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45 春節祭

 街全体が賑やかな雰囲気に包まれ、鳴り物や人々の歓声が響く。色とりどりの旗や提灯が風に揺れ、賑やかな音楽や歓声が響き渡っていた。道路には露店が立ち並び、美味しそうな料理の香りが漂っている。子供たちは普段と違う街の雰囲気に興奮気味に走り回り、街角のそこら中には様々な出店が立ち並びそこから香ばしい香りが漂ってくる。

 街の各所から閃光とともに煙が舞い上がり、小さな花火のような破裂音が聞こえていた。爆竹があちこちで鳴り火薬の匂いと食べ物の香りが混ざり合いなんとも言えない匂いが街中に広がっていく。


 あれから数ヶ月、色々な事があったが目立った戦闘もなく比較的平穏な日々をソータは過ごしていた。

 ミュータントの姉妹はあの任務後に正式にニルヴァーナ所属となり幾つかの簡単な任務をこなしていた。


 今日は年に一度の春節祭という祭がある。一度とはいうが数日は続く祭りでありその間、仕事はどこも休みになる。秘密結社ニルヴァーナには関係ない話であるがせっかくなのでみんなで外出する事になった。勿論、あのミュータントの二人も一緒である。特徴的な耳は帽子でとりあえずは隠しているから外れないかぎりまず問題はない。ソータに至っても皮膚を露出しなければ特に問題ない。別に見られたとしても一見すればただの入れ墨に過ぎず、あれを動力回路の一部と見抜く事は不可能であろう。

 慣れない街歩きという事もあり、ジャンヌの他にソニアがなぜが同行する事になった。ソータと外出できると聞いて文字通り飛び上がって喜び志願したと聞いている。普段しなきおしゃれをしており胸元にファーのついたセーターを着て張り切っているようだった。


「そんな白い服を着てたら食べ歩きはおろか、イベントで汚れるかもしれないぞ」


「いーの、ソータくんとのお祭りデートなんだからおしゃれしないと」


「いや、デートって訳じゃ。あれ? でも周りは女性ばっかり?」


「アハハ、男ひとりダナ」


「このバカ、勘違いするから変な事いわないで」


 張り切るソニアにジャンヌが釘を刺すも気にする様子はない。ソータはよく考えると自分以外が女性ばっかりの環境になっている事に今更ながら気付いていた。ジャンヌもルシンも身長が高めでスタイルがよく、コレットは黙っていればそれなりの美少女枠に収まる。そこに可愛らしい担当のファロムがいるとそれなりに目立つ。


 そんな事を予想したのかミゲールが任務以外でソータ達のお守りをするのを嫌がって今回は来ていない。ジャンヌは縦長のカバンを肩にかけているが中身はアレだろう。


「こんなとこにまで携帯してるの?」


「以前の事があるからな。場所を問わずそれなりの物は持ち歩く」


 そんな物を持ち歩いて大丈夫なのか気になったソータだが、まぁなんとかするのだろうと軽く考える。

 時々、不意に街中に響き渡る爆竹の音や閃光に毎回驚くソニアを皆で笑いながら街を歩きまわる。


「夜になるともっと激しくなるからな」


 ずり落ちる銀縁の眼鏡を必死で直しながらソニアはずっとビクビクしている。そんな姿をジャンヌは普段の冷静な顔とは異なりニヤニヤと笑って更に追い込むような事を口にしていた。どうやらソニアはこの祭りは苦手なようだ。そんなに怖いなら来なければいいのに何故来たのだろうか。

 まだ爆竹が不意に横で炸裂すると煙とともに派手な音が街に響く。


「ヒッ!」


「ソニアー、そんなとこに隠れても意味ないとおもうけど」


 とうとう、ソニアは爆竹の音が鳴るたびにソータの背中に隠れるようになっていた。いくら小柄なソニアとはいえ、体格があまり変わらないソータの背中に隠れても殆どが身体ははみ出ている。そもそも隠れた所で音の大きさが変わる訳でもないのだ。


「だってー、ソータくんの後ろなら安全かなーって」


「そこに居ても音が小さくなる訳ではないですから離れません?」


「嫌よ! だって、ソータくんに合法的にハグできるのよぉ。こんな素敵な事、そうそう出来る訳ないじゃない?」


「正直、邪魔なんですけどね」


「そんな事を言っても優しいソータくんは見捨てるような事はしないでしょー」


 そう言いながらソータの腰にしがみついたまま顔をスリスリと背中に擦り付ける。引っ剥がすのも気が引けるのか、ソータはそのまま引きずっていく事にした。

 身長差の為にしゃがんだソニアを腰にくっつけたまま進む姿は流石に人目につきすぎてしまう。だが、だからといってソニアを振り払っていくというのも何となく気が引けたソータは折衷案として背中に乗せようかと考えていた。

