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49 戦闘後事後処理

 

 コソコソと隠れるように裏道を抜けニルヴァーナに帰還したのは、それから一時間後の話だった。街を守ったというのに堂々と出来ないのはなんともいえないが、我らがニルヴァーナは秘密組織なので仕方がないのだろう。


 ミュータントの姉妹は衰弱しているようなので、すぐに医療班に引き渡され治療を受ける事になった。

 ソータが運ばれていく二人を見送ったあと、気付けば全員がブリーフィングルームに戻ってきていた。

 夢中で戦ったが、よく勝てたとソータは思う。改めて考えると確かにサイボーグはすごいものだった。

 武装していると見えない姿でもパーツ構成次第で本当に歩く兵器となりえる。ただのナイフに見えてもあの火力であり身体能力も人間を超えるとなると、あながち単騎決戦兵器というのも大袈裟ではないようだ。


 問題はその力をどう使うかになる。今までの自分は何も出来ず、ただ人の好意に甘え守られている存在だった。それが悪い訳ではない、そんな自分でも出来る事があったから。しかし、この身体になった今、関われる人や出来る事が以前より大きくなった。

 ここまでで沢山の人のお世話になっている。自分一人でここまでこれた訳でもなく、今の自分だから出来る事をやってみるしかないか、と思うようになっていた。目指すはやはり機士だろうか、人々を守る象徴のような存在。目立ってはいけないのだが、気持ちはそこだろう。

 まだ世間的には年端もいかない少年ではあるが、幼少期より大病を患い死を覚悟した事もある彼は大人よりこの様な考えはしっかりしていた。


 そのような事を考えていると目の前に炭酸飲料の缶を差し出される。上を見上げるとソニアが優しく微笑んでいた。


「お疲れ様〜、無事に帰ってきてくれてうれしいよぉ」


 飲み物を受け取って蓋をあけると、小気味よい音が部屋に響く。グッと一口。


「あー、うまい。労働の後は格別だわ」


 甘味が強めのジュースが疲れた脳に染み渡るような気がする。


「ミゲールみたいな事言って、おませさん。とりあえずしっかりグルコースを摂取しといてね。残量が落ちてるから」


 ソニアがケーブル類を繋ぎながらモニターを見つめたまま声をかける。

 ソータの身体は電力で動いている為、発電する必要がある。メイン電源には特殊な燃料電池が使用されているが、サブとしてバイオ燃料電池が使用されており擬似血液中のグルコースを使用して発電しているという話だった。


 隣ではコレットが同じような飲み物を飲みながら、どこから取り出したのかドーナツにかじりついていた。


「Ωも大したことないわね。やっぱり私の敵はガイアだけよ」


 コレットも糖分摂取で一息ついたのか落ち着いた様子だった。大型召喚獣を呼んだことと、それなりの規模の戦いの後にも関わらず、相変わらずメンタルも含めてタフな子供である。


「慢心するな、Ωの連中は元々召喚獣と何故か相性が悪いのが幸いしただけだ。でなければ人類が苦戦したΩがガイア如きにやられたりはしない」


 背中に担いでいた大型のショットガンをゴトリとテーブルに置きながらジャンヌの叱責が飛ぶが怒っている訳ではないようだ。


「いずれにせよ、被害は最小限かつΩの撃破は十分な戦果と思われる。よくやったな」


 ソニアが差し出してくれたコーヒーに口をつけながら「もっとも」と続ける。


「上もそう判断してる、かは別だが」


 その言葉とほぼ同時にドアをノックする音がする。


「入れ」とジャンヌが声をかけると若い兵士が緊張した面持ちで入ってきた。


「ジャンヌ少尉、先の戦闘について副支部長が報告が聞きたいと。戦闘に参加した他の者も連れて来るように、との事です」


「わかった、すぐ伺うと伝えてくれ」


 兵士は「イエス、マム」というと180度回頭して出て行く。


「怖がられてる? ジャンヌ」


「教官をした事が何度かあるからな、あとは上官だから緊張しているんだろう」


 ソニアが急いでデータを取るとケーブル類を回収する。


「さて、休憩は終わりだ。副支部長が報告を聞きたいそうだ。あの二人は仕方ないとして、ソータ、コレットは私とともに来るように」


 ブーブーと拳を突き上げ抗議をしているコレットだが、気持ちは理解できる。戦闘行為のあとには休憩ぐらいはしっかり欲しいところである。


「わたし、あの人キライ」


 廊下を歩きながらにべもなく、突き放すように言い切るコレットにジャンヌは苦笑いを浮かべている。


 状況が理解出来ていないソータはキョトンとしている。


「どういう事?」


「まぁ、会えばわかる。……悪い人ではないが融通がきかない、と言えばいいか」


「あれは融通がきかないんじゃないの。粘着質なお・じ・さ・んよ。こっちの事考えないで正論ばっか。ネチネチしてんのよ」


 コレットが毒を吐き続けているところを見ると、相当相性悪いようだ。


「どちらにせよ会わないという選択肢はない。いくぞ」


 ジャンヌが襟元を正すと皆を先導して歩き始めた。ソータは副支部長には一度も会ったことがないが、ソータより少し早くからニルヴァーナに属していたコレットは何度か接触した事があるようだった。話を聞く限りはロクな人ではなさそうだが、コレットのフィルターがかかっているので実際に会うまでは分からない。支部長は確かあの胡散臭いサングラスかけた、太った人だったがどんな人だろうか。


