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58 新兵器

 人の身体に牛の頭を乗せた怪物、昔々の物語で聞く空想の生き物。そのミノタウルスが今、ソータの目の前に巨大な斧を手にして立ち塞がっていた。

 負傷はさせているがかえってその獰猛な目に狂気が追加されたような恐ろしい光を放っている。

 痛みは気にしていないのか怯む様子もなく攻撃を繰り出してきた。


 電柱のような太さの柄をもつグレートアックスをバットのように振り回すので、かわすのも一苦労であった。掠っただけでも即ミンチになりかねない。ミンチになる肉はないけどな。そんなバカな事を考えながらかわし、時に斬りつける。そんなやり取りの中、まともに受ければどこまで飛ばされるか分かったものではない一撃が空を切った。


 その大振りの一撃の隙を逃さず、突き上げるように跳躍すると胴体を剣で貫く。

 肉の焼ける臭いとともに確かな手応えを感じたソータだったがその手応えが途中で止まった。ヒートソードは身体を貫くように刺さってはいたが急所は外されしかも途中で筋肉が締め付けて止められている。

 マジか!と一瞬思考が止まった瞬間、脳内に警告音が鳴り響く。


 ハッとした時にはミノタウルスが斧を手離し拳を振り上げていた。回避する間もなく巨大な拳がソータの身体にめり込むと、ボールのように跳ね飛ばされた。地面を何回もバウンドしながら転がり続けたが、空中で姿勢を立て直しなんとか着地する。


 体勢を崩したソータを追撃するべくミノタウルスは猛然と突進をおこなおうとしたが、その横から巨大な影が現れる。


「メガトンパーンチ!」


 コレットの声とともにアイアンゴーレムがミノタウルスに文字通りの鉄拳を繰り出した。

 ソータが吹き飛ばされたの見たコレットは慌ててフォローの為に召喚し間に割って入った。さっきの召喚の軍団の戦いはまだ続いていたが、各々に簡単な指示だけ出しており各自で自動的に対応させている。こちらがやや優勢で進んでおり余程の事がない限り壊滅する事はないであろう。


 硬質な音が響き鉄拳がミノタウルスの顔面にクリーンヒットして大きく仰け反る。しかし喰らいながらも、カウンターのようにグレートアックスがフルスイングで振るわれると轟音とともにゴーレムの身体が大きく凹みその場に膝をつき倒れた。グレートアックスも無事ではなく斧は砕け、柄は途中から二つに折れている。


「うそぉー!」


 見開かれた目には信じられない光景が映っており

言葉を失ったかのように立ちすくむコレットからは小さな悲鳴が漏れた。いくら相手が強いとはいえ、あのサソリロボと互角にやり合えたゴーレムがワンパンでKOされたのでは悲鳴の一つもあがるだろう。だが、おかげでソータが体勢を立て直す時間は十分稼いでくれていた。


「ヴモォォォォ!」


 咆哮とともに折れた斧を投げ捨てたミノタウルスが頭を下げると角を向けてソータに突進してきた。ヒートソードを構えようとするが相手の身体に突き刺さったままになっていて手元になかった。


 こいつ相手に余裕はなさそうだ。


 ミゲールの言葉を思い出す。リミッターを外してもっと本来の力を出せるように、だったな。

 アイツに勝つ、叩き潰す!

 強く思うと頭の奥でカチリと何かがはまったような感覚がし自然に言葉がこぼれる。


「ネマ!フルパワー!」


<レディ。プログラム1番から7番をカット。発電効率変更します>


 その巨体に似合わぬ速さで地面を揺らしながらミノタウルスが突進してくる。頭部に生える大きな二本の角が死を呼ぶどす黒い影としてソータに迫ってくるが直撃する寸前に身をよじると二本の角を掴んだ。


「ああぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら全力で踏み込み押し返すも角を掴んだまま後ろに引きずられていく。巨人と子供という明らかに大きさも質量も違いすぎるこの組み合わせでは仕方がない。むしろ吹き飛ばされていないのが不思議な程だ。ソータの足元には深い溝が走り砂煙が舞った。


「舐めるなよ、牛野郎!!」


 自分は人類初のフルサイボーグでありその存在そのものが単騎決戦兵器。機士を目指すならこの程度で負ける訳にはいかない。


「スタンナックル!最大出力!!」


 角を掴んだ状態でスタンナックルを発動させると閃光とともに弾けるよう音が響き突進が止まった。

 そのまま、ねじ切るように角を捻るとその巨体の重量を感じさせない程に軽々と地面に引き倒す。角は殆ど電気を通さないだろうから長くは持たないはず。すぐさまその無防備な顔面に一撃を与えるべく拳を振り上げる。


