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37 初任務

 雲の合間から朝日が街を照らし、街に朝が訪れる。山から吹き下ろす風が時折、街の至る所にある飾りつけを大きく揺らしていた。

 この地方では冬場に山からの強い風が時折吹きつける。暖房を電気でまかなうことの多いこの都市では寒さをもたらす反面、風力発電の効率をあげるこの風は恵みでもあった。 

 そんな街である貿易都市、カーベの郊外に幾人かの人影が佇んでいた。


「にしても寒いわねー」


 そんな恩恵なぞ知ったことかとコレットは着ていたブルゾンの襟元を手で押さえ背中を丸めた。


「なら、もう少し暖かい服装にすればいいのに」


「寒いのはイヤだけど、ダサいのはもっとイヤなの」


 まだ雪が降るほどの寒さではないにしても肌寒い季節になっている。特に風が強く吹く事か多いこの時期は気温以上に体感温度は低く感じる事が多いのだが、屋外に出る機会が極端に少なかったコレットはその辺の感覚がまだ疎いようだった。


「アンタはいいわよね。寒さとは無縁でしょ」


「寒さはあるけど、そこまでは感じないね。そもそもちゃんと着てるからな」


 ソータの視線の先にはやや丈の短いスカートが見える。膝上までのニーハイソックスを履いているとはいえ屋外には寒いのでないだろうか、足元は一応ブーツにしているようだ。自分はといえば、パーカーの上に直してもらったジャケットを羽織っておりその下も防寒性のあるアンダーを着ている。あの丈の短さがオシャレと言われても自分には全くピンとこない。女子(コレット)は難しい生き物だ。


 かくいうソータも冬の外に出るのは何年ぶりになるかという所であり、その頃とは年齢も体格も、なんなら身体すら変わってるので服装など考えてもいなかったから適当にあるもので済ませるつもりだった。

 しかし、外に出ると聞いたソニアが冬服一式を準備して持ってきたのだ。特にこだわりのないソータはありがたくその服を着ている。そもそも、サイボーグであり全身機械化されているソータが暑いだ寒いだという感覚があるのはありがたい事である。 


 とはいえ生身と同じではなく、寒暖に対してそれなりの耐性があるソータには余程でない限り影響はないので冬服だろうが夏服だろうがあまり関係はないのだ。そもそも、機械化されているこの身体が風邪をひくはずもない。

 ソニアがそれを分かっていない訳もなく、それでも用意したのは純粋に本人の趣味嗜好の問題であった。着替えた時は何枚も写真を撮らされていたが、服の提供があった事もあり好きにさせていたが、途中からおかしな方向に進みそうになったので強制終了にしている。

 そんな事を思い出し、記憶に蓋をしている間にもコレットのグチは続いていたようだ。


「ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ」


 片手に何やらブランケットでくるんだ大きな包みのようなものを持っているミゲールがそれを床に乱暴に降ろす。


「寒いの苦手ダ」


 大きな包みの隙間からファロムの頭が飛び出ると大きな欠伸をひとつこぼすと再び瞼を閉じた。


「何してんのよファロム」


「寒いからくるまっていたら、そのままこんな風に纏められたノダ」


 一見すると布の甲羅で出来た亀のような姿のファロムに呆れ顔のコレットが頭を撫でていると気持ち良さげに目を細めてまったりとしている。


「ファロムはちょっと寒いのが苦手でして」


「いや、そういう問題じゃないよね。なんかもうコタツから顔だけ出したネコとおんなじじゃない?!」


 ルシンのフォローにならない言葉に思わずソータも突っ込んでしまう。そんなルシンはとみると裾広めのパンツとキルティングのコートとしっかりと防寒している。スタイルがよいからか何を着てもオシャレに見えるのは持つものの特権なのだろう。


 コタツ猫と化したファロムの包みを解くと中からまん丸とした生き物があうあういいながら転がり出てきた。


「そんな、格好してるから寒いんじゃないの」


「んナー、いっぱい着ると動きにくいノー」


 Tシャツに短パン姿のファロムは膝を抱え込んだまま動く様子もない。寒いなら着ればいいのに、それを嫌がるとは本末転倒だが個人の好みだから、とは言ってられない事情がこっちにもあるわけで。


「薄くても暖かい服があったな。物品管理部にいけば分けてくれるはずだ。ジャンヌ、連れて行ってやれ」


「了解。少しお時間を頂きますよ」


「なるべく早くすませろ」


「善処します」


 真面目な顔をしたジャンヌがファロムを抱えあげると支部に戻っていく。その後ろをルシンが付いて行きたそうにソワソワしていたが、その場を離れる事はなかった。そもそもここは外ではあるが支部から出てすぐそば。なんなら振り返ればそこに支部の出入り口がある。もっとも、一般人には隠蔽されている出入り口でありニルヴァーナの職員でも戦闘系の職員などの一部にしか知られてはいないが。


 郊外とはいえ街の中になるのだが人の気配はなかった。なんて事はない、この辺りまでは隠れ蓑にしている企業の私有地であり見られる事はまずありえない。ルシンは帽子を被っていたがファロムに至ってはそのまま過ぎなのでその頭に生えた猫耳を見られればミュータントとして即バレしてしまう。その辺も修正してもらわないと仕事に差し障りが出るだろう。


