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61 vs召喚士

 周囲を見渡すと、先程の剣戟が嘘のように静まり返る森が広がっている。だが、地形が変わる程の激戦の後は紛れもなく、ここが戦場である事を嫌でも感じさせてくる。草木は折れ、地面は裂け、その跡には何かのしみた土が広がり、森の静寂は戦闘の激しさを物語っていた。


 吹き飛ばされたルシンが木々の間からフラつく頭を振りながら辺りを見渡している。そこに無事なファロムとミゲールの姿を確認すると安心したのか木にもたれ掛かった。


「ファロム、ミゲールさん。無事でよかった」


「姉チャン、動いて大丈夫カ?」


「大丈夫よ。まだ休んでいられないもの」


 ファロムが慌てて駆け寄るが手で制し問題ないとアピールしている。しかし。いくらミュータントととはいえ無傷とはいえないだろう。

 もたれ掛かり、息を整えているルシンにミゲールが近寄る。


「このままだと戦闘に影響が出る。撤退するか?」


「いえ、このままやらせて下さい。ファロムを残しては行けませんし、何より皆さんのお役に立ちたいんです」


 真っ直ぐに見るルシンに呆れたようにミゲールは肩をすくめるとポーチを開け中から一本の短い棒を取り出す。よく見ると針のない大きな注射器のように見える。


「このまま逃げ帰れば戦死扱いか行方不明で逃げ出せただろうに。そこまで言うならもう少し働いてもらうぞ」


 そう言うと棒をルシンの太ももに押し付けた。バネが弾けるような音がするとルシンの顔が痛みに歪む。


「回復促進剤だ。ミュータントに効くかは知らんがまっ、なんとかなるだろう。短時間で治すから少し痛むがな」


 誰でも使えるようにと開発されたニルヴァーナ特製の回復促進剤は押し付ける事でバネで針が飛び出し薬液を注入する。体内に入ればいいので、特別な練習も必要としないお手軽なものだった。少々の骨折や内臓の損傷程度なら治せる程の万能薬だが、組織修復の際の痛みが不評で緊急時以外は使いたがら者がいない物品だった。

 だが、効果は折り紙付きでまもなく、ルシンの表情も徐々に穏やかになりしっかりと立てるようになっていた。


「ありがとうございました。おかげさまですぐ動けそうです」


「悲鳴もあげずに耐えるとはな。少し休んでから復帰しろ」


 自身のダメージに応じて回復時の痛みも異なるが、それなりの痛みを伴う為に屈強な兵士でも声を上げる代物である。それに耐えたルシンに感心したミゲールは少し休むように声をかけた。


 周りを見渡せば、地形が変わるような戦闘の後が見られるが死体も血糊も残っていない。

 かつて、ガイアが仕掛けた救済という名の宗教戦争の際も同じように味方の被害は見えるが敵は消滅する為に何も残らず戦果が分かりにくい為、兵士のモチベーションに影響を与えやすいものであった。何しろ召喚士を倒さない限りまた湧いてくる、ガイア側は何も消耗している訳ではないのだから。


 残るは召喚士達と護衛のトロールだけになっていた。全ての召喚獣が消えた事は予想外だったのかその顔は見えないが動揺が見てとれた。恐らくはそれなりに上位に位置する召喚獣を使役していたのだろうが相手がソータ達、第十三独立戦隊だったのが運の尽きだったのかもしれない。


 リザードマンやスケルトン、ゴブリンなどが次々と召喚されるが、もはや敵ではなくヒートソードでなぎ払うと跡形もなく消えていく。ミゲールは召喚の光の柱が浮かび上がる先から切り裂いていき、まさに鎧袖一触の勢いであった。ファロムは相手の頭の上を飛び移りながら爪で切り裂いていては光の粒に変えていた。


 召喚士達は逃げ切れないと悟ったのか、トロールを前に出し少し離れた位置まで下がっていた。

 そのトロールが巨大な棍棒を振り上げ接敵してくるのをソータが前に出て相手をする。ミノタウルスを超える大きな身体であるがソータからすれば動きが遅い。肩に飛び移り背中から袈裟懸けに斬りつけ、返す刀で脚をなぎはらう。


 闇雲に振り回された手足を避けて距離を取り直すと、トロールの傷は早くも再生が始まっていた。

 ヒートソードの火力でもこの再生速度となるとナイフ程度では全く太刀打ち出来なかっただろうと考えるとゾッとする。


「コレット! いけるか?」


「ごめーん、弱っちいのなら兎も角、大きなのはまだムリー」


 未だ復帰しきれないルシンの穴を埋めるような召喚獣を喚べないかと確認してみたソータだったが、同時召喚に加えて大型召喚を行ったコレットの精神力はそれなりに減少しており次の召喚がおこなえるような状態ではないようだ。


「わたしに任せて! 炎の火柱にしてやるんだから!」


 リンディがトロールの姿を睨みつけるかのように目を鋭く見開きその姿を凝視する。そしておもむろに手の平を突き出すとその開いた手を力強く握りしめ叫んだ。


「パイロキネシス!」


 トロール周囲の空気が急速に熱を持ち始めると突然、なんの前触れもなくその身体に小さな火種が現れた。その小さな火種は瞬く間に急速に炎となり、次の瞬間には爆炎へと変わったかと思うとトロールの身体を包み込み天をも焦がす勢いの火柱となった。

 激しく身体が燃え盛り、周囲に肉の焦げる匂いが立ち込めていく。

 力強く拳を握りしめていたリンディだったが、数秒後には頭を押さえながらしゃがみ込んでしまった。


 リンディがしゃがみ込むと同時に急速に炎はおさまり消えてしまった。爆炎に包まれていたトロールは炎により全身の多くにかなりの火傷を負い一部は炭化しかけている。さすがに致命傷といかないが再生は切り傷に比べて明らかに遅いようだった。


「ミゲール、攻めるよ!」


 前にふみだそうとしたソータを制するよう棍棒を真横に大きく振るったトロールはその大きな口開き咆哮する。

 その咆哮は雷鳴のように轟き周囲の空気を震わせ、声の大きさだけでも攻撃されたかのような衝撃をうけ思わずその場に足を止めた。

 耳を塞いでも襲いかかった衝撃は耳鳴りと頭痛をひきおこし、コレットはその大音量を前にふらつくと膝をついてしまう。


「また音響兵器?! もうヤダー!」


 耳鳴りで聞こえづらいために声量が馬鹿になっているコレットは大声で叫ぶ。


 トロールは近くにいた召喚士の一人をその巨腕で掴みあげると距離をとるように大きく下がった。


「先程の首狩りの技、忍者がいるな!ならば、貴様らはやはりニルヴァーナの手の者か!」


 後衛に位置していた召喚士の一人が憎しみのこもった射抜くような眼でミゲール達を睨みつけながら叫ぶ。その目を正面から見返したミゲールは刀を突きつけるが、その距離は間合いからはしっかりと離れており動かれても反応が取れる距離を取っていた。


「だったらどうだと言うんだ。大人しく殺されてくれるのか?」


「我らが神、ゲーテの名にかけてここで確実に殺す!」


「へーんだ、あんた達の召喚獣はそいつだけじゃない。そういうのを負け犬の遠吠えっていうのよ」


 復活したコレットが木に隠れつつ後ろから煽っているが、前に出ている人が痛い目にあうから本当にやめて欲しい。

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