59 それぞれの戦い
レヴナント、復讐心や恨みなど明確な負の感情を持った生ける屍。ただ、生ける者を喰らうゾンビやグールとは感情をもつという点で大きく異なる。肉体が多く残っている為か動きも速く機敏でありその明確な殺意もあって、大戦中でも人工知能"Ω"の自動人形、その後の宗教戦争では人類と、かなりの苦戦を強いられた危険な存在である。
ただ、屍人ではあるが死体を直接使う訳ではなくあくまで召喚であり、神話の時代から抜け出てきたような古代の兵装で現れるのが唯一の勝ち筋かもしれなかった。
鋭い戦斧の一撃が横薙ぎに振るわれるのを軽やかに宙を舞いルシンが躱す。一薙でも当たれば無事では済まない風圧を感じながらな紙一重で避け続けていく。
ガイアの召喚獣と戦った経験はルシンは殆どなかった。なぜなら、見つかれば即、死に繋がっているからだ。ファロムとともに育ての親のいたコミニティーにいた際に一度だけ。その時は大人たちが奮戦し多くの犠牲を伴ったものの撃退できた。その大人たちも"Ω"の自動人形にやられてしまったが……。
あの時は殆ど何も出来なかった。ファロムも今以上に幼かった。だが、今は戦う力を身に付けている。あの頃のように震えて身を隠すだけの子供ではないのだ。
胸当てなど一部の鎧しか身に付けておらず、ボロボロの衣服を纏い錆びついた斧を持つ屍人。よく見れば眼球のあるべき所は深い闇があるだけで、骨に僅かばかりの皮を貼り付けているような姿をしている。
だが見た目と裏腹に生前に近いであろう敏捷さでファロムの攻撃をしのいでいた。見た目は既に朽ち落ちているように見える鎧は何故か赤い光を放って見た目以上の防御力があり攻撃を凌いでいる。
「何ダ、こいつ?変なヤツ」
繰り返し斬撃を放つファロムだったが相手の手応えのなさに戸惑いを隠せないでいた。何しろ当たっているのに血も出ないし怯む様子もない。まるで木や岩を相手にしているような感じを受けていた。
生ける屍を見るのも戦うのも初めてのファロムに取って未知の敵でありどうすれば良いのか分からなかった。
「姉チャン、どうしたらイイ?」
「死なない相手なんかいないわ。召喚獣なのだから必ず倒せる。動けなくなるまで叩きましょう」
「アイ」
物騒な発言をしたルシンだが、これはこれで理にかなっている。ファロムが変幻自在な攻撃を繰り返しては一撃離脱をしている隙をついて、ルシンは鎖付きの錘、"流星錘"を舞うように振り回すとでレヴナントの斧を絡めとり体勢を崩させる。斧を取られまいと鎖を引く力に合わせて跳躍すると一気に距離を詰めた。その無防備な頭に飛び蹴りを放つと鈍い音とともにレヴナントの首があらぬ方向に傾いた。
常人では既に致命傷であるが屍人には関係ない。なおも無理やりに動こうとする亡者を憐れみの目で見ながら、自分の首に巻かれているチョーカーに手をそっと触れる。
するとチョーカーは不思議な事に淡い光を放ちながら明滅し始めた。
レヴナントの顔に触れるほどの至近距離まで近づいたルシンはまるで子守唄のような優しい声を歌うように響かせる。
だが、その歌声とともに円を描くように周囲の大気が一瞬震えると今までの比ではない衝撃声が放たれる。
その声をまともに受けたレヴナントの身体が細かく振動すると砂のように崩れて崩壊し赤い粒子と化した。これでは子守唄ではなく鎮魂歌に近い。
今回の任務において、ソニアはこの二人にも試作品ではあるが新しい武器を手渡していた。その一つがソニア特製のチョーカー型の周波数拡張装置だった。
声の音域や音量の変更をサポートし拡大してくれるらしいが、これも詳しい事はルシン達では分からなかった。
「姉チャン、スゴイ!」
「油断してはダメよ。まだ残ってるから」
ファロムが関心しているが、まだレヴナントは一体残っている。
大人の身長程もある剣を構えて、無言で近づいてくる生ける屍を前にして、ファロムは全身の毛が逆立つような感覚があった。
正直、怖くないかと言われたら全力で否定する。
だが、相手は憎むべきガイアだ。
ここ数ヶ月は基礎とはいえ戦い方は叩き込まれたし、お菓子も沢山食べれた。その先生が一緒にいるし年は大きく変わらないソータもコレットも戦えている。そして何より、一番頼りになるするお姉ちゃんが側にいる。
怖いものなんてなにもない!
「やるゾォー!」
装備しているネコ爪を伸ばしてファロムが気合いを入れたところにレヴナントが剣を振り下ろしてきた。岩をも両断しそうな重い一振り。
が、キィーンと澄んだ音を響かせて流れるように受け流しをおこなう。
ミゲールに散々仕込まれたパリィだ。
ミゲール曰く「お前は目がいいし柔軟性があるから、躱すのもよいが受け流せるようになれ」とその日からひたすら仕込まれた。
結果、ファロムは持ち前の反射神経と訓練後に貰えるお菓子につられ誰よりも練習を重ねたおかげで、現状では部隊でもトップクラスの回避力を持つようになっている。
次々と襲い掛かる剣戟を踊るように回避し受け流す姿は剣舞を舞っているようにもみえる。
どの一撃も重く、並の人間より遥かに強靭なミュータントとはいえまともに防御すれば押し潰されてしまいかねない。
その振りかぶられた長剣の一撃を華麗に受け流すと、その剣は深々と地に突き刺さる。
「いただキ!」
両腕を体の前に交差させ大きく振りかぶる。
「方眼爪!」
ネコ爪を強く振り抜くと不可視の斬撃が飛び、レヴナントの身体をマス目状に大きく切り裂いた。同時にファロムは大きく跳躍し飛び上がると、その真後ろからルシンの流星錘が追撃する。
斬撃で脆くなっていたレヴナントの防具を鈍い音とともに突き破り胸に風穴を開けた。紅い光が舞い散りレヴナントが消えていく。
一瞬のタイミングのズレも許さない連携だったが、打ち合わせもなく出来てしまうのはさすがであった。
にぱっと笑いながらVサインを出しているファロムを見ながらどうやら余裕はあるようね、とルシンは思うのだった。




