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35 新たな仲間とともに

 ニルヴァーナの一室、長テーブルと簡素な椅子が数脚、壁には一際大きな白板が備え付けられている。ブリーフィングルームにしては小さなこの部屋には何かある度に入っていたが今日はいつもより人が多くこの小さな部屋が更に狭く感じられた。

 既に室内にいたミゲールだがテーブルに脚を投げ出して座っており、半分程の長さになったタバコを乱暴に灰皿で揉み消した。


「遅いぞお前ら! 集合時間は過ぎているだろうが」

「ごめんなさい、みんな連れてくるのに手間取って」


 ミゲールの怒りはごもっともで予定時間を少し過ぎていた。早めに行く予定のソータであったが、皆を集めるために色々と頑張った結果、遅くなってしまった。

 横にいるコレットは話しを聞く気はないのか枝毛を探すように毛先をいじっており、その後ろには新たに加わったミュータントの二人が立っていた。うち一人の猫耳少女はなぜか手に唐揚げを持ったままであった。遅くなった原因の一つであるがその内容まで報告する気にはならなかった。


「猫耳!」


「アタシ? ファロムだヨ」


「なんで飯食ってんだ。作戦会議だぞ」


「何言ってるノ。お腹空いたからに決まってるだロ。腹が減ったら力が出ないからナ」


 ミゲールの叱責を前にもしゃもしゃと次の唐揚げを口に運びつつ猫耳ミュータントのファロムが答える。全く悪びれる事もなく自然に振る舞うその姿には一瞬、こっちが間違えているのかと錯覚しそうであった。

 気を取り直したミゲールがもう一人のミュータントである黒髪の女性に声をかける。以前のような薄汚れた服ではなく、薄青のパーカーにワイドパンツというラフなスタイルになっていた。誰かに貰ったのだろう。支給品でないのは間違いない。


「ルシン、だったか。こいつの保護者だろ。教育がなってないんじゃないか。お前らの責任者も含めてこんな事では指導が必要になるな」


 ルシンはおずおずとファロムの前に出ると頭を下げた。


「申し訳ありません。この子はまだ人のルールがよく分かっていないものですから。これから少しずつ教えていきますのでご容赦ください」


「めんどくさいのは俺もイヤだがな……」


「そこまでにしておいた方がいいぞミゲール。それ以上は自分の首を絞めることになる」


 最後に入ってきたジャンヌが扉をゆっくりと閉めて声をかけた。


「首がしまる?どういう意味だ」


「そのままよ。この子達の責任者にも懲罰を与えるのはあなたにも害があるの……。だって、この子達の保護責任者、アナタだもの」


「はぁー!? 聞いてねーぞ!」


 椅子からひっくり返りそうになりながら立ち上がったミゲールはジャンヌに詰め寄る勢いで顔を寄せた。


「だって今初めて言ったもの。この子達をここに置くにあたって身元引受人が必要だったのよ。この子達に興味があったアナタなら適任かと思って支部長に申請したらあっさりと通ったわ」


「支部長!」


「あなたの尊敬する上司からのお言葉よ。『よろしく頼むネ』だそうよ」


「あのデブー!」


 厄介ごと全てを丸めて部下に放り投げるという離れ業をしたデブ、こと(チャオ)支部長に怒り狂うミゲールをほくそ笑んだジャンヌがみている。


「不束者だけど、よろしくお願いするノダ」


「ジャーンヌ、お前か、変な言葉を教えたのはぁ!」


 近寄ってペコリと頭を下げたファロムは何の事か分からないと言った顔で最後の唐揚げをおいしそうに頬張った。


 ******


「どうして俺んとこにはガキしか来ねーんだ。学校じゃねーぞ、遊びに来てるなら帰れや」


 やや怒気を孕んだ声にファロムが何となく雰囲気を察して猫耳をペタリと倒して小さくなる。その様子にルシンが庇うよう前に出てきた。


「そうしたいのは山々ですが、私たちは保護と言われこの組織に身を置く事を余儀なくされています。生きていく為には仕方ないので真剣にやるつもりではあります」


「保護、ねぇ」


 ミゲールが呟くようにいう"保護"だがルシンが説明したように、ミュータントである二人は保護という名の軟禁に近い状態と言っても過言ではなかった。衣食住は担保してくれており、その点について不満は何一つない。職員と同じ食事を温かく食べられるし、住まいも地下故に窓がないがそれは他の職員も同じ事、それを除けば今までと比べるまでもなく快適な空間を与えられている。服装も自分達には勿体無いぐらいの衣服が与えられていた。何しろ新品のである。感謝する事はあっても文句などはあるはずがない。


 というのが上層部の意見のようだ。だが、実際には自由はほぼない。施設内ですら満足に移動する事は叶わず常に監視があるような状態であった。とはいえ、とくに拘束されている訳でもなく、本気で逃げようとすれば出来なくもないのだろうがファロムが食事を大変気に入っており、また監視があるとはいえ快適な生活が提供されているのは間違いなく、(ファロム)の事を考えるとルシンとしては離れ難いというのが本音であった。 

 最も、ソータもコレットは監視はなかったが最近ようやく移動範囲の制限が解除されていただだけで似たような状態であるが。


 ミゲールはルシンの真っ直ぐに向けられ視線に少し居心地が悪そうにすると座っていた姿勢を大きく崩した。


「マジメにやるってのなら、何の問題もない。どんな駒でも動かせるのがある方が助かる。とりあえず、お前たち二人がどの程度の戦力となり得るのかあいつらとの連携も兼ねて任務を与える事になった」


