57 開戦
まだ朝靄が立ち込めている中、リンディの案内で昨日、彼女がガイアと遭遇したと思われる場所に移動していく。
森の中には霧が立ち込めており視界を奪っていた。歩くたびに、足元が霧に包まれ風が吹けば霧が揺らめく事で更に視界を奪っていく。
そんな視界が悪い状態だったがルシンが周囲を索敵しながらゆっくりと動いていたおかげで安心した行軍ができた。
慎重に周りを見渡しながら周囲を移動していくが、当然そこで待っている訳もなく視界の悪さも伴って行けど探せど見つかることはなかった。
しばらく歩き回るうちに、少し開けた場所に移動すると次第に霧が晴れてきた。誰かが思わず大きく息を吐く。視界の悪い中での移動でいくらルシンが索敵をしているといっても視界の悪い中、警戒もしながら移動というのは思った以上に精神をすり減らしていたようだ。
「まぁ、素直にまってくれている訳が……!」
ミゲールがどこからか取り出したナイフを素早く宙に投げつける。
そのナイフは空中で止まると、そこからジワリと血のような赤い液体が滲み出した。
徐々に実体化していき目玉のような姿が見えた所で、続けて放たれたナイフが刺さると紅い粒子ととも弾けるように消える。
「透明化の召喚獣か。見張りにしては贅沢な使い方だが」
落ちたナイフを拾いながらミゲールが辺りを見渡す。
「どこにいるか分からん。警戒しておけ」
<警告!空間のズレを確認しました。隔離されます。戦闘モード起動します>
突然、ネマの警告の声が響きソータの全身が一瞬、淡く光った。
「ミゲール!なんか空間がズレてるって」
「ミゲールさん!周りが変です。まるで壁があるみたいで」
ソータと同時にルシンが周りを見渡しながら警戒を呼びかける。
「音が、抜けないんです。みんな跳ね返ってくる……急に壁に囲まれた感じになってます」
音波探査を常に行いながら索敵をしていたルシンだったが、目に見えない壁に音が阻まれ探知ができなくなっていた。
ミゲールはその声を聞いて瞑想するように集中しだした。
「ちょっとミゲール!何やって……」
コレットの呼び声が終わる前に突然、周囲の地面が紅く輝くと、光の柱が何本も立ち上る。その光の柱から小鬼や骸骨人間、恐大狼に大鬼までが何体も現れる。
「待ち伏せねー。こいつらの相手はこっちでやっとくわよ」
コレットがビシッと召喚獣の群れを指をさすと自信満々にソータをみる。あの顔は何か策がある時の顔つきをしていた。正直、気分屋のコレットがやる気があるなら助かる所である。
「任せた、数がこられると面倒だ」
個々の強さは大した事がないのが多いが、あの数を倒すのにはそれなりに時間がかかりそうだった。何か策があるなら任せてしまいたい。
ソータの返事を聞くと、まっかせなさーい!と張り切って召喚を始める。
両手を組み、いつものように祈るように召喚を始めたコレットだったがその時間が普段より長い。普段ならすぐにでも立ち昇る召喚の光がまだ見えない。まさかいきなり大型を呼び出すつもりではなかろうか。そんな心配にソータが苛まれた時、蒼い光の柱が地面よりそり立つ。が、今回はそれが一つではなく次々と光を放ち合計で五つも同時に現れた。
そこから獣、人型、無機質と各種召喚獣が複数現れだした。
ソータのギョッとした顔に気づいたのかか、ふふーんと得意げに鼻をこする。
「"同時召喚"のスキルを覚えたのよ。ホントはアンタとの模擬戦に置いとくつもりだったけど仕方ないから今見せたげるわ」
ドヤ顔でソータを見るコレットがなんかウザい。
しかし、こんな隠し球があったとは。例え弱くても数が多いというのは非常に面倒である。相手のターンが多くなるという事だから下手をすれば何も出来ないまま一方的に蹂躙される可能性もありえるのだ。
「うわぁー、本当に召喚出来るんだ。しかも"同時召喚"ですかぁ。厄介な技ですけど味方だと頼もしいものですね」
リンディが召喚獣の群れを見ながらほへーっとしている。
「リンディさん、知ってるの?」
「はい、ガイアの事はだいぶと調べましたから。大戦末期にΩを撃退するのに大軍で攻める際、この召喚方法がかなり使われたと聞いています」
「術者の精神力次第で軍勢が呼べるって事?」
「ですね、なんでも自分の召喚出来るレベルを割り振って下位の召喚を同時に行っているようですよ」
召喚は基本的に一種類ずつしか喚ぶ事が出来ないが下位の召喚獣は複数体同時召喚が可能な種類がいる。それでも一召喚、一種類が限度だ。だが、この技なら複数の種類を同時に多数呼び出す事が出来るようだ。
「あなた達もそっちの支援に行ってください」
「了解しました」
リンディが部下にあたる兵士たちに声をかけると腰に下げていたサーベルを抜き放つ。召喚獣同士の戦闘の中に入る事になるためか緊張の色が濃く見える。敵としてしか戦った事がない召喚獣が味方として一緒に戦う事など、一度も経験がないだろう。
そうこうしているうちに召喚獣部隊の戦闘が始まった。召喚獣が入り乱れて戦っており、傍目からはどちらが味方か分からなくなりそうだが幸いにしてお互いが同じ召喚獣を喚び出していないのと兵士が混ざっているので分かりやすい。
ソータが召喚士を探すべく動き出すと突然、目の前に紅い召喚の光が立ち昇る。その光から這い出るように何体かの人間が現れると目の前に立ち塞がった。古びた籠手や胸当てなどをつけた軽装の戦士という出立ちで、手にはそれぞれ古びた斧や剣が握られている。
