッドリーテイル!」


 コレットの声とともに鞭のように振るわれた尻尾がヘカントケイルに突き刺さる。刺された場所から拡がるようにドス黒く染まり出す。ワイバーンの猛毒がヘカントケイルの動きを鈍らせたのか反応が遅い。


 あ・わ・せ・ろ!


 走り出しながら腕からコネクターを引き出しヒートソードに繋ぐ。


<有線での接続を確認。ヒートソードに限界までエネルギー供給開始>


 刀身が淡い白に染まる。エネルギー残量が少なくなっているが気にしている場合ではない。

 ヒートソードを肩口に構え弾かれたように飛び込んでいく。

 危険を知らせるアラート音がソータの頭に鳴り響くがチャンスは今しかない! 隙間を縫うように、すれ違いざまに胴を切り落とす勢いで薙ぎ払った。


 確かな手ごたえとともに脇腹を切り裂き、駆け抜けた、はずが宙で止まる。

 振り返るとソータの足が掴まれていた。あのタイミングならいけたはずなのに。


「%○¥$-/」


 もはや言葉とはいえない異音を口にするとニタリと醜悪な笑みを浮かべ、足を掴んだままソータを地面に叩きつけた。受け身を取ることも出来ず小さなクレーターを作ると二度、三度と振り回すように繰り返す。内骨格(フレーム)が一撃ごとに悲鳴をあげる。


<システム及び内骨格(フレーム)の一部損傷、これ以上のダメージは危険と判断します>


 4回目に宙を舞いながらネマが冷静に状況報告をする。


「二段霞斬り!」


 ミゲールが抜刀とともに下段より振られた剣の軌道に沿って血潮が舞う。

 同時にミゲールの姿が消え、挟み込むように後ろに現れると上段から切り捨てた。


 フッと振り回されていた体が軽くなった。見ると掴んでいた腕が切り落とされている。

 腕ごと地面に滑るように転がっていく。


 ネマが細かいダメージをアナウンスしていたがとりあえず無視を決め込んだソータは状況把握のために辺りを見渡す。


 技の硬直で動けないミゲールを鉄塊のような拳が襲うとあり得ない速度で飛ばされ木の幹にめり込んだ。


「ミゲール!!」


 ソータをを助ける事で自身がやられたら意味がないだろう! ここからでは無事を確認できないが、あのミゲールがやられるはずはない。きっと、さっきの空蝉とやらを使っている。


 そう信じたソータがヘカントケイルを見ると、脇腹の再生がかなり遅くなっている。腕は傷も塞がっておらず再生はできていない。毒の影響か動きも鈍いままだ。

 ソータは近くに突き刺さっていたヒートソードを抜き、再度チャージをおこなう。


 ほぼ同時にワイバーンから放たれた火球が次々とヘカントケイルに襲いかかり、爆炎に包まれる。


「ウインドレイザー!」


 コレットの掛け声とともに炎と煙の中飛来したワイバーンが翼を大きくふるう。

 ゴウッと風が舞うと真空の刃がヘカントケイルの体を切り刻んだ。並の人間ならその一つ一つが命を奪うに値する攻撃だ。


 再生が追いつかなくなったのか傷が治る様子が見当たらない。

 大きく吠え、剣と化した腕を振るうと真空の刃を切り裂く衝撃波が放たれた。ワイバーンが袈裟懸けに切られると血飛沫を撒き散らし吹き飛ばされながら地に落ちる。


 脇ががら空きだ!

 一足で超躍すると身体をぶつけるながら肋骨の隙間を縫うようにヒートソードを滑らせる。

 心臓と思われる位置に突き立て捻りながら引き抜いた。


 ゴフッと大量の血を吐きヘカントケイルの動きが止まる。首を刎ねても再生する勢いだったがその力の大半を失ったであろう今では失った臓器を再生する事は出来ないようだ。

 力なく垂れ下がる三本の腕を油断なく見ながら、身体の再生がされていない事を確認する。


 勝った……6人がかりで、しかも満身創痍だがなんとか勝てた。


 ソータが動かなくなったヘカントケイルを脇にコレットは大丈夫かと意識を一瞬外したその瞬間に剛腕が唸りを上げて襲いかかってきた。

 もはや体は死んでいるだろうが最後の力で攻撃をしてきたようだ。しかしあらぬ方向に轟音を立てて拳が地面にめり込むと今度こそ本当に動かなくなった。


「あぶねーな。本当に化け物になっちまったんだろうな。」


 完全に動かなくなったであろう多腕の怪物に油断なく目を配りながらコレットに近づく。


「コレット、大丈夫か死んでないか」


「生きてるわよ、大変なのはワイバーンぐらい。ミゲールは大丈夫なの?」


 そのワイバーンは大きな傷が斜めに残っており今は地上で休んでいる。よくみると蒼い粒子が薄く舞っているのが見える。あまり長くは留めておけないようだ。


 ヘカントケイルの方は倒したのに消える様子はない。不思議そうな顔をしていたんだろう。コレットがやれやれといった表情をしている。


「こいつは受肉してるのよ。こっちの世界で完全に肉体を持ってるから死体が残ってるの。とはいえ、異物でしかないからそのうちには消えてなくなるかもね」


 そんな事よりミゲールがどこかに飛んでいったんだった。探さないと。

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