34 今後の方針
超支部長は箸を置くとジャンヌに改めて向き直った。
「今日来たのは例のミュータントのことだネ」
「彼女達の扱いをどのようにするべきか、ご相談したく伺いました」
超支部長が大きなお腹をさすりながら椅子に座りなおし緩やかにもたれかかると、椅子が抗議をするように小さく悲鳴を上げた。
「キミはどうしたいアルか」
「私如きが意見を出せる立場ではないかと」
「構わんヨ。ここには我々しかいないネ」
確かにこの部屋には護衛も監視装置の類も見当たらない。大丈夫なのだろうか、と不安になるぐらいに。
では、あくまで私見ですが。と前置きしてからジャンヌは姿勢を正す。
「解放するにも行き先のない彼女達は犯罪者崩れになる可能性が高いと考えます。個々の能力がかなり高い事を考慮し、ニルヴァーナの一員として迎え、活動してもらうのが得策かと愚考しております」
フム、と少し考えるように腕を組むこと数秒。
「悪くないアルね。では、彼女達は一通りの教育をおこない戦力として使えるならば計画に盛り込むとしよう」
「計画に! よろしいのですか?」
ジャンヌとしては組織に引き入れるのにと苦労するかと思っていただけに、それだけでも十分であった。それをまさか例の計画に加えるとは思ってもいなかった。
普段、冷静なジャンヌがそれを保っていられない顔をみて、満足した様子で髭を整えるように撫でる。
「前例のない事だが大丈夫ネ。どの道、計画事態が初めての事ネ。あの子達の扱いにも困るから丁度いいヨ。副支部長あたりは色々言うかもしれないアルが」
それだけ言うと再び麺を啜りだす。
副支部長であるトムヤムは組織の中でも特に規律を重んじる事で有名であり前例のない事を嫌がる可能性は非常に高いと思われた。しかし、彼女達が戦力になるのは非常に助かる。ただ、計画に他所者を混ぜて本当に問題ないのだろうか。
「分かりました。しかし、彼女達をそのまま信用するのは危険かと。なんらかの対策を取りたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「その辺の細かい事は任せるネ」
「では、そのような方針で進めてまいります」
「よろしく頼むヨ。あー、彼女達の教育はミゲール君辺りにでも頼んだらよいアル」
思わず、はっ?と言いそうになったジャンヌは慌てて口を閉じる。
今までも考えが分からない事はあったが、今回のは支部長の考えが全く読めなかった。計画に関わる事だけでも驚きだが、ミゲールを教育につけるなんて。
彼はガイアへの憎悪は人一倍強いように感じていた。その為には利用できるものはなんでも利用するだろう。女、子供でも容赦しないのは初期のソータへの対応を見ていてもわかる。
ソータに剣術の指南を頼んだ時も全身機械化と聞いてやっと首を縦に振らせる事が出来た。
理由は簡単に壊れないから、だ。ソータはともかく彼女達は大丈夫だろうかとジャンヌはさすがに心配になった。
「お言葉を返すようですが、奴で大丈夫でしょうか?」
「彼女たちはガイアに同族をやられているネ。その辺を前に出していけば、意外に気が合うかもヨ。どうしてもダメなら私から頼んだと伝えたら快諾するはずネ」
了解しました、と納得のいかないまでも敬礼で返した。
重厚な扉をゆっくりと閉め部屋を出たところでジャンヌは軽く息をはく。どう見てもただの小太りのおっさんなのだが、時々強い威圧感を感じる時があった。噂では昔は一流の機関員だったらしいがあの容姿を見る限り、噂でしかないだろう。
それよりもミゲールの説得とミュータントの子達に説明とやる事が多い。なんで、こんな雑務が増えているんのだろう。そもそもこういう細かい調性は自分の性格上あっていないのだ。
考えれば考えるほど、ジャンヌの額のシワが寄り徐々にイライラした表情が強くなっていった。
