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62 狂信者の戦い方

そのコレットに別の召喚士の目がギロリと向くとみるみるうちに恐ろしい表情に変わっていく。


「お前か!召喚術を操っていたのは!この裏切り者め!あと何人隠れている!出てこい!皆、天罰を加えてやる!」


 口から泡を飛ばさんばかりに激しく罵る召喚士の迫力に押されたのか更に木に隠れつつもその顔を睨み返す。


「裏切りも何もあんた達とは関係ないでしょう。それにここにいるのはわたし一人よ。何言ってるのよ」


「嘘を吐くな!あれだけの僕が現れて一人の訳がない。少なくとも三人以上はいるはずだ!」


「何言ってるのか分からないけど、わたし以外にはいないわよ」


「そんな筈はない!」


「ウソじゃないもん!」


 その言葉を聞き、訝しむように周りを見渡す召喚士だったが何を見ているのか目の前にいるミゲール達ではなく森の周囲に目線を彷徨わす。

 トロールに掴まれていた男がそのままの姿でもう一人の召喚士に声をかける。


「司祭様……、この者が言う事は真のようですね。他の召喚士の反応が感じられません」


「だとするとあの娘は一人で数多の僕を使役している事になる。あり得ん!!」


「私もそう思いますが……」


 その会話を聞いてミゲールが刀を構え直しながら後手でハンドサインを送る。内容は最大限に警戒しろ、であった。

 今の会話の内容はどういう意味だろうか。コレット一人で召喚しているのがおかしいという内容に聞こえた。


「娘、お前は数多の僕を使役しているな。なぜ理を超えた事が出来ている?」


「知らないわよ。出来るもんは出来るのよ。理だかなんだか知らないけどアイツらの仲間にはムリな話じゃないの」


「理の外れた分不相応のその力。娘、まさか……」


 その言葉が終わらないうちにトロールに掴まれている司祭に苦無が放たれるが、その全ては巨腕が肉の盾として防がれてしまう。


「悠長にしゃべってんじゃねぇぞガイア共!こっちはお前らを殺したくてウズウズしてるだからなぁ!」 


「娘!お前の存在は危険だ。今ここで何としても死んでもらわねばならん」


「勝手な事言わないで!アンタ達のその訳わかんない考えのせいでわたしは……私たちは……」


「お前達は理解が足りぬのだ!神々の、大司教様の、偉大なる意思の元、世界を一つにする事がどれだけ素晴らしい事か解らぬ異教徒に裁きを下してやる!」


 そう言うとトロールは大きく後ろに下がり、司祭は何やら祈りを捧げるように何かを呟き始める。その声に合わせるように先程やり取りしていた召喚士も声を合わせた。


「何か仕掛けてくるぞ!奴らを止めろ!」


 ミゲールが司祭めがけて苦無を投げるも同じようにトロールの巨腕に阻まれる。


「あまい!」


 その言葉が終わるや否や苦無が爆発した。防がれる事を予想していたミゲールは苦無に爆符を仕込んでおり、それが派手に炸裂する。

 煙が晴れるとトロールの腕の一部が損傷しており、至近距離でその爆風を受けた召喚士もかなりのダメージを受けているようだった。しかし、それでも止める事なく祈りの言葉は続いた。


 召喚士達の詠唱が終わると突然、トロールを中心に周囲が紅く輝くと不思議な幾何学模様が浮かび上がった。


「なんだこれは?」


 ソータは本能的に思わずその場から離れる。他の仲間も怪しげな模様を警戒してトロールから一旦距離を取り直していた。その間を埋めるように複数の光が立ち昇り新たな召喚獣が現れる。その全てがアンデットであった。


「この身と魂を神の供物に捧げます。モリガン様の大いなる慈悲によりこの使徒に新たなる力をお与えください」


 その言葉が終わるや否や掴まれていた召喚士がトロールに喰われた。

 あまりの異常な出来事に皆、戦闘中にもかかわらず呆然としてしまう。


 召喚獣の暴走か?

