55 ターゲット発見
「で、どーすんの?ホントにガイアがいたみたいだけどぉ」
コレットが周りを見渡しながら誰となしに問いかけた。
「無論探し出して殲滅する。撤退のニ文字はない。探しているヤツもガイアの所にいるだろうしな」
「別行動したっていう人だよね?一人で追いかけて行って大丈夫かな」
「アレはアホだが簡単にはやられんよ。……多分な」
最後に微妙な間を置いた発言をしたミゲールはソータの不安気な顔を敢えて無視して続けた。
「コレット。召喚獣を倒したら相手にはバレているんだよな?」
「余程の事がない限りは普通気づくわね。誰にやられたとか、どこで消滅したのかまでは分かってないと思うけど」
「となると、奴らはそれなりに警戒している可能性がある訳だな」
「前みたいに奇襲は出来ないって事だよね。そもそも、どこに隠れているかって問題があるけど」
前回は奇襲のようで奇襲ではなかったのだが、不意をついたので奇襲の範疇になるだろう。今回はコレットに先に伝えておかないと同じ事をしかねない。そんな事をソータが考えているうちにミゲールはジャーキーの最後のカケラを口に放り込む。
「そう遠くはないだろう。この辺を探れば見つかるはずだ」
「この辺っていうけど、かーなり広いんだけど」
周りは見渡す限りの森と山が広がっており、前回のように上空から索敵するにも木々が邪魔で難しいだろう。
「そのうち、あぶり出されるだろうよ。もちろん索敵もするがな」
ミゲールが視線を送るとルシンがうなずき跳躍すると瞬く間に木の上に飛び移っていく。兵達も各々が偵察活動に入った。
それそれが出来る範囲で周囲を探索してみたが特に変わったものは見つける事は出来ず仕舞いであった。
見渡しやすい高台に移動し更に索敵すること数時間、西日を背中に受けながらルシンが首を振りつつ降りてきた。
「ダメですね。見つかりません」
「まぁ、流石はガイア様だな。早々簡単には見つからんか」
根本まで灰になっているタバコを携帯灰皿にねじ込んだミゲールは苦笑いを浮かべ頭を掻きながら辺りを見渡した。
「だが、そろそろあぶり出される頃合いだと思うんだがな」
誰が炙り出すの?とソータが口を開くより先にピクッとファロムの猫耳が動く。
「なんか聞こえルー。叫び声?悲鳴みたいなノ」
「当たりだな。ファロム、どっちだ?」
「あっチー」
前回もそうだったが指差す方向は森が広がっているだけでどこの事か全く分からない。
そう思って眺めていると突然、森の一角が土煙をあげて切り崩された。直線的に木々が次々になぎ倒されていくのが遠目でも分かる。その都度、それなりに離れているにも関わらず大きな音が響きわたった。
「イヤよ!今回は自分で歩いていくから!」
ソータが振り返るより早くコレットが拳を振りかざし叫ぶ。
「今回も遠いからコレットの足じゃいつになるか分からないだろ?今度はおぶっていくから、ほら」
その場にしゃがみ込んで背中をむけるソータにコレットは更に背中を向けた。
「ぜーったいイヤ!もう、あんな目に合うのは真っ平ゴメンだわ!」
「おまっ、そんな事言ったって」
「やなもんはイヤなのー」
駄々っ子モードとなったコレットはテコでも動きそうもなかった。無理矢理引っ掴んでいくのは簡単だがそんな事をしても戦力にはならないだろうし、今後の関係にも悪影響になる。
助けを求めるように見上げたソータと視線があったルシンは何故か驚いたような表情をしている。
「あの、こっちにすごい勢いで向かってきます」
そう告げたルシンの視線の先には断続的に倒れていく木々がこちらに近づいてくるのが見えた。
森の一角が激しく吹き飛ぶと、そこからものすごい勢いで人影が飛び出してきた。
文字通り土煙を上げながら走ってくるが、後ろから遅れて大型の四つ脚の生物が群れで追いかけてきている。あの速度ならもう少ししたらここまで来るだろう。
「あのアホ、敵を引き連れて逃げてきたな!全員迎撃準備だ。逃げてくるヤツを保護する」
かなり近づいたからかソータの耳に悲鳴が聞こえるようになってきた。
「イヤぁぁぁぁぁぁーー、来ないでーー! 命が死んじゃうー!」
一人の女性が群れを引き離しながらあっという間に走りこんでくると、華麗なスライディング土下座でソータの足元に滑りこんで来た。
「親切な方、お願い! かくまってー」
見た目17、8ぐらいの女性が子供の前で土下座しながら助けを求めている非現実的な世界に思わず言葉が出ずに固まってしまう。
固まったまま何も言わない状態を否定ととらえたのかコレットやルシンにも、「お願いぃー」といいながらすがりつき始めた。
泣き叫ぶその女性の後ろにミゲールが回り込むと握りしめた拳を振り下ろす。頭部に適度な衝撃と痛みを伴うよう調整されたその技をみたソータはどこか既視感を感じていた。普段、ソータが指導される時のそれと似た光景なのだから。