 エレベーターに乗り、ジャンヌが鍵を差し込むと静かな音を立てて表記されている以上に深い階層まで下がっていく。こんな仕掛けがあったとは。

 ジャンヌを先頭に長い廊下と警備のついた扉をいくつか抜けると一つの部屋の前に来る。管理責任者が副支部長、トム・ヤムクンとなっている。


 ジャンヌがくるりと振り返るとしゃがみ込み子供の目線の高さまで下がってきた。しっかりと二人の顔を見渡すその目は作戦時と同様の真剣さがみてとれる。

「ソータ、先に言っておく。お前は何も喋るな。腹が立っても黙って聞いておけ。わたしが対応する」


「はぁ、分かりました」


 と、よくわからないまま返事をすると「助かる」と更によくわからない答えが返ってきた。


 ジャンヌは大きく深呼吸をすると、意を決したように表情を引き締めノックをする。


「ジャンヌ少尉とその他二名、入ります」

「入れ」

「失礼します」


 扉を開けたジャンヌの横に滑り込むように入ると扉をおさえておく。チラッとジャンヌに見られたがあえて目線を合わさない。直前にネマからのアドバイスでこうする様に言われている。恐らく上官への対応なのだろう。コレットが後に続くが、ご苦労!と言った顔でズカズカと入っていきソータのないはずの血管が浮き上がる感じがした。


 中に入ると磨き上げられたような机の前で一人の男性が書類の整理にあたっている。支部長とは対照的で細身の男だ。

 その男、恐らくトムヤム副支部長、は書き物の手を止めてこちらを値踏みするように見ている。部屋はミニマリスト程ではないが、余分な物がなく効率重視のようだった。ファイル類は完全にナンバリングされており、恐らく机の物も置く場所が完全に決まっていると思われる程、整然とされていた。


 ジャンヌに促されソータたちは部屋の隅に立たされた後、ジャンヌが前に立ち敬礼をした。


「お呼びと伺い参上致しました」


 トムヤム副支部長は敬礼をかえすと書類を一枚抜き出しジャンヌの前にバサッと投げ渡す。


「先におこなった戦闘行為についての報告が聞きたい。なんでも市街地で戦闘をしたらしいな。民間人や軍を含めて死傷者が多数と聞いているがどういう事だろう」


「見張りに感知されないまま、あの堀を越えて侵入されたため我々が気付いた時には既に市街地にて戦闘が始まっていました」


 カーベの街を囲むように掘られている堀は外敵の侵入を防ぐため、それなりの大きさがある。まともに侵入しようとすると数少ない上げ橋を使う必要があり、当然そこには見張りも多数いるのですぐに発見されたはずだ。

 手元の書類に目を通してながらトムヤム副支部長は苦々しい顔をして顔を上げる。


「侵入に関しては橋は使わず、しかも見張りの部隊そのものが全滅させられていたと聞いている。夜間でもあり視認できなかったのが原因のようだ。対策を立てる」


 それよりも、と言葉を続ける。


「何故、勝手に戦闘行為をおこなったのだね。上の判断を仰ごうとは思わなかったのか? あの後、諜報部がどれだけ大変だったか知らぬ訳でもあるまい」


「申し訳ありません。しかし緊急事態でありましたので、私の判断で動きました」


 トムヤム副支部長はペンでジャンヌを指し、なぞる様にくるくる回しながらわざとらしいため息をつく。


「ジャンヌくん、君の階級は?」


「ハッ、少尉であります」


「少尉程度であのような事態に対して、上の判断も仰がず独断で動いたという事かね。()()()()撃退出来たからよかったようなものの何かあればどう責任を取るつもりだったんだ」


「確かに規範には緊急事態に対しては大尉以上の階級であれば現場判断で動いてよいと記されて……」


「そうだろう、だが君は大尉ではない。以前とは違うのだよ。それとも、また問題を起こし降格されたいのかね」


 ジャンヌの手が一瞬強く握られるが、すぐに緩められる。


「勝手な判断で行動し申し訳ありませんでした」


 ジャンヌが直角に折れ曲がる程、頭を下げている。


 流石にそれはおかしいのではないかとソータは素人ながら思う。ジャンヌは何も悪くないし、寧ろ、あの場面で上の判断を仰いでから迎撃していたら市街地にどれだけの被害が出ていたか想像にかたくない。

 とはいえ、ジャンヌには黙っていろって言われた立場であり、感情のままに喋ればより面倒な事になりそうな気もした。


 そんな複雑な考えが顔に出たんだろうか、トムヤム副支部長が蛇のような鋭い目でソータとコレットを蔑んだ雰囲気で睨みつける。


「だいたい、お前達も街中で戦闘するとはどういことだ。サイボーグも召喚士も秘匿するべき存在だ。勝手に表に出る事は勿論、表沙汰になって万が一にもガイアに情報が漏れたらどうするつもりだ」


