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30 未知の敵 中編

 サイキッカーがオーガと相対し、護衛の召喚獣はソータが相手をしている。ミゲールは既に一人の召喚士を倒した時点で相手の防御が手薄になっていた。その隙を見逃さずにいたジャンヌがライフル銃を構え直して引き金を絞る。


 一瞬、不可視の障壁が展開されたものの十分な強度がなかったのかあっさりと障壁が砕け散ると中央の塊の前で祈りを続けていた年老いた召喚士の身体が大きく揺れ鮮血が舞い散った。

 少なくない出血をみるに攻撃が効いていないはずはないのだが動きが鈍ることがなく、血まみれのローブのまま召喚士の男は演技がかったような口調でしゃべりだした。


「神よ! 異教徒の血肉と魂とともに我が身をここに寄進致します! どうか、あなた様の忠実なる僕に何卒、お力をお貸しください!」


 その言葉を最後に跪くように膝を折り座り込むような姿勢のまま動かなくなる。


 部屋の真ん中に積み重なった()()、意図的に見ないようにしていた血の匂いの発生源。そこから一際強い紅い光が発生する。血のように紅く、しかし漆黒が混ざったようなその光の中、積み重なっていたモノが急速に消滅していく。そして何かが喰われるような咀嚼音とともに部屋の中心にあったナニかは少しずつ消失し、最後には老召喚士の身体が何かに喰い千切られるように消失した後にそれは姿を現した。


 巨大なトラのような獣が血の匂いと腐臭を漂わせていた。身体は血塗られたようにドス黒く、身体中から血や腐肉が糸のように垂れており、それが地面に触れる度に異質な音をたてていた。その不気味な光沢ある液体がその召喚獣をより異質に見せている。更にその液体が触れた部分の床からは煙が立ち上っていた。


「マズい! 血斑猟犬(ブラッディハウンド)だ! 供物を捧げて呼び出したか」


「何それ? マズイ相手なの?」


「所謂、アンデット系だ。死人全体に言えることだか痛みを感じないのか怯むことがないし、特に奴の血は腐蝕性が強く危険だ」


 ソータの声にミゲールが焦った顔をして叫ぶ。かつて、ミゲールはこの召喚獣と戦った事があった。随分前であったが若い機関員が何人も犠牲になった記憶を思い出し油断なく剣を構え直した。

 その傍らでジャンヌがショットガンを構えるとその銃口が文字通り火を吹く。


「バレットレイン!」


 ジャンヌが凄まじい速射攻撃をおこない、文字通り雨あられと散弾が魔獣に命中するが当たった箇所は煙を吹き出し効果的なダメージは与えられていないようにみえた。


「この程度の銃ではあいつには通じんか」


 小型の散弾銃を忌々しそうにみつめながら呟く。どうやら出血により弾が溶かされ内部まで到達していないようだ。しかも、怯む様子が見られず効いているのか分からないのは厄介だった。

 地下道でのミュータント捕獲と想定して軽装にした事が裏目に出てしまったようだ。ガイア相手に本調子じゃないんです、なんて言い訳が通用しない。常に万全であるべきだったと悔しさから力強く握るグリップが軋み悲鳴をあげていた。


 ソータが前に出で血斑猟犬の注意を引きつけるべくナイフを構え円を描くように動いていく。獣タイプはコレットのおかげで慣れてはいる。とはいえ、大きさがまるで違う。

 六、七メートルはあろうかという四足獣となると正直、すぐにでも逃げ出したい気持ちになる。自分がいなくてもミゲール達がなんとかしてくれるかもしれないが、それでは自分の存在意義がない。ニルヴァーナの機関員であり、サイボーグとしての力を平和の為に使わないのはあの時思い描いた機士としての夢から遠ざかる事になる。

 奥歯を噛み締め更に一歩前に出たソータに間髪入れず鋭い爪が襲い掛かってくる。


 サイドステップで避けたつもりが腐りかけの身体とは思えない速さであり、腕に切り傷がついていた。幸い、腕周りの防具はまだ機能していたが、皮膚が見えるまで切られており今の一撃でカーボンスーツの一部が血に触れたのか腐蝕し始めていた。


 うかつに接近戦も許されないようで、つかず離れずの距離を保ちながら、攻撃を試みるがどれも今ひとつ効果的なダメージは与えきれていないかのように感じた。しかも、素早く離れないと攻撃している側が腐食によるダメージを受けかねない。対して向こうからの一撃はかすっても腐蝕性が強く割に合わなかった。幸いソータを構成している金属は腐食には耐えれているようだがいつまで持つか分からない。