 いや、あいつは供物に捧げるって言ってた。

 なら、すすんで喰われたのか?!


 ソータの全身を鳥肌の立つような悪寒が走る。信じるモノの為に自ら喰われにいくなんてマトモな精神では出来るものじゃない。ガイアという狂信者達の狂気じみた考えはとても理解できなかった。


 その間に召喚士は血溜まりを残してトロールに食べ尽くされていた。

 トロールからの発せられる気配が変わり、より大きくなった。戦闘に慣れていないソータでも分かる。こいつはヤバいやつだと。


 焼け爛れていた体と爆散していた腕が逆再生のように修復されていたかったと思うと、体も膨らむようにより大きくなっていく。

 それどころか、肩の付け根から肉が盛り上がるとみるみるうちに腕が生えてきた。四本腕の鬼のような姿に変異している。


 ほんの僅かな間にトロールはまるで別の存在に作り替えられていき、四本腕を持つ巨大な鬼の姿へと変貌していった。


「まさか?!多腕巨鬼(ヘカントケイル)…」


 ミゲールのつぶやきが聞こえる。


「フハハハハ、本来のお姿には遠いがお前達にはこれでも十分なはずだ」


 残っている召喚士が狂気じみた笑いを上げながらヘカントケイルと呼ばれた鬼に近づく。


「彼奴も羨ましい限りだ。神のもとにお近づきになれたとは。私も早く逝かねば」


「ガキども下がれ! あいつはお前たちではどうにもならん!」


 ミゲールが焦った声で撤退を叫ぶ。


多腕巨鬼(ヘカントケイル)ってそんなにヤバいのか」


<出現情報は大戦末期に数件確認。ですがその殆どで全滅していたため公式戦闘記録は一件のみです>


「全滅⁈」


<映像記録がわずかに残されていますが部隊は全滅。記録にあるものよりあの個体は腕が少ないですが、危険ではないかと判断します>


 ネマの知り得る範囲でも危険って事だな。


「わたし達も」

「戦えるゾ!」


 ルシンとファロムが斬撃と流星錘の投擲が放たれるが表皮を薄く傷つける程度に留まる。基本の耐久値も上がっているようだった。


「むぅ、お姉チャン、アレいくヨ!」


「いいわよ!」


 通常攻撃では効果がないと判断した二人は構えを変えた。

 ファロムが大きく両手を振りかぶり装備している猫爪を伸ばす。

 ルシンがチョーカー型周波数拡張装置(リサウンドシステム)を起動させると大きく息を吸い込み溜めた。


方眼爪(スクエアズクロウ)!」

衝撃声(ソニックボイス)!」


 ほぼ同時に放たれた二つの技は絡み合うように重なる。

 不可視の斬撃が空を裂く。その斬撃に空気を揺らす衝撃波が幾重にも重なると、その斬撃は小さな揺らぎを作り徐々に細かい振動となった。

 一瞬耳鳴りのような高い音が聞こえたかと思うと音が消える。


「合技、サイレントスラッシュ!!」


 直後、前衛に位置していた雑魚召喚獣の群れが細切れになる。わずかに残されていた大型召喚獣が防御したようにみえたが、抵抗する間もなく両断された。

 前衛に残っていた召喚獣が一斉に消滅し粒子と化すと、周囲が紅い霧に包まれたようになる。


 その斬撃は劣える事なくヘカントケイルに届くとその体を次々と斬り裂く。一瞬にして全身にマス目のような深い傷が刻まれた。

 普通の相手なら今の一撃で細切れにされているだろう。事実、指など細い部分はほぼ切断されている。

 どうやら、衝撃声(ソニックボイス)で高振動を付加することで斬撃の威力を上げる合体技のようだ。


「この程度、どうという事はない!」


 召喚士が声をあげるとヘカントケイルは全身からおびただしい出血をしていたが、咆哮とともに出血が止まる。そして、異常な速度で傷が塞がっていく。


  続け様にファロムから無数の斬撃が飛ぶが、その全ては驚異的な回復に阻まれ、気付けば無傷に近い状態になっていた。

