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50 コレットの決意

 室内に激しい音が響きわたった。


「こんなの、こんな事……わたしは認めない!」


 怒りのためか、顔はほんのりと紅く染まり、その目は鋭く細められ映し出された数値を睨みつけている。目の前の機器に叩きつけられた拳は白くなるほど強く握りしめられていた。

 悔しさなのか怒りなのか、身体は小刻みに震え、その握りしめられた拳に水滴がひとつ、ふたつと垂れていく。

 静かな室内の中、コレットの叫び声だけが響き渡っていた。



 ******



 時折、すれ違う人と軽く手を挙げる程度の挨拶をかわしていたソータはいつもの場所でいつものポテトに手をつける。塩多めの場所を探して口に入れると柔らかさと硬さの混ざった絶妙な歯応えとともに甘じょっぱさが拡がった。


「やっぱ、コレが一番だよな。主食にもおやつにもなる食事って最高じゃない?」


 誰に言うでもなく呟くと次々と口に放り込む。半分程に減った所で味変のために持ってきたケチャップを使い、よく分からない色に変わった飲み物に手をつける。

 これらが自分の栄養になっているのか甚だ疑問であるがここ何年もこの生活が出来ているなら問題ないのだろう。不健康そのものの食生活だがこの身体からこそ出来る無茶なのかもしれない。


 しばらくして、ポテトがやや余りそうになる事に気づいた。食べられる量ではあるが、いつもなら食べ終わっている程度の量しか取ってきていないのに。残りのポテトを摘みながらしばらく考えて、はたと気づく。


「今日、コレット来てないわ」


 いつもなら、人のポテトを横からつまみ食いをしてきたコレットに消費される分を考えて多めに取ってくる癖が身についていたのだが、肝心のコレットが今日は来ていない。

 たまに調子の悪い日があるらしくそんな日は部屋から出てこなかったり、食事をぬいたりしていたので今日はそんな日なんだろう。

 まぁ、大体数日経ったら復活するので特に気にする事はなかった。


 だが、それが一週間も続くと流石のソータも気にかかる。訓練はしているようだ、だが、食堂に現れない。


「最近、コレットちゃんが来てないのよ。どっか調子悪いのかしら、あんた聞いてない?」


「いや、訓練はしてるみたいだから体調は悪くないと思うんだけど」


 最近、一緒に食べなくなったのは自分が何かして避けられているのかと思っていたソータだったが、今の話から察するにどうやら別の時間にも食堂に現れていないようだ。


「どうしたのかしらね。ソータは仲いいんだからちょっときいてきておくれよ」


「いや、仲良くないし。ってかそんな心配する程の事でもないでしょ」


 トレイを返しにきた時におばちゃんが話しかけてきた。このおばちゃんはソータやコレットの事をよく気にかけており、ソータ達も気楽に喋られる数少ない大人のひとりであった。そんなおばちゃんの疑問に軽く返したが、納得がいかないようだ。


「あのコレットちゃんが一週間以上、お菓子を食べに来てないの。絶対おかしいわね。普通じゃない」


「食べ過ぎで腹でも壊してるんじゃないですか?」


「それならそれで治療が必要でしょ。ちょいと聞いてきておくれよ」


 なんで俺が、と口に出かけて止める。おばちゃんの様子がいつもと違う事に気づく。正確にはネマの指摘を受けて、だが。

 元気の塊といった雰囲気の姿が今日はやや俯き加減で、時折指を組んだりエプロンの裾を引っ張ったりと不安げや様子が目立つ。本当にコレットが来ない事を心配しているようだ。