そうだ、アイツがちゃんとしてないからだ。だから色々な事後処理が増えている。そんなイライラを募らせたまま訓練所の力任せに開く。
中から剣戟の音が響いており、奥をみるとミゲールとソータが模擬戦をしているようだ。
イライラの元凶がそこにいた。考えるより先に半ば反射的に腰のホルスターから短銃身のショットガンを抜き放つ。
淀みなく洗練された動きで銃そのものまでも息を潜めたように錯覚するほど気配も感じさせなかった。弾丸はさすがに非殺傷系だったが至近距離なので普通ならそれなりに怪我をするレベルだ。
「グワァァッ! なになに⁈」
訓練所内に発砲音が響き渡ると後頭部を含めた頭部周辺に着弾し、ソータの頭が揺らぐ。こんな豆鉄砲かつ短銃身ではすぐ弾が散らばり大して効かないだろうが当たればそれなりに痛いようだ。
涙目のソータが振り向くと弾を入れ直しているジャンヌと目が合う。
「ジャンヌ? いま、撃ったでしょ、撃ったよね?めっちゃ痛いんだけど」
「イライラしたから撃った。お前のせいで心労が絶えん」
「そんな無茶苦茶な!」
「小僧、余裕だな。俺相手に余所見とは!」
戦闘中に余所見をするというしてはならない行為をした代償は大きい。背中から縦一文字にきれいに斬撃が入るとソータがバタリと倒れた。
足元に転がっているソータをジャンヌは足蹴にして端っこに転がしておく。会話の邪魔になるからだ。
「あの距離では弾がばら撒かれ過ぎてかわすのもめんどくさいんだわ。気をつけてくれ」
「あぁ、すまない。つい反射的にな」
「で、こんなとこまでわざわざ来たのは何の用だ。奴らの情報でもあったのか?」
ミゲールはタオルで軽く汗を拭きながら話しかけてきた。ジャンヌの目がスッと細くなる。気づいていないようだがソータはミゲールに汗をかかすまで粘ったという事になる。余程の手だれでもない限り、ミゲールと延々と模擬戦などは出来ない。驚異的な持続力はそれだけ戦闘で有利になりえる。
「この間の奴らに関する情報が集まったという事になるのかな?」
「詳しくは調査班の資料待ちよ。そんな事より、今日の用事はあなたに面倒ごとを頼みにきたの」
ハッ、と鼻で笑いジャンヌを睨むようにみる。
「嫌ですね。こいつだけでも面倒なのにこれ以上の面倒ごとはゴメンです」
「超支部長直々の頼みだけどどうする?」
ミゲールの表情がサッと変わった。普段以上に真剣な顔だ。
「うちの班が保護したミュータントが二人程いるのだけど使える状態にして欲しいと。支部長自ら、お前を推薦していた」
こんな事でこいつが動くなら苦労はしないんだけど……。とジャンヌが内心で思っていたが、
「わかった。支部長直々の頼みとなると断れん。後で確認にいく。オラ、ソータ!いつまで寝てんだ。起きろ!」
足元に転がっているソータを足蹴にしながら剣先でつついている。
(まさかの快諾だと⁈超支部長は奴の弱みでも握っているの?)
ジャンヌは驚愕しながらも一番の問題がすんなり解決した事をとりあえず手放しで喜ぶ事にする。厄介ごとはひとつでも少ない方がいいに決まっているからだ。
尻を剣で突かれながら、早くも覚醒したソータが撃たれた後頭部を押さえながらノロノロとミゲールと部屋から出ていく。
なんだかんだであの二人もいい感じのようだった。ソータの性格もあるが、あの頑丈が取り柄の身体がミゲールにはよかったのかもしれなかった。何しろ、少々の事ではビクともしないのだから。加減が苦手な彼を相手に出来る者は少なかったから丁度よいオモチャになっているのだろう。
ソータの姿をみて溜飲が下がる思いで部屋を出る。少しスッキリした気分になった。
この後、ソニアでも誘って食事などいいかもしれない。
来た時より軽い足取りでソニアのもとに向かうのだった。