「醜態を晒すな、リンディ!」
「あっ、ミゲ〜ル〜」
涙目で振り返るリンディと呼ばれた女性はミゲールの片脚に掴まりすがりつき、ワンワン泣き出した。
「鬱陶しい、近づくんじゃない! アイツらをまず何とかしろ!」
指差す方向には狼よりはるかに大きな獣が迫っている。
「ごめんなさーい。召喚獣を連れてきちゃったの」
涙と鼻水に塗れた顔をズボンの裾で拭いている彼女をミゲールが振り払おうとするもぴったりとくっついて離れない姿は正直コントにしかみえない。
「ボクがやるヨー」
ファロムが奥から宙を舞いながら飛び出すとソータ達の前に出て、群れに近づく見ると両手には巨大な猫の手のような見た事のないグローブを着けている。
地鳴りのような足音とともに現れたのはヘルハウンドを遥かに上回る体躯の狼であった。群れの先頭にいた狼が鋭い牙が並ぶ口元を威圧的に開き、一声遠吠えを放つと遅れてきた群れ全体が後を継ぐように吠える。その威圧的な咆哮で森の木々がざわめいたような錯覚を受けるほどであった。
たちまち先頭に進み出たファロムを囲むように何匹ものダイアウルフが前後を塞ぎ徐々に距離を縮める。どう見ても危機的な状況だがミゲールはおろかルシンですら助けに動く気配はない。とはいえ、ルシンは腰に巻きつけた鎖を握ったり放したりと落ち着かない様子だった。
咆哮とともに正面にいた狼が素早く駆け出した。ファロムのそばを掠めるように飛び掛かると、すぐに次の狼が背後から襲いかかる。その攻撃が終わるとまた別の狼が。繰り返し襲いかかる様子は計算された舞踏のように、狩りをおこなおうとしていた。
しかし、次々と襲いかかる攻撃をファロムは軽やかにかわし、時に鋭い爪を弾き返し続けていく。
「見つけタ」
纏わりつくように繰り返される攻撃の中、不適な笑みを浮かべたファロムはひらりと宙に舞うと一体のダイアウルフの眼前に飛び出す。
鋭い金属音とともにファロムの装着しているグローブから短くも鋭い爪が伸びた。
「キャットスクラッチ!」
爪研ぎのような鋭い連続した引っ掻き、その攻撃で身体を切り刻まれたダイアウルフは紅い粒子とともに消滅する。だが、狙っていた個体ではなくそれを庇うように飛び出した別の個体であった。
狙っていた個体は少し離れると遠吠えとともに徐々に姿が変わり半獣半人の姿になった。
「狼人!気をつけて牙も爪も毒があるわよ」
コレットが全員に聞こえるよう大声で注意を促す。
人型になった狼が更に遠吠えをあげると残っていたダイアウルフが隊列を組むように前に並ぶ。
「やっぱり、アイツが仕切っていたんだナ」
ファロムが弾かれた玉のように丸まりながら隊列など無視して狼人に一気に飛び掛かると耳障りな甲高い音が鳴りお互いの爪が交叉する。力任せに振り払った狼人により弾き飛ばされたファロムだったが、近くの木を踏み台にし再び飛びかかった。
吠えながら横一文字に振るった爪から斬撃が飛び出し周囲の木々を薙ぎ倒す。
「人型になったラ遅くなったナ」
木々が倒れる音が辺りに響く中、狼人の真下にいつのまにか現れたファロムは呟くと両手を素早く振るう。
遠吠えとも呻き声ともつかない奇声とともに赤い粒子がファロムを包むように現れ消えていった。
すると、群れ全体の動きが急に精細を欠いた荒い動きに変わった。
群れ全体の司令塔的役割を担っていた個体を倒した事で一気に弱体化を図ったファロムはすれ違いざまに別のダイアウルフを紅い粒子に変える。
狩る側が狩られる側に変わった事に焦るかのように一際大きなダイアウルフがファロムを脅威と捉え残った仲間とともに一気に襲いかかる。
空気を切り裂く音の後、一体のダイアウルフが激しく吹き飛ばされ消滅する。漆黒の鎖が金属音とともに影に吸い込まれるように消えると 再び放たれた塊が別の獲物を文字通り破壊した。
「もう十分でしょう、ミゲールさん。ここからは勝手にしますね」
ファロムの訓練の成果を確認する為に、一人でやると言ったファロムに便乗してミゲールは単独での戦闘をさせ応援をさせなかった訳だが、ルシンの我慢は限界であった。命令違反と言われようがこれ以上は黙ってみていられない。
ルシンが流星錘を振り回し始めたと同時にソータ
もヒートソードで参戦、兵たちも攻撃を始め十体程度いたダイアウルフはものの数分で全滅した。
「准尉、よくご無事で!」
「リンディ! どういう状況か説明してもらおうか」
ミゲールが未だに足元にくっついているリンディと呼ぶ女性を振り解くなか、兵たちはその女性のももに駆け寄り声をかける。
「ちょっとだけ、まって〜。ブーストした後だから反動でしばらく動けないから……」
そしてパタッと倒れるとそのまま動かなくなってしまった。
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