 その案を聞いたソニアは奇声を上げて喜び、ドン引きするソータを他所に飛び乗りおんぶという名の全力ハグをおこなった。

 そんなソニアを痛々しい目で見た獣人姉妹は助けを求めるようにジャンヌとコレットに視線を移す。


「ちょっとアンタ達、もう少し大人しくできないの?」


 コレットの小言という屈辱を受けたソータとジャンヌのゲンコツを頭に受けたソニアが無事にパージされるのはそれからまもなくだった。


 ソータが前回来た時は祭りの準備期間であったがその時でも人は多かった。今日はその時よりも遥かに人の姿が多く、更に肌の色の違う人の割合も増え多民族感が強い風景となっている。街のあちこちには夜に照らされるであろう様々な模様が描かれた提灯のようなランタンが頭上にぶら下がっていた。

 広場では剣舞や踊り披露している人もおり、様々な音楽が奏でられ賑やかな音色が街全体に響き渡る。音楽に引き寄せられるように人々が集まり中々の盛り上がりをみせていた。仮装だろうか、お面や派手な化粧とともに飾り立てている人も見かける。


「水餃子うまいよー、買っていきなー」

「創業五十年、伝統の肉まん蒸し上がったよ」


 店舗の入り口からは、甘い香りが漂い、食への誘惑が街全体に広がっていた。屋台の行列は賑やかで、人々が美味しそうな食べ物を求めている。照明の下では料理の蒸気が舞い上がり、その美味しさを予感させていた。屋台では前よりも品揃えが多く目移りしてしまう。

 ソータは前回とは違う物を食べてみたいと考え、硬貨の形をしたカラフルなお餅を頼んでみた。こんなの食べても消化器官は大丈夫なのか、とか難しい事は考えていない。一口齧ると甘くてモチモチしてなかなかの旨さだ。


 コレットは今回はタルトを頼んでいるようで相変わらずスイーツに対しての執着はブレていないようだった。ジャンヌはフルーツジュース、ソニアとルシンは絞りたてのオレンジを買ってシェアしている。

 ファロムは干し肉屋の前で真剣に悩んでいるようだ。


「定番のビーフジャーキーかナ。でもポークとチキンも捨てがたいよネェ」


 両手にジャーキーを持ってあーでもない、こーでもないと幸せな悩みをブツブツ言っている。


 買い食いをしながらウィンドウショッピングを楽しんでいると突然、一軒の店から小柄な男がルシンに声をかけてきた。両手をポケットにいれたまま、肩をいからして下から舐めるように眼鏡の奥から鋭い眼光を飛ばす。まさにチンピラを絵にかいたような風貌の中年の男性はどうやら店の呼び込みのような事をしている様だった。

 ルシンは困っているようだが、誰に助けを呼んでいいのか分からないようであたふたとしている。

 まさか、ミュータントとバレた?!

 見かねたコレットが動こうとした矢先に長身のジャンヌがその男を見下ろす様に前に立つ。


「ジョーじゃないか。久しぶりだな。悪さはしてないだろうな」


「あっ?あー、ジャンヌ姐さん、お久しぶりです」  

 ジョーと呼ばれた男は頭を掻きながら、揉み手をしながらジャンヌに近づいてくる。


「していませんですよ。ちゃんとあれ以来、悪事からはきれいに足を洗って真面目に働いていますって」


 どこがよ! と呟くコレットを無視して揉み手を続けるジョーにジャンヌも慣れたもののようだ。


「私の連れに近づいていたが、何か用か?」


「いやね、キレイな方なんで似合う服とかはいかかなーと声をかけようと」


 ジャンヌの問いかけにジョーは後ろを振り返りながら答える。そこには少々派手な佇まいではあるが、所謂セレクトショップがあった。

 その後の説明を聞く限り、どうやら本当に客引きしようとしていたらしいが見た目と態度に問題がありすぎた。


「見ての通り、まじめにアクセサリーとかアパレル関係を売ってるしがない商人ですって。姐さんのお友達の方もいかがです?安くしておきますよ」


「そういう話なら見てみる必要があるわね」


 その言葉を聞いてルシン達を促す形で、コレットとソニアが店に入って行く。入ってからすぐに騒ぎ声が聞こえてきた。


「ジャンヌ? あの人は何者なの?知り合い?」


「アレか? 恥ずかしい人と書いて恥人(ちじん)(知人)と呼ぶレベルの知り合いではあるな」


 ソータの問いかけに眉をしかめならジョーに目をやっている。


「姐さん、勘弁してくださいよぉ。今じゃ姐さんの役に立つように働けてるつもりですがねぇ」


 アレ呼ばわりされたジョーは困り顔でジャンヌにへこへこしていたが、コレットに呼ばれて店に戻っていく。二人の様子は側から見ると完全に若頭と舎弟のようでありジャンヌも悪党に見えてくる。

