48 終局
「メガトンパーンチ!」
かけつけたソータが見たのはコレットの指示を受けてゴーレムが死蝎鋼を殴りつけている姿だった。なぜか、コレットも前線に出ているのが気になるところだが。
ハサミで攻撃し、尻尾の重火器が火を噴く。かわすことなどなく、どれだけ食らってもノックバックせずにひたすらに殴りつけるゴーレムとガチンコのバトルが繰り広げられていた。
お互い攻撃を食らってもお構いなしで半壊しながらも攻撃を止めることをしない。
ホントは近づきたくもないけどサッサと終わらせないと被害が拡がりそうだと思ったソータは嫌々ながら援護に向かう。
「ネマ、あいつの弱点があれば教えて」
〈過去のデータを検索……。同型機を確認、内部構造をチェック……、機関部を表示します〉
「助かるよ、ネマ」
〈お役に立て光栄です。マスター〉
ソータの視界に先程と同じように青い光点が示される。背中部分に弱点はあるようだが、場所がよくない。うねうねと動く尻尾の正面に当たる場所で近づくだけでも一苦労だろう。
激しくぶつかり合う二体の巨大ロボの間を縫って背中に飛び乗る。
殴られて変形している装甲板を引き剥がさないといけないが、歪んでいるためか動く気配がない。
「イグニッション!」
再度、スキルを使い力を込めていくとモーターが静かに回転数を上げていき駆動系に力を伝えはじめる。同時に腕周りがの動力ラインが反応し蒼く輝いた。
「んぐぐぐぐっ」
引っこ抜くように足元の装甲板を引き剥がし持ち上げるソータの真後ろで何が動く気配で振り返るとサソリの尻尾がタメを作り終わった後にソータ目掛けて一直線に尻尾が突き出されたところであった。
咄嗟にかわしたと同時にヒートナイフを反射的に突き刺すと軋むような金属音を撒き散らしながら尻尾は脇を抜けていく。ナイフ如きでは切断ができる事もなく装甲に傷をつけた程度にしかならない。
再び元の位置に戻った尻尾は今度は狙い定め直すと先端が赤く輝くと何かが撃ち込まれる。まさか自分ごと攻撃するとは思わず完全に油断していたソータはかろうじてかわすが不安定な背中の上で逃げる場所も少ない。すぐさまニ発目が発射……される事がなかった。
「サッサっとしなさいよ。バカソータ!」
尻尾に組み付いたゴーレムが寸前で射線を変えたようだ。ありがたいと感謝しつつ再び装甲板に手をかけ、今度こそ引き剥がすとすぐ下にハッチのような小さな開閉口が見えた。
「この下ぁ! ブロークンアーム!」
手刀のように伸ばした指先をハッチに向けて真っ直ぐ伸ばす。ソータの音声入力を受けて右肘から先が鋭い音を立てて高速回転を始めた。ハッチに向けて突き出されたその右手は激しい火花を散らしながら開閉口を穿つと機関部と思われるパーツを抉りとる。激しくスパークを起こすサソリから離れると痙攣したように震えながら機能停止した。
「早く倒さないと誰に見られてもおかしくなかったし助かった。ってか、何で前線に出てんだよ。後ろから指示すれぼいいだろ」
「召喚獣たちは術者がそばにいた方が力が発揮しやすいのよ。今回は強敵っぽかったからわたしも出たの。そんな事よりもー!! ソーター! 美味しいところだけズルいんじゃないの!」
「わりぃ、でも助かったよ」
コレットがプンスカ怒っていたが、早く終わらせないと誰が来るかわかったものではなかった。自分達の事が公になるのは大変まずいのだから。
******
ルシンとファロムのコンビはリッパー相手に善戦していた。ファロムは既に全身に少なくない切り傷が刻まれていた。しかし、そのどれもが深い傷ではなくぎりぎりで回避できているようだった。
このリッパーと呼ばれる自動人形は近接に特化した仕様らしく動きはかなり速かったのだが、ルシンの声による攻撃がヒットする度に、内部のパーツが徐々に破壊されているのか動きは次第に鈍っていく。
しかし、何度も叫び続けたせいかルシンは喉を押さえて苦しそうにしており、声量は小さくなっている。しかもファロムの爪だけでは決定打にかけているようだ。
ファロムは野性的な戦い方でかなりトリッキーだ。身体の柔軟性も利用して思いもよらぬ所から攻めている。リッパーが体勢を崩した隙を逃さずルシンの錘がブレードの一本を砕き、体勢を崩したリッパーがよろめいた。
その隙を逃す事なくファロムが一気に接近し必殺の一撃を繰り出すべく両腕を振りかぶる。
「ストライククロー!」
瞬時に間合いを詰めたファロムが鋭い爪を突き立てるべく肉薄する。
片腕は捨てるつもりでいたのだろうか、よろめいたように見えたアンドロイドは崩れたように見える姿勢から回転しながらもう一本のブレードを振りきった。
ルシンも攻撃後でカバー出来る状況ではなく、誰もが届かない絶望的な状況になっていた。
ブレードがファロムの首に突き立つ!