人の姿をしているがその動きには精細さがなくどうやら生ける屍のようでありその目には生の輝きが見えなかった。
確かゾンビは下位の召喚獣だったと聞いていたソータだったが実物をみるのは初めてだ。コレットはこの手の召喚獣を一切召喚しなかった為だが。
ヒートソードにエネルギーを送りこむと構えた斧ごと一刀両断する。
しかし、鈍い金属音とともにヒートソードの刀身は僅かに斧の刃を傷付けるに留まり受け止められた。普通の武器なら焼き切れる高温にも関わらず。 その事に驚愕し相手の武器をよく見ると斧が淡い紅の光に包まれており、その光がヒートソードの熱をある程度遮断しているようだ。
ゾンビがヒートソードを弾き返すとそのまま斬り返す。とてもゾンビとは思えない程の素早さと力強さで予想外の反撃に回避に専念する事しか出来ない。
「そいつはゾンビじゃなくてレヴナントよ!ゾンビよりかなり強いから気をつけて」
コレットが叫んでいるが、既にゾンビと勘違いした後だよとソータは内心で毒吐く。
確かによく見るとパーツが少ないものの手甲や甲冑とおぼしきものを身に付けているものや、帷子を身に付けている者もおりゾンビより装備が充実している。
リンディが頭上に手のひらをかざすと頭ほどの大きさの光り輝く球体が現れた。
「サイコっボ〜ル!」
その球体を野球ボールのようにソータに接敵していたレブナントに投げつける。あらぬ方向に飛んでいったが、急に軌道修正されたかと思うと吸い込まれる様に命中し派手に腕が弾け飛んだ。
その隙にソータは更に火力を上げたヒートソードで連続で斬りつけていく。片手で防戦一方となったレブナントに再度、リンディの技が命中すると、胴体か吹き飛び紅い粒子とともに消えていった。
後ろでは別のレヴナントとルシン、ファロムコンビの戦闘が始まっていた。
「結界に閉じ込められたようだな」
集中を解いたミゲールが苦々しげに口を開く。
「ガイアもバカではないという事か。見事に罠に嵌ったな」
「結界って?」
「ガイアの上の連中がたまに使う閉鎖空間だ。術者を倒すか、呪具を壊さん限り破れんのだよ。つまり奴らを倒さないと逃げる事ができん……まっ逃げる気などハナっからないがな」
細い目を一層細くしながら冷徹な笑みを浮かべると腰の刀をスラリと抜くと構える事もなく無造作にぶら下げた。そのまま一体のレヴナントに向かってゆっくりと歩いていく。
『ガァァッ!』
呻き声とも叫び声ともつかない声をあげながらレブナントが斧を振り上げて迫る。その横を悠然と通り過ぎると刀を一閃。同時に粒子とともにレブナントが消えた。
「殲滅だ!!一体たりとも逃がすな!」
ミゲールの声とともに大きな紅い光の柱が立ち昇ると突き破るようにそこから人より遥かに大きな何かが現れた。巨大な斧を持ち牛の頭を持つ巨人の姿はさすがにソータでも知っている空想の生き物だった。
さらにその横にもう一体、紅い光とともに鎧を纏った長身の戦士が現れる。その鎧の隙間からは黒く腫れ上がった肉が垣間見えた。
<ドラウグルです。上位に属するアンデットで強力な召喚獣です>
ソータの頭にネマのアナウンス入る。
更に奥より一際大きな光の柱が立ち昇ると大鬼比ではない大型の鬼が召喚される。よく見えるとその後ろに召喚士とおぼしき姿が確認できた。
「リンディ!!」
「ミスティックダガー!」
その姿を見たミゲールがは素早く指示を出すと、その声に反応してリンディが素早く動く。
手を前に突き出すと何もない宙に突然、数多の小剣が現れる。ジャラリと音を立てると一斉に召喚士に向かって高速で飛んでいった。
しかし、その全てを召喚された大型の鬼が文字通り肉の盾となり全てを防ぐ。剣山のようになったその身体をだったが、大きく身体が震わされると小剣は全て抜け落ちる。落ちた剣は溶けるように消えていった。
そして、あれだけ多くの剣が突き刺さっていた傷跡が目に見える速度で徐々に再生し始めていた。
「チッ、あれは鬼巨人だな、再生速度が厄介だから後回しにするぞ。ソータ!そっちの牛を任せた。リンディは全体の支援、こっちのドラウグルは俺が捌く!」
ミノタウルスと対峙するソータだったが身長差ニm以上はあるともはや、壁がそびえ立つ感じになり自分の小ささがより際立って感じてしまう。
『ヴゥモォォォォ!!』
吠えるミノタウルスが巨大な斧を大上段に構えると真一文字に振り下ろしてきた。
速いっ!咄嗟にヒートソードで受け止めたが、すさまじい質量がソータに襲いかかり踏み込む足回りの地面が幾つも砕けていく。
「この馬鹿力め!だが、馬鹿力はお前だけじゃないんだよ!」
ソータの叫びとともに全身のモーターが力強く唸りをあげ、押し潰そうとしてくる斧をじわじわと押し返す。
<出力制御開始します>
ネマの声とともに力を更にいれていくと身体の奥からどんどんと力が溢れてくるのを感じた。
<五百、六百、七百……。トルク値正常に上昇、エルメタリウム燃料電池安定>
「いっけぇぇぇぇー!」
気合いとともにグレートアックスを押し返すとヒートソードで弾き返し金属同士が激しく擦れあう音が森に響く。
力任せに斧を弾き返すと一歩大きく踏み込み、返す刀で丸太のような太腿にヒートソードを振り下ろす。刃が肉を切り裂き焼ける肉の臭いが一瞬、周囲に漂った。
「さあ、来い牛野郎!焼肉にしてやるよ」