 そんなソータの考えを読んだのか、ジャンヌがムっとした顔を彼に向けた。


「アレが昔、悪事を働いていた時に組織ごと潰したことがあってな。収容所送りにするつもりだったのだが、こちらに協力することを条件に解放しただけだ」


「えっ!内緒じゃないの?!」


 ニルヴァ-ナの事を話したら消されるって言ってたよね! 思わず、大声を出しそうになり慌てて自分の口を押える。


「無論、ニルヴァーナの事は機密にしている。軍の関係者程度にごまかしてはいるがな。ああ見えてアレは情報屋として存外優秀でな、重宝しているんだ」


 そんな凄い情報屋ならニルヴァーナの事もバレてそうな気もするんだけど、とソータは一瞬考えたが無視する事にした。


 しばらくするとジョーが急いで戻ってくるとジャンヌに近づき小声で声をかける。


「そうだ、姐さんに急ぎ伝えないといけない情報が。ガイアの奴らが地下に潜伏しているらしいって話なんですが……」


「その件なら解決済みだ。お前にしては情報が遅いな」


「もう、掴んでおられたんですか。さすがですな。こちらもやっと掴めた情報だったのですがねぇ」


 軽い溜息とともにがっくりと肩を落としている。


「そう気を落とすな。こちらもつい最近知った件だ。どっちが早かったか程度だと思えばいい」


「情報屋としてはその一分一秒の差が大きいんですけどね」


 ぶつくさいいながら、店に戻っていく。

 女性陣の買い物はまだ終わっていないようで遠慮していた姉妹だったが店の中で商品を手に取っているのだろう、似合ってるだのこっちがいいだのと大騒ぎが聞こえてきた。


 女性ものの服などには興味はないがどんな様子か気になったソータは腰をあげる。

 店内はアロマが使われているようで、何とも言えない甘さのような透明感のある香りが漂っていて、少し落ち着いた雰囲気のBGMが古ぼけたスピーカーから流れていた。表通りは屋台の匂いがすごかったのもあってここは清潔感のある感じがする。

 イヤリングやイヤーカフ、ネックレスなど様々なアクセサリーやカジュアルなものからモードな服までが多数並んでいる。品揃えは豊富のようであり値段もそこまで高い物ではなく、手頃な感じが購買意欲をそそるようだった。

 見た目はガサツそうなオジサンの雰囲気とはかなり異なりビックリする。


「こういう香りも音楽も商売になるんですよね。お客さんがリラックスして店内に長くいていただくとそれだけで商品が売れますから。あと、このアロマオイルも人気ですよ」


 一見、チンピラか何かと思わしき見た目が怖いオジサンに丁寧に話しかけられるという非日常にソータは妙にソワソワしてしまう。

 しかしなるほど、色々と考えているようだし、恐らく流行りものなどの情報は集めているようだ。人は見かけによらないものという事だろう。

 そんな事を思いながら見ていたが、女性達の物色はまだまだ終わりそうもない。


「ねぇ、こっちの服可愛くなくない?」

「ん?それは可愛いのか可愛くないのかどっちだ?」

「ちょっとこれ、胸周りキツイんだけどぉ、もう少し大きいのなーいー?」

「姉チャン。この赤いハンカチなんかスケスケー」

「ファロム、そ、それはハンカチじゃありません」


なんだが姦しい声と慣れない雰囲気に疲れたソータは早々に外に出る。

 どのくらい時間がたっただろうか。ようやく購入するものが決まったようだ。コレットはチェーンタイプのブレスレット、ファロムは所謂、アニマルキャップといわれる動物を模した帽子を購入したようだ。木を隠すなら森の中という感じだろう。

 コレットは「可愛いらしいけど、あざとい」と褒めてるのか落としたいのかよく分からない事を言っている。戯れあってる姿を見る限り悔しいだけだろう。

 姉のルシンの方はニット帽を購入、ソニアはネックレスであった。ジャンヌは当然買わず。何でも似合いそうなのに。

 曰く、「奴の店で買おうものなら、あとがややこしい」そうだ。


「大変お似合いですぜ。またどうぞ!」


 ジョーの営業スマイルを背に店をでる。店に入る前は夕方近くだったが、今は空に帳が下りている。最も街中は煌々と灯りが照らされており今日は眠らない街になりそうだった。

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