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60 それぞれの戦い 2

 長身の戦士(ドラウグル)が巨大な槌を振り上げては地面に叩きつけると一撃ごとに地が裂け、石礫が飛び散った。その礫ひとつでも銃弾と変わらぬ威力があり並の人間では近寄る事も出来ない。

 ミゲールはその全てをかわすと分厚い鎧の隙間に刀を突き立てようとするも素早く振るわれた槌により硬質な音とともに弾き返されてしまった。やや痺れそうになる手を振りながら、全身鎧(フルプレート)に包まれた中世の騎士のような姿の召喚獣を見直す。剣でも斧でもなく槌はさすがのミゲールもやり合った経験はほぼない。まともに受けては確実に叩き潰されてしまうだろう。攻撃を加えても鎧は硬く打つ手がないように思える。


「ソータとどっちが硬いんだろうなぁ」


 ニヤリと笑うと片手で素早く印を切り始める。


「威攻天!」


 真言を唱えるとミゲールの刀が淡く光り輝く。

 再び襲いかかるドラウグルの巨搥を避けると今度は鎧の上から胴を斬りつけると硬い鎧を易々と貫き肉を裂く手応えが伝わってきた。

 赤黒い体液と腐臭が傷口からこぼれ出て地面を汚していく。


「威攻天の加護だ。よく効くだろ?」


 対象を強化、増強する威攻天と呼ばれる技は真言という不可思議な力の一つである。

 忍者であるミゲールはこの真言という呪法を操る事が出来た。加護を与えてくれる存在の力を正しい手順を踏む事でその力をかり受け具現化する。その力を与えてくれる存在が何故かガイアは気に入らないようで、過去の度重なる両者の争いの末。この技を使える者は少なくなっていた。その忍者の力を使うミゲールは剣を振るい血糊を飛ばすと油断なく構えた。


 ドラウグルはいわゆるアンデットの中でも実体を持つ種類に属し、その中では割と高位に属する召喚獣であった。

 かつての歴戦の強者がレブナントでありそれを率いるような猛者がドラウグルだと思えば分かりやすいだろうか。

 砲弾クラスの大型火器か、ジャンヌのような高度なスキルを扱える銃士や兵士でもなければこのような上位の召喚獣の身体や武具には傷をつける事も難しいだろう。勿論、この程度の召喚獣を倒せないようではニルヴァーナで大尉などはやってられない。

 しかし、いくら忍者という希少なジョブでかつ真言という不思議な術を操れるとはいえ、さすがのミゲールでも加護なしでは時間がかかりすぎる。とはいえ加護もいつまでも使える訳ではないので長期戦はリスクが大きい。そもそも忍者は忍ぶ者であって正面切って戦うなんてムリがあるのだ。

 一瞬で勝負を決める方法に切り替えたミゲールは即、行動に移す。


「影縫い」


 素早くドラウグルの影に苦無を投げつけるとドラウグルの動きが一瞬止まる。精神攻撃に近いこの技は死者にはほぼ効かないのは分かっているが、ミゲールはその一瞬の時間で十分だった。

 同時に弾かれたように跳躍するとドラウグルと交差する。


「裏・崩花」


 刹那の煌きの後、ゴトリという音とともにドラウグルの首が地に落ちた。忍者の秘儀の一つ、一撃必殺の首切り。

 本来ならば牡丹の花が崩れるかのごとく、首を落とし、血潮が首を赤い花のように染める技である。

 今回は血潮はなく断面から黒い腐肉がのぞいていただけであったが。

 首を失ったドラウグルは暫くユラユラと揺れていたが、そのまま膝から崩れ落ちるように倒れる。


「フン、大した事もない」


 ミゲールは術を解き、刀を強く振るうと血糊を飛ばす。


 ガキどもは大丈夫だろうか、と戦況を見極めるべく周囲を見渡す。ソータは牛頭をねじ伏せていて、コレットのサポートもあるから大丈夫のようだ。あの姉妹は……今しがた終わったようだな。残りの敵は本体だけだか。


 アイツらは、ガイアどもだけは誰一人生かしては返さん!

 久々の仇敵を前に気持ちがはやる。刀の柄を力強く握り締め、次の敵を睨みつけた。

 後衛にいた召喚士達に一撃を加えるべく別の術を展開しようと印を結び始める。


「ミゲール!」


 リンディの叫び声に振り返ると、そこには先程首をはねたドラウグルがハンマーを振り下ろしているところだった。


 いつの間に!?