「何よー。また仕事? 私たちに頼まないといけないなんて、随分と人手不足なのね」


 腕組みをして背もたれにふんぞり返るコレットが揶揄(からか)うように声をかけているが、また外に出られるかもしれない嬉しさが隠し切れておらず口角がヒクヒクしていた。


「シゴト? なんか知らないガ頼み事ならするゾ。美味いメシは出るかな、お姉チャン?」


「あのー、私たちは何をしたら宜しいのでしょうか?」


 色々とカオスな雰囲気にやや頭を抱えるミゲールだが、なんとか気を取り直すとホワイトボードに作戦内容を書き連ねる。ある程度、書き連ね振り返った所でルシンがおずおずと立ち上がるとミゲールに声をかけた。


「申し訳ありません。文字ですが私が少し分かりますがこの子は殆ど分かりません」


「アハハ、何書いてんのか分かんないゾー」


 今度こそ、ミゲールは机に突っ伏した。



「えーと、今回の任務は郊外で出没情報のある生物兵器の討伐になります。身分を偽る為に傭兵会社からの下請けという形で介入する事になるそうです。質問があれば挙手で」


 ソータは資料の束を持ちながらホワイトボードの前で慣れない作戦説明を行なっている。


「もう、こんな面倒な事はやってられん、あとはお前がやれ」


 そう言って完全に椅子にだらしなく座ったミゲールから資料を投げ渡されこんな事をするハメになっていた。読み上げればいいんだよ、と、言われたが自分も初めて知る作戦内容に質問などに答えれるとは思えない。


 そんな空気を読まずに珍しくコレットが手元の資料にざっと目を通し挙手をする。


「大丈夫? バレたりしないの」


「一応、他の人達とは組まないで僕たちだけのチーム、今回は後ろの二人にも参加してもらうらしいけど。悪目立ちしなけば大丈夫じゃないかな。でも僕はともかくコレットの召喚とかは見られたらよくないんじゃないかと……」


 そこまでは記載されておらず、尻すぼみになる語尾でミゲールをチラッと見ると机にだらしなく頬杖をついている。吸い込まれそうな大欠伸を一つするとジャンヌに目を向け顎をしゃくると机にもたれる。


 軽いため息とともにジャンヌがネクタイを締め直しながら前に出てきたので、ソータはこれ幸いとそっと自分の席にもどる。


「チーム編成自体は今回、ここにいる全員でおこなう。郊外という事でまず、人目は気にする事はないだろう。コレットの召喚にせよ、そこのミュータント二人にせよ目立つのは目立つのだが」


 そこで、言葉を切りミゲールに目線をやると彼は眠たげな目をしたまま頷く。


「余程の人数にみられていない限り、対処は可能だ。気をつける必要はあるがそこまで心配する必要はない」


「対処ってなに?」


「知らなくてもいい。ニルヴァーナの事は秘匿せねばならないからな。なんとでもする」


「ミゲールもジャンヌもいるなら安心だね。僕たちの出番ないかな。あはは」


 対処方法が少し恐ろしい考えになりかけたので慌ててソータは話題をかえた。


「残念ながら今回もなるべく私たちは手を出さずサポートに徹する予定だ。特に今回は後ろの二人の実力を測ってどの程度の戦力として換算するかを知りたい。それなりに全力でやってくれ」


 ルシンとファロムのミュータント二人に目線を向けるとジャンヌは今回のメインがお前達だと言い切った。

 不安にかられるも貴重な実戦経験でありわそれなりに苦戦した相手が味方として戦ってくれるのだから期待もひとしおのようだ。


「この子も、ファロムも参加するのですよね」


「全員だな。あぁ、子供だからとかは関係ない。戦力として使えるものは何でも使う。それにこいつらも世間でいえば子供だが既に実戦経験は積んでいる」


「ボク、何でもやるヨー」


 ルシンが猫耳ファロムを庇うよう前に出たが、ジャンヌはあっさりとルシンの意見を否定する。ファロムより幾分か年上であろうコレットやソータも子供ではある。少年兵を使っている事は決して珍しくはなく、スキルが使える者や腕に自信のある者はそれなりの年齢でも自警団や守備隊に入る事がある。実力が伴えば年齢など関係なく討伐にも参加し戦う事もありえる。ヒトより余程、身体能力に優れたミュータントであれば実戦配備は当然の判断であった。


「安全は保証できん。何しろ実戦だからな。だが、我々が最大限考慮する事は約束しよう」


 不安と不満が入り混じった表情をするルシンにジャンヌが少しでも安心させようと声をかけた。それでも不安が取り払える事はなくルシンはファロムを背中越しに強く抱きしめていた。


「作戦開始は明朝7時、各々準備をしておくように」


 そう言い残すとジャンヌは机でだらしなく伸びているミゲールを無理やり立たせると半ば引き摺るようにして部屋を出て行った。確かミゲールの方が階級は上だった筈だが、どうにも対等かなんならジャンヌの方が上のような印象をうける。これは二人の関係性なのかはたまたニルヴァーナという組織がこうなのか。


 資料の束を手に取りどうしたものかとソータが思案しているとコレットが不意に立ち上がるとホワイトボードの前に立った。


「とりあえず、明日からこの面子で外に行く訳だけどコイツは兎も角、ワタシ、あなた達の事を全然知らないのよ。そんなんで共闘もなにもないからちょっと親睦会でもやりましょ」


 意味ありげに笑うコレットにコイツ呼ばわりされたソータは面倒ごとの気配を感じあからさまに嫌な顔を向けた。

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