が予想された壮絶な風景にならない。
よく見るとリッパーのブレードは首に突き立つ寸前で止まっていた。
「今のうちよー!」
離れた所からコレットが叫び声が響く。よく見ると自動人形の背中に場違いな小さなクマの人形のようなものがぶら下がっているのが見える。
「グレムリンが抑えている間に、早くーっ!」
コレットが召喚したグレムリンは機械系に対し状態異常を引き起こす能力がある。その力でソータも何度か痛い目にあったことがあった。今、その力は正しく自動人形の動きを阻害している。
動かなくなったリッパーはファロムの一撃で胴を切り裂かれる。銃声が響き爆発するように傷を拡げられ更にルシンの錘が切り裂いた箇所に飛び込むと鈍い音が内部から響いた。全身から煙を吐きながらリッパーはその場で停止する。
「すぐに離れろ! あのタイプは機能停止するとすぐ自爆モードに入るぞ!!」
応援に入ったジャンヌが大声で警告する。
すぐさま全員が距離をあけるべく走り出した。グレムリンがいるにも関わらず機能を止める事なくなっリッパーの身体が激しく明滅し一際強い光を放った瞬間、背中を押し出されるような爆風がソータたちを襲った。
ソータは持ち前のパワーとその重量もあり吹き飛ぶ事はなかったが小さなファロムは身体が文字通り浮き上がってコロコロと転がっていた。すぐさまコレットに回収されゴーレムの影になんとか隠れる事ができたようだ。周辺の建物の屋根がめくれ上がり、ドアが吹き飛ぶ。
証拠隠滅の為の自爆なのか確実に人間を殺すためなのか、いずれにせよ趣味の悪い設計だ。
煙が晴れた後には派手な爆心地が残されていた。
「全員無事か?」
静かになった街の片隅にジャンヌの声が響く。
「まぁ、大丈夫です。他のメンバーもなんとか」
ゴーレムの脇から出てくる三人の姿を確認しながらソータが報告する。
「被害としてはこれでも最小に近い。民間人の被害も少ないようだし、あとは軍や自警団に任せてこの場をすぐ離れるぞ。」
街外れとはいえ、街中で戦っていたためそれなりに建物に被害は出ているが見える範囲では民間人の死者がいないようなのが救いか。
ジャンヌが撤退の準備をしている。ファロムもルシンも激戦だったためだろうかグッタリとしておりファロムにいたっては動くのもままならないようだ。ソータは仕方なくお姫様抱っこしてと運ぶことにした。
何か言いたげではあったが、疲れてるのかなすがままになっている。
「ちょっとぉ、わたしも運びなさいよ。もう走れないわよ」
「さっきのゴーレムが居ただろ? アイツに運んでもらえよ」
「あんな目立つやつはとっくに還したわよ。街中にいたら大変な事になるでしょう!」
バカなんですか? と言わんばかりの顔をしてコレットがギャンギャン文句を言っている。とはいえ、あのグレムリンがいなければ本当に大変な事になっていた訳でここは折れるしかない。
「とりあえず、ファロムも怪我してるしこの辺りで迎えを待とうよ」
ジャンヌに提案すると意外と承諾が得られた。すぐ帰還だ!とか言われるかと思っていただけに意外だった。
爆心地付近は派手に地面がえぐれており、繁華街だとかなり危険だったと改めて怖さを感じる。
程なく、ニルヴァーナの回収班が到着した。早いと思ったらソニアが最初に上げた照明弾で連絡してくれていたらしい。避難指示や人払いも含めて裏方をしている人達には感謝であった。
回収班の指示に従って速やかにこの場を離れる。あとは軍などがうまくやってくれるだろう。秘密結社がこれ以上目立ってはいけないのだから。