「待っている間に任務のあらましを確認しておく必要があるか?どうせ忘れている奴もいるだろう」


「さすがにそんな事ないわよ。みんなと一緒に野良魔獣を狩りにいくんでしょ」


 すさまじく簡潔にいうとそう言うことになるのだが、その辺りの細かいあらましも含めての任務なのだがコレットがその辺りを理解しているかは不明だ。


「狩りというか駆除だな、街に近すぎる奴らがいるらしく安全は必要だ。本来ならわざわざ俺たちが手を出さなくてもなんとでもなる案件だが、お前達の練習にはもってこいだろう。だから、俺たちは原則手を出さない」


「また見てるだけ?!」


「それも仕事だっつーの!出来たらお前たちだけで済ませて欲しいわ!監視役も面倒なんだよ」


 監視役という名目だが、実質は一部隊を率いているようなものだ。帰れば報告書も必要になる。面倒くさい。ましてや言うことを聞かない新兵でそいつらが組織の秘蔵っ子となると更にめんどくさい。

 そんなこっち(大人)の事情も知らずに非難めいた事を言うコレットにジロリと睨み返したミゲールは心底面倒くさそうな顔をすると、タバコに火を灯した。微かな煙が舞い上がると、深くゆっくりと吸い込み紫煙を揺らせる。コレットはそれを鬱陶しそうに見ていたが文句を言ってもムダと思ったのか煙の届かない所まで離れていった。


 どのくらい時間が経ったか、タバコが短くなってきた頃にファロムとジャンヌが帰ってきた。

 服を着替えてきたからかファロムは先のようにジッとしてる訳ではなくいつものように活発に動いているようだ。見た感じでは大した厚着はしておらず、強いて言うなら何故か短パンのままな脚にタイツが追加された事だろうか。防寒に優れた服があったのだろう。


「ようやく揃ったな。さっき話しかけていたが、我々はこのメンバーでチームとして行動する。目的はお前たちの連携練習と実戦慣れだ」


 ミゲールは短くなったタバコを携帯灰皿にねじ込むと前に並ぶ子供達をみる。正直、これが自分のチームかと思うとかなり思う事が多い。傍目にみれば完全に新兵の引率かそれ以下のお守りや厄介者の集まりでしかない。

 事実、コレットを扱える部隊などは存在しないだろうしソータに至っては機密過ぎて単独運用ぐらいしか考えられなかった。そこにミュータントである。機密の塊を任されたと言う点では自分は評価されているはず。だが、もはやカオスな状況であり問題ある者たちを集めただけか?そもそも、支部長はこんな奴らを束ねる自分の立場をどのように考えているんだろうか。

 確かソータの指導という立場だったはずだが、いつの間にこんな役割をやっているんだろう。やはり厄介者を集めただけなのかと一瞬遠い目をするが、すぐに自分を取り戻した。


「とりあえず、偽装手続きは済ませている。大手の傭兵会社である"グリードカンパニー"の社員を装い近郊に現れている生物兵器を狩る事になる。目撃情報からすると恐らく鋼翔蟲(スチールローカスト)だろう」


「どんなヤツなの?」


「どんなって、アレだよ。バッタみたいなヤツだが、ちょっと硬くてな。めんどくさい。あとは……まぁ見たら分かる」


 個体名だけではどんな相手かサッパリ分からない隊員を代表する形でソータが聞いてみたがあまり要領が得られない説明に頭をひねるばかりだった。バッタと聞いてコレットは露骨に嫌そうな顔をしてソータに顎を向ける。お前が何とかしろ、と言わんばかりの目線にお前もな、と返すと更にやり返される。

 そんな不毛な時間の後の追加の説明で分かった事は日帰り程度で繰り返し探索する予定なので装備は少なめとなっている事。大人は基本、監査役なので四人でうまく連携するようにとの事だけだった。

 とはいえ、いつも引率されていたソータもコレットもどうしていいのか分からない。しばし考えた後、結論を出した。


「とりあえず、獲物をたおせばいいだけでしょ。ミゲールが手伝わなくてもそんなに変わらないでしょ」


「そーね、グダグダいっても、しょうかないわ。さっさっといきましょ」


「アハハハー、外ダ外ダー」


 難しく考えても仕方がない、頭脳労働を早々に打ち切った二人とそもそも考えてない一人、年の低い順に脱落した三人はとりあえずは進む事にした。何故なら止まっていても何も変わらないからだ。


 どこに向かおうというのか、とりあえず街の外に出で行こうとする三人を見ながらミゲールが眉間を揉みしだく。出発前から猛烈に疲れた気がした。


「おい、アイツらろくに情報も聞かずに動いているが大丈夫なのか?」


「大丈夫です。私の妹は私と同じようにすごく耳がいいし鼻も効くんですよ」


 言外にルシン、お前がなんとかしろ、と声をかけたつもりのミゲールだったが、自慢げに自分の妹(ファロム)を褒めちぎるその返事に今度は頭を抱える事になる。

 どうやら、ここにはポンコツしかいないらしい。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブックマークやお気に入り登録などよろしくお願いします。

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