51 新たな任務へ
自動人形が襲ってきてから数ヶ月、その後もテロ組織や人身売買組織の壊滅などいくつかの実戦をする機会があった。対人戦闘だともはや負ける気はしない程度には強くなったとソータは感じている。なにしろ通常の武器ではこの身体に攻撃は通らないのだから。
そして、季節も巡り、桜があちこちに見られるようになった。ソータが見たのは幼い頃以来なのでその美しさの感動はひとしおだった。
食堂のおばちゃんの故郷ではこの花を眺めながら食事を食べる花見という風習があるらしく、是非にと薦めてきた。
正直、花を見ながら食事をする事にどんな意味があるのかいま一つ理解できなかったが、ご飯を食べるという話に猫娘ファロムが食いつき、あれよあれよ言う間に開催が決まった。
お弁当は食堂から拝借してくれば大概揃うので特に準備はいらない。
街外れの小高い丘に大きな古い桜の木があったのでそこにシートをひいて弁当を広げる。当然、わざわざこんな所まで花を見にこようなどという人はいないので貸し切りとなった。
メンバーはいつものジャンヌ、ソニア、コレットにミュータントのルシン、ファロム姉妹になぜかミゲールが付いて来ており、ソータは正座で過ごしている。
澄み渡る青空に舞う花びらを見上げて呟く。
「なんでこーなったんだ?」
*****
数日前に話は遡る。
以前より支部長から直々に指名されたからと、あのミュータント姉妹の戦闘訓練はミゲールが担当している。最近は面倒臭いからと言って、ソータの訓練も同時進行にしていてあの二人に合わせた訓練もおこなうようになった。現状、安定して火力を叩き出せるのがソータだが、あの二人にはそれぞれの役割があるとの事だった。
そんな、訓練が終わったある日の事。
タオルで軽く汗を拭い、コップに注いだ水を一気に飲み干したミゲールに何気なくファロムが声をかけた。
「なぁなぁ、ミゲール。今度のお花見は来るんだロ?」
「何のことだ? 」
「あれ? 知らないのカ。今度、みんなデ花を見ながらご飯を食べてワイワイしようよって集まりをするらしいゾ」
「いや、初耳だな」
「そうなのカ、ソータが言い出した事だからてっきりミゲールも知っていると思ったゾ」
ちょっと待て! とソータは心で叫ぶ。
確かに自分が花見というイベントがあると皆に教えたが決して自分が幹事のような役割をやっている訳でもなく出欠を取ったわけでもない。確かにミゲールはこういう集まりは好きではないだろうと忖度した事は事実ではあったが、それは気を利かせての事であった。断じてハブった訳でない。
そんな主張をする間もなく、ガシッとソータの顔が鷲掴みにされると内骨格がミシミシと音をたてる。
「どういう事か詳しく聞こうじゃないか。ソータ」
*****
そういう事があってミゲールが宴会に参加する事になっていた。
花見の趣旨を伝えてお弁当をお願いしたら食堂のおばちゃんが張り切って作ってくれた。ソータがポテト以外を沢山食べるようにとポテト少なめにされていたが問題はなかった。何故ならソータは揚げたて派であり持ち運んだものは余り好まないからだ。
サンドイッチやウインナー、唐揚げやフルーツ、果てはデザート類まで様々な物が盛り沢山に詰まったバスケットから各々好きなものを摘んでいる。ミゲールは酒を持ち込んでいて、瓶のまま口をつけていた。
「ファロムちっこいねー、フワフワだねー。かわいい〜」
流石のコレットもこれだけ人がいると、モフモフするのは我慢しており、精々が耳を弄ったり、頭を撫でたりに留めており以前のような醜態は晒さないようにしていた。
「はい、ファロムちゃん。あーん」
「あーん」
コレットが突き出したフォークからファロムはもきゅもきゅとフルーツをおいしそうに食べている。
「コレットちゃんもどうぞ」
お返しにと今度はルシンからデザートが突き出される。以前の戦闘の時にコレットがファロムのピンチを助けて以来、あの三人は以前より更に仲良くなっていた。
最初はガイアと同じ召喚士という事もあり警戒されていたようだが、コレットのグイグイくる性格や良い意味で空気を読まない動き、気付いたらいつのまにか横で普通に喋ってるというあの独特の雰囲気に巻き込まれているうちにすっかり打ち解けてようだ。
あれが計算してやってたら大した者ではあるが、見た目や立場とか気にしないで分け隔てなく接する所がコレットの良い所なのかもしれない。
ジャンヌはフルーツと思われる物を食べているが、よく見るとシロップ漬けにされた変わった食べ物だった。それを懐かしそうに食べながら青空を眺めている。なんかアンニュイな雰囲気を醸し出していた。
「どうしたの? 物思いな感じで」
