47 春節祭 後編
金属の塊のような無骨なゴーレムが殴りかかり、巨大な機械サソリがハサミで受け止める。反対のハサミが鋭く切り付け、その表面を抉るがゴーレムは意に介さずその硬い甲殻を蹴りつけ激しい衝撃音が辺りを支配する。見せ物にでもしたら客が集まるであろう、大型ロボの殴り合いがそこにあった。
ルシンとファロムのコンビはブレード付きの自動人形と戦闘をおこなっていた。この自動人形は刃刻人と呼ばれるタイプで遠目で見れば裸の人間の様だが、近づけばその全身が光沢のある金属で構成されていて明らかに自動人形と分かる。何より特徴的なのがブレードと化している両腕にある。地につく程長いブレードと人型独自の機動力を生かしての屋内外近接戦闘が特徴の機体になっていた。
ファロムはその小さな身体からは想像もつかないような大きな声で咆哮すると、両手の爪が鋭く伸びていく。ルシンは腰にアクセサリーの様に巻き付けていたチェーンを素早く外すと円を描くように回し出し流星錘が静かに空を斬る。
ファロムが建物の壁を蹴り素早く刃刻人に近づくと長く鋭く伸びた爪で斬りつける。
鈍く軋んだ音が鳴り刃刻人の装甲に幾つもの傷が刻まれるが、その硬さのせいかどれも浅い。
大振りのブレードを俊敏な動きでかわしたファロムは屋根まで跳躍し尻尾を逆立て唸った。再びブレードが振るわれると不可視の衝撃波が飛び出し屋根が粉々に砕かれる。
ファロムはその破片を縫う様に避けると再び、その金属の身体に爪を突き立てた。
ファロムは周辺の建物を利用した立体的な戦いをしているようだ。壁や屋根から攻めるなどまさに四方八方から攻めてたてている。
やや大振りのブレードは人を超えた速度で動くファロムを捉えきれていないようだ。
その隙を狙い、六角錘が自動人形の背中にめり込むとその瞬間、静寂が一瞬だけ支配する。その後、鈍い轟音が響き刃刻人は大きく体勢を崩す。
錘についた鎖を素早く引き寄せたルシンは再び鎖を身体の横で回し始めた。
流星錘の鎖が空気を切り裂き、錘が高速で旋回する様子はまるで舞い踊っているかのように美しいがその威力を知っている者に死の舞踏そのものだ。十分に加速がついた所で再び投擲された錘が唸りを上げてリッパーに迫る。が直線的な動きの為か、難なく避けられた。
外れた錘が地面に当たると周囲の石畳が鈍い音とともに砕け散り抉れる。数回同様の攻撃が繰り出されるも全て回避され周囲の建物などが破壊されていく一方であった。その隙にファロムが何度も攻撃を加えているが大きな傷には至っていないわ、
眉をしかめたルシンは大きく後ろに下がると口を大きく開け何かを叫ぶ。高い声がより高く、声が音に、その音も聞こえなくなる。それが放たれた瞬間、不可視の音の波が襲い掛かるとリッパーのボディが細かく震え動きが鈍くなった。
その隙に屋根の上から再びファロムが舞い降り爪を大きく振るった。
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もう一体の自動人形の相手をしているジャンヌに加勢しに向かうソータの前を複数の装甲犬が迫った。
犬の形はしているが大きさは羊より少し大きく、一つ目であり顔の半分以上を鋭い牙の並ぶ大きな口が占めていた。先頭の一体がソータに迫っていく。
〈戦闘モード起動、出力レベル調整開始〉
ネマの声とともに全身が一瞬、淡く蒼く輝く。
直線的に走ってきた犬型の顎が大きく開かれるとまるで虎鋏みのように見えた。
「シッ!」
その動きを確認したソータは鋭く息を吐き蹴りを放つと眼前に迫った犬型の頭が砕け散る。更に迫った二体にも同じように蹴りをいれガラクタと化す。
単純な動きしていない犬型はソータからすれば雑魚に感じていた。意地悪い攻撃をするコレットの召喚獣の方がよっぽど凶悪に感じる。
〈子供と思われる声を確認にしました〉
「どっち?!」
〈あちらです〉
楽勝に感じていたその戦場でネマからもたらされた情報に瞬時にそちらに向かう事を決めた。
素早くその方向に向かい、民家の壁を突き破ると屋内に飛び込んだ。見るとそこには逃げ遅れた一人の子供が装甲犬に襲われる姿があった。時間がない。ソータは考えるより先に弾かれる様に飛び出すと子供を横抱きにした。しかし、襲い掛かる装甲犬から子供を守るために突き出した左手は装甲犬にかまれ、ギシギシと音を立てていた。
「お前が噛み砕けるようなやわな腕をしてないわ! スタンナックル!」
拳からスパイクが飛び出し、輝く閃光が放たれる。その光が装甲犬の口内に突き刺さり、破裂音のような音が装甲犬の口内から響いた。激しくスパークすると装甲犬は煙とともに動きを止めた。
噛みつかれたままのソータは慎重に右手で口をこじ開ける。引き出した左手は服が噛み千切られ皮膚の一部も裂けメタリックな腕がむきだしになっていた。
その手をみて驚く子供にソータは唇に指をあてシーっとささやく。
「マックスもどきだよ。大人には内緒にしてね」
ソータが好きだった大戦時の英雄の絵本。その英雄の名は子供であれば耳にしているであろう。無言でコクコクとうなずく子供の頭を左手で優しくなでると、仮面の奥でソータは笑う。少しは真似事ができたようだ。
子供を再度横抱きにすると更に遅いかかる装甲犬を飛んでかわし、カウンター気味に頭部に蹴りを放ち吹き飛ばす。周囲に装甲犬の気配がなくなった事を確認するとゆっくりと子供を下した。
「あっちは大丈夫だよ。走れるかな?」
「だってマックスが大丈夫っていうなら大丈夫!ひとりで行ける!」
優しくと問いかけると、鼻息荒く子供は強く頷いた少年はすぐさま走り出した。
その後ろ姿を見送っているとネマが唐突に口を開いた?