「分かりました。いつもお世話になっているおばちゃんの頼みですし、それにコレットがいないのは確かに気持ち悪いんで」


「本当かい、恩に切るよ」


 ホッとした顔をするおばちゃんに軽くてをあげてその場を離れる。


 コレットのいる所なんてどうせしれている。そう思っていたソータだったがその考えが甘かった事を思い知る事になる。


「コレットー?」

「コレット?いるかー」

「どこいったー、コレットー」


 自室や娯楽施設、会議室、図書館、果ては女子トイレにも声をかけ、思いつく所は大体周りつくしたつもりだったいったがどうにも見つからない。

 一番目撃情報のある召喚訓練は必ず来ているとの事だが、その時間は自分も訓練時間であり顔を見る事は叶わない。


 研究員に伝言を頼もうとしたが、彼らも最近の変化を感じとっていたようだ。


「最近、コレットさんが真面目に取り組んでいるんですよね。それも普段以上に」


「なんかあったの?」


「最近、開発した機器でコレットさんの召喚出来る召喚獣を測定した所、クラスの上昇が伸び悩んでいるような結果が出たのです。そこをご指摘しましたら、その後しばらくしてから……」


「やたら真面目に取り組んでいる、と」


「そうなんです。我々としては機器も壊さず、お願いした事をしっかりやって頂ける事は大変嬉しいのですが」


 普段はどんなに不真面目なんだとツッコミたくなるのを我慢してソータは続きを促す。


「あまりにも別人のようなので変なプレッシャーをかけたのではないかと気にしておりまして」


 食事もとらずに訓練に勤しむというのはコレットらしくはない。いつものコレットはスイーツを食べ、ダラダラしているイメージしかない。とはいえ、そんなぐうたら生活をしているだけであれだけの召喚をこなせている訳ではないだろう。ソータの知らない所で努力している? のかもしれない。そんな事があるんだろうか、まぁ無いだろうなぁ。

 結局のところ、訓練後に何処に行っているかまでは分からずじまいであった。



「どこ行ったんだよ、アイツ」


「どうしたのソータくん、こんな所に座り込んで」


 すっかり疲れ廊下にへたり込んでいる横のドアが開くと中からソニアが出てくる。

 いつもの白衣ではなくシャツにレギンスといった姿でタオルを首にかけていた。


「あっ、ソニア?ってかどうしたのその格好?」


「えっ? 普通に身体を動かしにきてたのよー。ずっと部屋に籠ってたらダメだからって週に決められた時間はここにこないと行けないのよぉ。ソータくんも? 鍛えなくてもいいのに」


 開けられた部屋の向こうは確か身体を鍛える為の機器が揃ったジムであった事を思い出す。


「いや、コレットが最近来ないって食堂のおばちゃんに頼まれて探しる所。見つかんなくて」


「コレットちゃんなら中にいたわよー。ちょっと相談に乗ったらスッキリしたみたいだけど」


「マジ? あのコレットがジムかぁ。盲点だったわ」


 運動嫌いのコレットがまさか身体を鍛える為にジムに来ているとは全く思いつかなかったソータはこの場所を意図的に外していた。コレットの事をよく知るが故の障害だった。


「ありがと、ソニア」


「あっ、ちょ…………」


 何かを言いかけていたソニアに気づかず、ソータが中に入る。室内には様々な運動の為の機器類が並んでいた。ソータとしては以前、身体のコントロールがまだ上手くない時期にジャンヌに連れてこられ、ベンチプレスの下敷きになった苦い思い出の場所だ。そもそも、身体を鍛えても強くなる訳ではない、と思うのだがソニアがいうには使い方を覚えるにはいいという事でしばらく通った事がある。結果的に動かし方や力の強弱などが学べたのでとてもよかったと思っていた。


 そんな事を思い出しながら室内を見渡すとラフな姿のコレットが何やらスッキリした顔をして椅子にすわっていた。運動しやすい格好とはいえ、可愛さを求めるコレットはパステルカラーの花柄があしらわれたレギンスにピンクのスニーカーとガーリーさを前に押し出している。髪もポニーテールに纏め上げており本気度が見てとれた。