 振り上げたとほぼ同時に気絶から覚めたミノタウルスの目が開いた。


「早すぎだろっ!」


 しかし、身体はまだ痺れがあるのか自由に動く様子はない。そのまま、拳を振り下ろす瞬間にミノタウルスの口が大きく開いた。

 咆哮を覚悟したが、相打ちでも圧倒的に有利とそのまま振り下ろすが開いた口の奥に赤く揺らめくものが見えた。


「それは知ってるヤツ!」


 幾度もコレットとの模擬戦で見た事のある絵面に既視感を覚えつつ咄嗟にガードするように両腕で顔の前を覆う。


 轟!


 周囲の大気が歪む程の激しい熱をばら撒き火炎が吐き出されるとソータの全身に炎が纏わりついた。

 長く続くブレスは猛火と化し空間すら燃き尽くしたと思われる程であった。炎の柱と化したソータを確認したのかブレスが終わる。

 ミノタウルスはまだ四肢が痺れるのか動く気配はなかった。


「熱いだろうがッ、馬鹿野郎!」


 常人ならば焼死は確実の熱量を受けても、なお健在なソータは纏わりつく炎を振り払うように大きく身体を捻りブレス後の無防備な牛頭を()()の掌を叩きつけて掴む。


「ファノンメーザー!」


 手首から先は剥き出しの義手である右手が淡く光る。とミノタウルスがビクッと痙攣したように震えた。そして突然、火がついたように暴れ出す。暴れるミノタウルスの頭を掴んだまま、身体が起こさないように更に押し付けていくが、とても持ちそうにもない。


「こんのー!」


 コレットの声に合わせて走り寄ってきたのは半壊したゴーレムだった。胴が激しく歪み動くたびにその部分から鐘を鳴らすような音を軋ませている。その全身から青い粒子をばら撒いている姿は風前の灯そのものであったが、そのままの勢いで倒れ込むようにタックルをかけた。

 暴れるミノタウロスに覆い被さるとその身体を押さえ込む。更に暴れ狂っているが、アイアンゴーレムの重さとパワーを前に振り解く事が出来ないようだ。


<3、2、1、照射終了>


 ネマの音声で掴んでいた手を離すと同時にミノタウルスは頭部から焦げ臭い臭いを放ちながら紅い粒子とともに崩れるように消えていく。ゴーレムも力尽きたのか蒼い光ととも消滅した。

 全身大火傷のはずのソータであったが、一部の皮膚が爛れた程度で大きな外傷は見当たらない。過去に何度かコレットの召喚獣に焼かれた経験から自分は熱への耐性もそれなりにある事を知っていた。

 コレットとの模擬戦が役に立った事は感謝すべきだが、理屈と感情は異なるのが難しいところだ。

 そのコレットはアイアンゴーレムの力を十全に発揮する為に、少し前まで後ろにいたのが前線まで出てきていた。急いで来たせいか力を使ったせいなのか疲れているようだ。


「あんた、あれだけ燃やされてなんで平気なのよ」


「そう言われてもなぁ。兵器だけに平気だとか?」


 射殺す程の冷たい目線を受け、ソータはそっと目を伏せると改めて()()()()()を見直す。


 "ファノンメーザー"。本来ならビームのように飛ばす事を目的に製作された兵器である。難しい話を理解出来ないソータに「要は電子レンジよ」と身も蓋もない説明をしたのはソニアだった。内部を直接加熱させたのでミノタウルスの頭の中身はとんでも無い事になっていただろう。尤も細かい調整をかけて照射効率を都度修正していたネマのサポートが、あっての事であるが。

 今回の遠征で湯沸かし機能に温める機能も追加されてると知られるとコレットには本格的に家電として扱われかねない。

 この兵器の欠点は本来なら光線のように撃つ事ができる予定が、ソータに搭載されている固定電池(ジェネレーター)では出力が足りず実現出来なかった。

 現状はゼロ距離でないと効果が得られず、かつ効果が出るまでは同一箇所に照射し続けないといけないという実戦に使いにくい仕様で、改良の余地ありまくりであった。

 唯一、良いところは装甲があろうがなかろうが無視して、内部に直接ダメージを与えられる所だろう。


 息切れしているコレットに謝るように手を挙げると、次の戦闘に備えるべく足元に転がっているヒートソードを拾い上げた。


ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

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