 あまりの回復速度とタフさをもつ本物の怪物を前に二人とも脅威を感じているようだ。


 ヘカントケイルは攻撃を食らいながらもそれぞれの手で近くの木を無造作に引き抜くと槍投げのようにファロムの方に投擲した。

 唸りを上げ、尋常でない速度で木が一本丸ごと飛んでくる。


 幹に当たれば致命傷どころではない。いくら人より丈夫な獣人(ミュータント)の二人でも同じ事

だ。が、回避に専念すれば真っ直ぐに飛んでくる幹には当たることはない。


 ファロムは一瞬、この木を切断しようかと考えたがあまりの速さに瞬時に判断を変え、何かを感じ回避する事にした。

 しかし、逃げ道を塞ぐように続け様に三本もの木が襲ってきた。回避には自信がある、幹は避けられる。

 しかし、横に大きく拡がる枝葉はそうもいかない。四本も襲えば彼女達の逃げ道を塞ぐ程度の範囲攻撃には十分だった。


 綱渡りのように避け続けていたが、何本目かの木の枝葉がファロムの体を捉えるとバランスを崩す。そこに次の枝葉が襲いかかり猛烈な勢いでその身体を飲み込んだ。


「ファロム!」


 その瞬間に飛び出したルシンが庇うようにファロムを抱き抱え、そのまま木とともに遥か後方へと姿を消していく。


「ガキども!」

「ファロム! ルシン!」


 ソータとミゲールが当時に声をあげる。枝葉とはいえ、子供の胴体の太さぐらいはあるだろうか。それが質量と速度を伴って塊で投げつけられている。場合によれば致命傷になりかねない。


「まだまだです。ニルヴァーナの手の者にはこれでもまだ足りない」


 残った召喚士は更に詠唱を続けながら一人がヘカントケイルの背中に触れると、その体が水に入るかのようにズブズブと背中に沈んでいく。十秒足らずで完全に溶けるように召喚士はヘカントケイルの体に吸収されるようにいなくなった。


「フハハハハ! これでお前たちには勝ち目がなくなったな」


 ゆっくりとこちらを振り返ったヘカントケイルの口から召喚士のひび割れた声が発せられる。


「バカな、憑依だと! あれは司教クラスのみが扱える技のはず!」


 ミゲールが拳を震わせながら怒鳴るように声を張り上げる。


「正確には受肉と言うべきでしょうか。司教様のように神の寵愛を受けていない私のような者では神の力を身に纏うなど恐れ多いことはとてもとても……。ですが、司祭の私でも神の(しもべ)と同化し受肉する事で自我を持ちこの世界でも本来に近い力を振るうことがを出来なくもないのですよ」


 召喚士の狂気じみた笑い声が木霊する。


「もっとも、もはや元には戻れませんし、私の魂がどこまでもつのか分かりませんが……。それでも、お前達を引き裂くには十分な時間はあるでしょう」


 ヘカントケイルはゆっくりとこちらに向き直ると構えをとる。


「偽りの神の僕ども、消えてなくなれ!!メガリス!」


 その声に呼応するように各々の手に巨大な岩が出現するや否や次々と投げつけてきた。

 デカイがただの岩の塊などソータには脅威にはならない。壊してやる。

そう意気込みスキルを叫ぼうとした。


<回避を!!>


 ネマの鋭い警告が響き慌てて踏み出しかけた足を止め避ける。

 ただの岩と思っていた物は砲弾のような速度で放たれ脇を掠めたかと思うと、遥か後ろから破裂音が聞こえた。


 まて!後ろには獣娘(ファロム)達やコレットもいる!


<回避を!!>


 ネマの叫びに近い声が再度響く。咄嗟に巨石をかわすと後方から再び破裂音が響く。


 クソ! せめて、流れ弾があいつらにいかないようにしないと。あの図体で遠距離攻撃とか反則だろうが。


 次々と飛来する巨石をなんとか回避しながら、ソータはミゲールに合図を送った。

 俺達でコイツを止めないと。と。

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