ソータは敢えて、空気を読まずに声をかける事にした。
「ソータか。いや、平和だな、と。こんな日が続けばいいのだが」
ゴロンとジャンヌの横で仰向けになり空を見上げる。
小鳥が飛び、どこまでも抜けるような青空が広がっていた。時折、薄い雲が流れている。こんな風に空を見るなんて幼い時以来ではなかろうか。
「本当だね。世界で争いがあるなんて嘘みたいだよ」
独り言のようにジャンヌの言葉に同意する。
「だが、紛れも無い事実だ。今も何処かでガイアの奴らが罪のなき人々を狙っているはずだ」
いつのまに近づいていたのか、頭のそばにはミゲールが立っている。
「あいつらは必ず動く。動いた時には多くの人々が傷つく。だからこそ、我々は奴らを確実に殲滅せねばならん。」
ミゲールは酒瓶片手にジャンヌの横に座る。
「お前も分かっているだろう。あいつらは今すぐにでも息の根を止めなければならん」
「分かっているよ、ミゲール。その為に子供達の教育を任せたのだから」
ジャンヌが困った顔をしながら返事をする。
「そいつらがガイア相手にどれだけ戦えるのかって話だ。大体、女、子供が切り札ってのも気にくわん、ソータ!」
「はい!なんすか」
急に話を振られたソータは思わず飛び起きる。
「お前はサイボーグのくせに能力を使いこなせてない。もっと鍛錬しろ。感覚が弱いのは分かるが全身のセンサーに集中して感じ取れ!」
酒臭い息を吐きながら絡んできた。酔ってる訳ではないようだが。
「肌で感じる感覚は間合いの詰め方や、空気を読むのに必須だ。いくら高感度センサーとはいえ生身より劣るんだろ。なお大事だ」
たしかに、大半の感覚はわかるけど薄い膜を介している感じはあった。意識しないと分からないんだがよく気づいたものだ。
「お前はサイボーグのくせに生身の人間である俺より弱い。理由が分かるか?」
「ミゲールが強いから?」
「それは間違いないが、本来ならパワーも機動力もお前の方が圧倒的に上だ。なのにその能力を引き出せていない」
酒が入っているせいかミゲールはいつもより饒舌に話しかけている。
「パワーがあれば硬い敵を切れる訳でもないし、速く動ければ裏を取れる訳でもない。結局は技術が半分はモノを言う」
「あと半分は?」
「脳のストッパーを外してその能力を全開にしろ。お前はヒトの常識に縛られている。ヒトの枠から外れてみろ」
確かに、今の機械の身体ならかなりの無茶が出来るはずだ。昔の常識で高所からの飛び降りやら力を出す時もこれ以上はムリ、と知らずにブレーキを踏んでいる気がする。
「普通ならこれ以上の力を出したら身体が壊れるからと脳がブレーキをかける。こんな事は出来ないだろうという常識が動きを縛る。普通はそうだ。だがお前は違うだろ。機械の身体は簡単には壊れない、本来の性能を出せ! とっとと枠を超えろ!ガイアの司教クラスはそれこそヒトの枠を超えている。アイツらを殲滅するならそんなヌルい事をしてる場合じゃないんだよ!」
常時、火事場の馬鹿力を常時出せってことだろうか。そんな簡単にできるなら苦労しない。
ミゲールはガイアの事になると、特に厳しくなる傾向があった。ニルヴァーナそのものが対ガイア組織に近い位置付けなので、その構成員がガイアになんらかの私怨があってもおかしくはないのだがわざわざ聞きにいくのもよろしくはないだろう。聞いて欲しくない事などは一つや二つはあるだろうし、何より素直に話してくれる訳がない。
なおも絡んでくるミゲールを適当にあしらってるあたりジャンヌはすごい。酔ってる訳ではないようだがジャンヌ相手に愚痴を言ってるようなもんだろうか。
そんな二人の後ろに忍び寄る影が。ソニアだ。そういえば、姿を見なかったが何をしてたんだろう。心なしか目が座っているように見える。
「おい、コラ、ミゲール。誰に許可を得てジャンヌさんに絡んでるんだ。オイ」
いつもの柔和な雰囲気はどこへやら、態度の悪いオッサンと化したソニアが胡座をかいてミゲールの横にどかりと座る。明らかに酒臭い息を吐きながら酒瓶とグラスを手にミゲールに無言で突き出す。思わずミゲールがそのグラスを手に取ると紅く透き通る液体が並々と注がれた。
「さっき、そこにあった赤い飲み物をおいしいってほとんど飲んでだよ」
コレットがワインの瓶を見せてくる。ソニアの手元にあるグラスを確認して納得がいく。
あれはミゲールが好んで飲んでいる赤ワインのソーダ割りだ。恐らく口当たりがよいからと飲み過ぎたのだろう。
「わかってんのか?オイ。さっきから聞いてりゃグダグダ文句ばっかり言いやがってよー。しかもあれか? うちのソータきゅんが使えないってのか」
普段とは違うソニアの様子にジャンヌも声をかけ渋っているようだ。ミゲールは何か反論しかけたようだが、「黙りな!」と一蹴されている。