〈なぜ、あのような危険な事をされたのですか?〉
「何の事?」
〈あの子供を助けた事です。マスターの身が危険にさらされました〉
「あー、あれね。だって人を助けるのに理由なんていらないでしょ。マックスじゃなくてもそうするよ」
〈理解できません〉
「そう言われてもそんなもんなんだよね。ネマだってわざわざ教えてくれたじゃない。助けてあげようって思ったんしゃないの?」
〈分かりません。マスターが必要と思われたので〉
「ありがとう。考えてくれたんだね」
〈………………………分かりません〉
ネマが珍しく押し黙ってしまったなと気にするも後方まで無事に逃げていく子供の事が気になっていたソータはその無事乎確認するとすぐジャンヌのもとに駆け付けた。
ジャンヌが相対していたのは太った人間のような丸い体型をしていた大柄な自動人形だった。機械の身体が剥き出しのそれは重火器タイプのようで両手が、大小の銃火器になっており榴弾やら銃弾が次々にジャンヌに襲い掛かり周囲が爆炎に包まれている。
「バレットシェル!」
ジャンヌが小脇に抱えた大型ショットガンから散弾がばら撒かれると敵の榴弾に当たり空中で爆発。降り注ぐ銃弾にもまるで楯のようにその全てを撃ち返し防いだ。その隙間を縫って更に追撃をかけている。が、重装甲なのか破壊するほどのダメージを与えきれないようだ。
その合間にソータが接近戦をかけるために真横から駆け寄る。ヒートナイフで一閃するがガトリングガンの銃身で防がれる。動きの止まった所をその大きな身体に鋭い蹴りを打ち込んだ。全力の蹴りであり相手が怯む事を想定していたが、見た目より重くびくともしない。
「重っ!」
驚くソータに銃身が迫ると羽虫が飛ぶ様な音とともに銃弾が吐き出されそのまま至近距離で撃ち込まれる。
咄嗟に身体を捻って回避しようとするが少なくない数が撃ち込まれ吹き飛ばされた。
「ソータ!」
「大丈夫、大した事ない」
立ち上がると腹に受けた銃弾が音を立てて転がる。無傷でも無事でもないが存外この身体は丈夫にできているようだ。
「カバーする、なんとかしてみろ!」
「なんとか出来るならしてるって」
ジャンヌからの無茶な要求を叶えるべく近くの壁に隠れ無数に撃ち込まれる銃撃を身を隠しながら様子を伺う。
ジャンヌの援護の中、何度か接近戦を試みるが弾幕が厚く、なんとか近寄れても装甲も厚くて効果的な攻撃が与えらない。
ソータの視界の自動人形の身体に数カ所、青い光点が点滅する。
<ターゲットに有効と推奨されるポイントを表示します>
要請していないのにネマが自主的にサポートしてくれているようだ。
「ジャンヌ、仕掛けてみる。援護お願い!」
「策があるんだな? なら試してみろ」
二、三の打ち合わせの後、少し離れた所に石を投げると自動人形がその音に反応して銃弾の雨が降り注ぐ。
「イグニッション!」
その隙に自身の能力を一時的に増幅させるスキルを発動させると倒壊していた鉄製のドアをシールドがわりに突撃する。
ジャンヌが牽制してくれる中、一直線に走っていくが物凄い勢いで銃弾が撃ち込まれると頭の上の部分がほどなく吹き飛んだ。大人なら頭がある位置だろうか、背が低くてよかったと安堵する。
「ポイントショット!」
ライフル銃を構えたジャンヌが立て続けに複数発発射。銃声とほぼ同時に小さい方のガトリングガンが派手に暴発した。
どうやら、ガトリングガンの銃口全てにライフル弾を撃ち込んだようだ。
「どりゃああ!」
掛け声とともにドアを相手の視界を塞ぐように投げつけると投げつけたドアが銃身で殴られ吹き飛んでいく。
さらにジャンヌが牽制してくれている間に足元まで一気にスライディング。気付いた自動人形がもう一つのガトリングガンを撃ちまくるが、長い銃身の内側に入り込めば取り回しのきかないガトリングガンで撃たれる事はなかった。
股の下を駆け抜けるように滑り込みナイフを振り抜く。最大火力にしたナイフでもこの大型装甲に致命傷を与えるのは容易ではないだろう。だが、人型をしているなら構造も似ているはずだ。
自動人形が突然、つんのめったようにバランスを崩し動きが鈍る。踏み出した片脚の動きが明らかにおかしくなっていた。ソータがすれ違いざまにアキレス腱に似たパーツ部分を切断したのでまともには歩けなくなっている。
「ムダに人に近づけたのがよくなかったな!」
その隙に背中に回り込みリュクサックのようなパーツから伸びている弾帯を切り離し、これ以上給弾できないようにする。重火器が使えないなら、ただのデカブツになる。振り回す銃身をかわして膝裏を力一杯蹴り飛ばすとその重さで前のめりに転倒した。
「ピアシングショット!」
その背中にジャンヌがライフル銃を連射する。倒れている自動人形に次々に命中、よく見ると同じ銃創に撃ち込み続けたようだ。何発か撃ち込まれたところでモーター音が聞こえなくなり機能停止した。
「貫通弾を使ってこの耐久性か…….。相変わらずΩの連中は厄介だな」
確実に倒した事を確認したジャンヌは軽くため息をついた。