「お前がこんなとこにいるなんて、どんな風の吹き回しなんだ?一番似合わない場所だろうに」


「うっさいわねー。わたしだってココに来る事ぐらいありますぅー」


「お前が?運動が義務付けられてるのに来ないくせに」


「何よ、なんか言いたい事があるなら相手なるわよ」


 身体能力がビリケツのコレットは持久力も少なく長期戦や連戦になると色々不安が多い。その事を気にしていたのかと心配していたソータだったがどうやらそうでもなさそうだ。


 淡いピンク色のシャツの腕を捲り上げ足を踏み出して細い腕を見せながら攻撃的なアピールをしてくるコレットはこと近接戦闘であれば確実にソータに分がある。

 どうにも小動物が唸っているようにしか見えず怒っていても可愛らしいのだが、油断するととんでもなく噛みつかれてしまう危険生物でもある。


「いや、特にないよ。んな事より、食堂のおばちゃんが心配してたから探してたんだよ」


「おばちゃん?なんでよ」


「最近、顔出してないだろ?食べに来ないからって俺に理由聞いてこいってさ」


 それを聞いたコレットはやや遠い目をする。


「そういやお昼抜いてたもんねー。それは悪い事したわ。今日から行くからもう大丈夫よ」


「やっぱ飯抜いてたのかよ。お前が、病気でもないのに?笑え……ウグッ」


 その続きを喋る前にソータの脛に見事なローキックが炸裂する。機械の身体で並の兵士の攻撃程度は通用しないまさに鋼の身体。だが、何故かコレットは毎回的確な攻撃を入れていた。


「次、何か言ったらグレムリンけしかけるかわよ」


 脛を押さえて無言で呻いているソータの上から瑠璃色の冷たい双眸が突き刺す様に向けられ見下ろしている。

 その気迫にソータはただ黙って首振り人形のように首を縦に動かすしかなかった。


「……あと、研究員の奴らが心配してたぞ。変なプレッシャーかけたかもって」


「何の事よ?」


「なんか召喚クラスの数値を気にしてたんじゃないかって言ってたけど?違うのか」


 暫く思案していたコレットだったが手のひらにポンと手を打ち「あー、アレねー」と何かを思い出したようだ。


「アハハ、違うちゃ違うけど。もう解決してからいいのよ」


「解決したってどういう事だよ? なぁって」


「うっさいわねー、そんな事より食堂行きましょ。おばちゃんのスイーツが食べたいわ」


 後ろで騒ぎ立てるソータを無視してコレットは部屋を後にする。

 まさか気にしていた数値が召喚クラスではなく体重計の値だったなんて言える訳がない。入浴後の体重計な値が増えていて焦っているタイミングだったので召喚にも影響が出て数値が悪く出ていたのは知っていた。

 真面目に訓練をしていたのも、昼ごはんを抜いたのも、ここに来ていたのも全てはダイエットの為。

 そのダイエットも必要ないと今しがたソニアに言われたところだ。



「ソニアー、どうしたらそんな風になれるかなぁ」


 小さなダンベルを懸命に振り回していたコレットの目に映ったのはソニアが何かしらのアクションをする度に揺れ動く双丘。普段と服装が軽い分、余計に目立って見える。何とはなしに視線を下に向けソニアとの間を行ったり来たり。太るのはイヤだが付くとこには付いて欲しい。乙女の悩みは難しいのだ。

 そんな目線に何かを察したソニアは少しだけ考えてから自分の考えを口にする。


「えー、しっかり食べる事かなー」


「食べるの? だって太っちゃうじゃない?!」


「いーのよー別にー。そんなパーツ事に付けるなんてそれこそソータくんでもなきゃムリよー。だったらとりあえず、全部に丸みを付けてから考えたらいいのよー。まだまだ成長期なんだから気にせず食べなさいな」


 自分の常識を突き破る勢いの意見は驚きが過ぎて次の言葉が出ない。ソニアはそんなコレットの手を握り正面から目を合わせた。


「いーい? ムリなダイエットなんてしてたら身体がおかしくなっちゃうわよ。ストレスも溜まるし美容にもよくないの。普通に過ごしてたらコレットちゃんは早々太らないんだらぁ」


「ソニアー」

「どうしたのー?」

「あんたマジ、神。ありがとー」


 そんな話を聞いたので、今まで通りに過ごして大丈夫と安心して食べていい。

 ソータを連れて我慢していた分をしっかり食べたコレットだったが、翌日に自室から悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。

50話まで書けました。もう少し頑張ってみます。

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