 子どもはこれだから、と指導という名の小言は続く。


「しかも、あのミュータントを同伴しているらしいな。首輪もつけていない動物を放し飼いにして市民に何かあれば、我々にも責任問題となる」


「あのミュータント達は超支部長より許可をいただいております」


「私は認めない」


 鋭く、そして冷たく言い放ち、ジャンヌの言葉も意に返すことはなかった。その雰囲気のせいか一瞬、部屋が静寂に包まれたようになる。


「だいたい、例え多少の実績があったとしても君のような若輩者に短期的とはいえ大尉まで与えるのはいかがなものかと思っていたのだよ。経験豊富な我々のような年長かつ上官の指示を仰ぎ……」


 まだ続くのか、コレットが言ってたネチネチの意味がようやくソータも分かった。

 確かにソータ達が一般人の目につく所で戦闘に出て目立ったら問題だというのは一理あるにはあるが……。なんでだろう、コイツに言われるとすごくムカつく。言っている事、一つ一つは正しいのだがひたすらに正論を重ねて言い負かしたいだけな雰囲気がするからだろうか。


「アンタねー、さっきから言いたい事ばかり……」


「あの二人は私の指示で動いただけであり、全ての責任は私にあります!誠に申し訳ありませんでしたっ!」


 コレットがキレたと同時ぐらいに被せるような大声でジャンヌが再度、頭を下げる。


「ジャンヌ!」


 コレットが怒りを露わにするが「黙りなさい!」と有無を言わせず一蹴する。


「でも、コイツは……」


 尚も反論するコレットにジャンヌはゆっくりと振り返ると真正面に立ち見下ろす。


「コレット! 仮にも上官だ。たとえ子供とはいえこれ以上、トムヤム副支部長への暴言も反論は聞き捨てならん」


 正面から顔は見えなかったが、その迫力に蹴落とされなのかコレットは「……わかったわよ」というと引っ込んだ。


「私の教育不足で申し訳ございません。なにぶん子供の発言。寛大なお心で不問にしていただきたいと希望します」


 ジャンヌが深々と頭を下げると満足したのか、トムヤム副支部長は「よろしい」というと書類の束を片付ける。


「以後、気をつけるように。行ってよし」

「ご指導ありがとうございました!」


 ジャンヌは敬礼とともに言うと回れ右の後、俺たちを引率するようにしながら部屋から出る。

 再度、敬礼すると扉を閉めた。



 長い廊下に長靴の足音がやけに大きく聞こえる。エレベーターに乗り込み鍵を差し込むとジャンヌが振り返った。その顔は何故か安心したような顔をしている。


「よく我慢したな、ソータ。コレットもあそこまででよく抑えた。学習したな」


「いや、どんな狂犬と思ってるの。寧ろそれならコレットの方が問題だったでしょ」


 規律の厳しい軍隊なら反論なんか独房行きになる事もあるだろう。ソータもコレットもこう見えても伍長という階級がついている。一般兵と分けて扱う為に形だけとはいえ階級が与えられている以上、軍属になり罰則の対象になり得るのだが、そこは流石に子供という事もあり免除されているようだ。因みに給料は階級通りではないが少しは出ている。


「コレットに関しては前回で学習した。言ってもムダだから諦めている。今回は自分の事では直接なかったのもあるが、かなり抑えていたんじゃないか?」


 そう言われたコレットは、イタズラを見つかった犬のようにスッと目を逸らす。


「……前は悪かったわよ。私のせいでだいぶ大変だったんでしょ」


「それなりに、な。まぁ、もう過ぎた事だ。それにあそこまで理屈ばかりを並べられると怒るのも無理はない」


 一体、以前は何をしたのだろうか。あの雰囲気ではコレットが相当やらかしたのだろうが、アレでは無理もないだろう。


 副支部長があのようなタイプの人間となるとそれなりに面倒が多いかもしれない。尤も、トップが適当な感じの性格のようだったのでバランスが取れているのかもしれなかったが。


「ジャンヌもだいぶキレてた感じだけど大丈夫?」


 ソータは遠慮がちに尋ねてみたわ、


「怒ることなどないな、感情コントロールは必須だ」


「何言ってるの。イラッとして拳握ってたでしょ。何より、"()()()()()"って、完全にディスってるし」


「嘘ではない。コレットは伍長ではあるが部隊に所属しておらず直属の上官にはならないだろう」


 辿っていくと上官にはなるんだがな、と

 いたく真面目な顔で言っているから本気でそう思っているのだろうか、限りなくアウトだと思われた。


「あれでもまだマシな方だ。今回は比較的状態の良い自動人形を一体抑えているからな。目に見えた戦果がある分、機嫌はよかっただろう」


「あの自動人形は何に使うの?」


「色々だな、研究に使ったり素材を取ったりしているようだぞ。ソータの身体を造る時のベースにもなっていたらしいしな」


 そんな話をしながら、その後はソニアの所でおやつの食べ直しをして過ごした。

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