 屍人は許容度を超える損傷を受けると消滅する。その損傷度には心臓を破壊する事や手足を潰すなどもあり首を刎ねるのもその一つであった。屍人だから首を刎ねても無事なものもいるがその時点で許容度を超える損傷を受けているのでほぼ消滅する。今回もそのはずだったのだが、術者が強いのかこの個体が強いのか消滅しておらず、それを確認していなかったのがミゲールの大きなミスであった。


 振り下ろした巨搥は大地に深々と突き刺さると地面が轟音とともに砕け散り、大地を震わす衝撃波とともに無数の石や岩の飛礫が飛び散ると噴煙のようになりミゲールの姿をかき消す。

 土煙が晴れると地面が大きくに抉れ裂けており、その破壊力の凄まじさを表していた。


「ミゲールさん!」「ミゲール〜!」


 今しがたレヴナントを撃破したルシンとファロムがミゲールと思わしき姿を瓦礫の中に確認し走り寄る。

 その姿をまるで無い頭で眺めるかのようしていたドラウグルが、ゆっくりと巨搥を引き釣りながら歩み寄ってきた。


 瓦礫を必死にどかしていると岩の下にミゲールの服の裾が見えた。

 ファロムがミゲールの服を引っ張り出そうとしている間にルシンがドラウグルと対峙する。


「あなたの相手はわたしです!」


 流星錘を振り回しルシンがファロムの前に出る。


「ポイントスロー!」


 大きく振りかぶると急所に必中の一撃を渾身の力で投擲する。

 唸りを上げて流星錐がドラウグルの胸元に飛んでいく。首かないにも関わらずまるで見えているかのように手で掴みとろうとするが、ありえない軌道を描きその手を避けると胸元に吸い込まれた。


 ゴウンッ!


 その武器の大きさからは想像もつかない、巨石をぶつけたかのような鈍い音が響きドラウグルが僅かに体勢を崩す。が倒れる事はない。


 鎖を手繰り寄せながら、ルシンは次の技を叫ぶ。


「ホールドチェイン!」


 弧を描くように投擲すると、ドラウグルの腕や脚に鎖を巻きつけるように絡める。今の一撃で倒す事は困難と判断したのか行動制限を狙ったようだ。


「これ以上は行かせません!」


 ギリギリと鎖を引きドラウグルの動きを抑え込む。


 が、次の瞬間、ドラウグルは大きく身体を捻るように振り回すとルシンは握った鎖ごとドラウグルの圧倒的なパワーにより宙に飛ばされた。その勢いのまま、近くの木に叩きつけられる。


「お姉ちゃーん!」


 ファロムが悲鳴のような叫びをあげるが拘束が解けたドラウグルの巨搥は無慈悲に振り上げられ次のターゲットであるファロムに狙いを定める。

 ファロムは恐怖のせいか座り込んでしまい猫耳も頭に貼りつくぐらい倒れていた。


連翹(れんぎょう)!」


「サイコサンダー!」


 突如、ドラウグルの真上にミゲールが現れると凄まじい速度で縦回転をしながら肩口から胴体に至るほどに袈裟懸けに斬りつけると、刀を残したまま素早く離れる。

 瞬きほど遅れて後方からリンディが手をかざすと周囲が放電し光り輝くと同時にミゲールの刀に向かって閃光がほとばしった。


 空気を切り裂く鋭い音とともに閃光が刀に落ちると一瞬、視界がホワイトアウトし周りが見えなくなる。視界が徐々にクリアになると全身から煙をブスブスと吹き上げた巨大な首なし甲冑は今度こそ紅い粒子となって消えていく所だった。



「クソが!大事な上着が台無しだろうがっ!」


 上半身がシャツ一枚になっているミゲールがファロムのもとに近寄りながらドラウグルのいた方に向かって叫ぶ。


「ミゲール?じゃあこの服ハ?!」


 岩に潰されている服を指差すファロム。


「あー?空蝉だよ」


 ダメージをある程度食らうが身代わりと入れ替わる技を発動させていたミゲールら面倒臭そうに答えると無理矢理に服を引き出して羽織り落ちている刀を拾いあげた。


「もー、心配したんだからー!」


 頰を膨らませてポカポカと叩いて怒るファロムに

 なんだ、こいつ?と言わんばかりの視線を向けていたミゲールは視線を動かすと戦況を再度見極める。

 各々がしっかりと役割を果たしたようで、召喚獣は一体を除いて撃退出来ているようだ。


「みたみた?私だってやればできるんだから」


 リンディが自慢気にやってくるのをミゲールがデコピン一発で沈める。

 額を押さえて悶絶しているリンディを放置して最後の敵である召喚士と護衛の召喚獣に近づいていった。

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