「ミゲール! 術者を倒せば召喚獣はいなくなるんじゃないの!」


「普通の奴はな。アイツは呼び出しが特殊だから受肉している状態に近いんだ。要は普通の化け物と変わらん!」


 近接で倒すには厄介な相手だが、それなりの火力を用意しないと遠距離では倒せないのは先のジャンヌをみて分かっている。ふざけやがって!と吐き捨てるとミゲールは刀を構え直した。


 ソータはふと思いついた事を試してみようか思ったがその為には多少は身を切らないと倒せそうにもなさそうだった。


「ネマ、もっとナイフにエネルギーを送って!」


〈エルメタリウム燃料電池発電効率変更します〉


 ソータの願いを受け、すぐさまメイン機関が静かに唸りを上げるとソータの腕にある動力ラインが淡く光る。ヒートナイフのスイッチを入れなおすと刀身が真っ赤に染まっていく。体勢を低くしながら距離を詰めてると近づくにつれて腐臭がより濃くなり鼻をつき、見上げる程大きな身体がより怖さを引き立てた。怖くない訳がない、震えそうになる手を渾身の力でなんとか抑えているだけだ。


〈マスター、ヒートナイフが臨界間近です〉


「維持してて!」


 踊りかかる猟犬とソータの影と影が絡みつき、ドス黒い口に妙に白く映る鋭利な牙が噛み合わされる。時に滴る粘液を撒き散らしながら凶悪な爪が振るわれた。その全てをかわしきるのは不可能だが、戦えない程の傷を負うことはない。


「イグニッション!」


 最近新たに習得したスキルを叫び飛び出す。元々を搭載されていたものだが、ソータがそれを使いこなすまだに至らず使えなかった機能である。 

身体機能を強化するスキル、イグニッションはフレームカットほどの加速は出来ないが持続時間がまるで違ううえに使用者の負担も少ない。戦闘モードで上げたギアをもう一段階引き上げてるようなものなので攻撃力も移動速度も飛躍的にあがっていた。

欠点としてはエネルギー消費が早くなるので持続戦闘時間が短かくなる。


 全身蒼く輝くと四肢に今まで以上の動力が瞬時に送られ爆発的な脚力で距離を詰める。撒き散らされた粘液に頬を焼かれながら猟犬の足元まで近づいた。

 襲いかかる爪を避け、無防備に曝け出されているように見える首筋まで一気に近づくと両手で握りしめたナイフを薙ぐように振るった。


 柄に達するまで差し込まれた刃が血斑猟犬(ブラッディハウンド)の首筋に深い傷を刻まれる。肉が焼け焦げる嫌な臭いと腐臭が混ぜ合わさり思わず顔を顰めた。傷口は最大温度まで高めておいたヒートナイフで焼き切っており止血までおこなっている状態になっていた。これなら返り血を浴びる心配はない。思いつきをぶっつけで試したが本当に有効だったのでホッとする。


 しかし、血斑猟犬(ブラッディハウンド)はこれだけの傷を受けても何事もなかったかのように素早く下がると口を大きくあけ深く息を吸い込み紫色のガスのようなブレスを吐いてきた。

 この手の攻撃に共通した予備動作に見慣れていたソータは素早く懐に入り込む。コレットとの対召喚獣戦を何度もやっていた成果が出たようだ。

 素早い対応で避けれたが、倒れていた召喚士の死体に直撃するとその身体が徐々に腐り落ちていく。


「ガスまで腐蝕性かよ!」


 あれの直撃はさすがにマズそうだ。自分の身体がいくら機械化されていてもこのガスが金属には無害とは限らないし、ましてや呼吸関連のパーツが破壊されては洒落にならない。


 だが、そんな悩みもすぐに考えないことにした。どうせなるようにしかならないなら、自分の身体を信じてとりあえずやってみるしかない。

 そう考えたソータはヒートナイフを片手に再度、接近戦をおこなう。今までの恐怖心や浮き足だった気持ち不思議と急激に冷めていく。

 横からミゲールが何かを叫んでいるがよく聞こえない。が周りは妙に澄み渡ってみえていた。


〈ヒートナイフ臨海突破。強制停止します〉

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