「おい、ミゲール。とりあえず、十秒以内にソータきゅんの良いところを五個言ってみろ」
「おい、ソニア。大丈夫か」
「ハイ、ブー!アウト〜!罰としてこれ飲みな!」
グラスの酒をミゲールに押し出し既にいっぱいに注がれているグラスになおも継ぎ足してこぼしまくっていた。
その後、しばらくソニアの説教が続いたが満足したのかそのまま寝てしまった。この後始末は一体誰がしてくれるというのだろうか。
「その……、なんか色々すまないな。ソニアがあんな酒グセが悪いとは知らなかった」
ジャンヌが申し訳なさそうにおずおずとミゲールに謝った。
「いや、まぁ……しょうがないわな。酒の席だし」
ミゲールはそんなジャンヌに恐縮しているようだ。何なんだ、この空気は。
ジャンヌはぶっ倒れて気持ち良さそうに寝息を立てているソニアにしょうがないなという顔でタオルケットを掛けた。
「この流れのついでだ。お前達に連絡事項がある」
ジャンヌが少し真面目な顔をソータ達に向けると立ち上がる。
「さっきのミゲールやソニアの話に関連しているんだが、お前達もそれなりに訓練と実戦を経験してきた」
ジャンヌの後を継ぐようにミゲールが続けて話す。
「で、今後実動部隊として使えるかどうかのテストをしようと思う。メンバーはソータ、コレット、ルシン、ファロムだ。一応、そこに俺も入る」
「えっ! ジャンヌじゃないの? ミゲール?!」
「私も入るのだが、後方支援もしなければならなくてな。常に入る訳ではない。そこでミゲールに入ってもらう。戦力については申し分ないはずだ」
ソータの抗議めいた言葉を気にする事なくジャンヌが答える。まぁ戦力としては心強いものにはなる。しかし、常に先生に見張られてる感じがするというのが問題といえば問題だろう。
「テストと言っても実際の任務を遂行してもらう。要は実戦だ。内容についてはミゲールから」
ジャンヌに促されミゲールが続ける。
「こんな所でなんだが簡単なブリーフィングをおこなう。任務は行方不明になっている別動隊の捜索及び救出だ。その中に特に救出しないといけない機関員が含まれている。別動隊はガイアがいると思われるポイントの探索中に連絡を絶った。可能な限り救出、ガイア遭遇した場合は殲滅をおこなう」
挙手をしてからソータが質問する。
「はい、機関員の方はどんな方でしょうか」
「ニルヴァーナでは珍しいサイキッカーだ。他のメンバーは銃士や兵士で構成された偵察部隊でヘマをしたとは考えにくいが」
ワインをラッパ飲みしながらミゲールが続ける。
「場所は北側にあるムーカン山の奥地だ。野生の生物も多く、召喚獣との区別がつきにくいタイプもいるのでガイアの攻撃かどうかの判断がつかない面倒な場所だ」
確かにこの間のヘビ型の召喚獣などは普通の大型のヘビと区別つかない。専門家ならいざ知らず自分達では難しいのではないだろうか。
「明らかに分かる奴は別にとして、それ以外は倒せば分かる。死体が残るか残らないかの違いだ。鑑別の出来るやつが今はいないしな」
ちよっと効率悪いが致し方なさそうだ。見た目で分からない以上、襲われたら倒して判断するしかない。
「あら、そんな事ないわよ。喚ばれた子達はみんな色が違うじゃない」
コレットが眉をひそめ呆れ顔で、マジで何言ってんの?あんた達、という顔をしている。
「どういう事だ、コレット?」
「どうもこうも、そのまんまよ。普通の生き物とは違ってオーラみたいなのが見えるでしょ。あれで分かるじゃないの」
やれやれ、と額にわざとらしく手を当てお手上げだとばかりに手を上げる。
「召喚士は互いの召喚獣を区別できる能力があるという事なのか?」
ミゲールが肩を掴む勢いで食いつくようにコレットに向き合うと、コレットがひくように身をよじらせてその手をすり抜けた。
「ちょっ、お酒臭いから離れて! ……そうよ、他の人は知らないけど、人のと自分のと違いぐらい分かると思うわよ。そもそもあの子達はみんな神の僕だから普通の生き物とは明らかに違うじゃない」
「どうでもいいけど、俺を前に突き出して壁にするのはやめてくれないかな」
「あらバディとしては後衛の守りをするのは必要じゃないの」
いつの間に回り込んだのかコレットがソータの後ろに入り突き出すようにしてそう答えた。
「ならば、無駄な戦闘は避けれるか。これでだいぶ楽になるな。近々、正式に連絡がいくはずだから各自備えておくように」
「はーい」とファロムの元気な返事だけが青空に吸い込まれていった。
今日は七夕ですね。話の方はそんな季節ではないので関係ないのですが。今年は晴れそうなので星空を眺めていいかもしれせん




