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29 未知の敵

 待つ事、しばらく。コレットのもとにラットが帰ってきた。

 コレットの前でクルクル回った後に案内するかのように前に進んでは振り返る。


「見つけたみたいね。ついて行きましょ」


「大丈夫だろうな。連れていかれた先はヒマワリの種が沢山ある所とかゴメンだよ」


「そんなにイヤなら自分で探せばぁ」


 冗談とも本気ともつかない返しをうけながらラットについて行く。

 なぜかその後ろではミゲールが額に皺を寄せてこめかみを揉んでいた。


 あの不気味な声は間隔をあけながら聞こえているが徐々に大きくなっていく。この先に声の主がいるはずだろう。

 角の手前でラットが止まる。この先が目的の場所のようだ。ここまで来ると、不気味な声は更に(おぞ)ましい声として聞こえきた。あとは鼻につく生臭い匂い……。


「かなりの血の匂いだ。ソータ、コレット、今までよりマズイ相手かもしれん。気を引き締めていけ!」


 ジャンヌが今までにない程、険しい顔で警告する。

 奥を伺うといくつもの壁を取り払ったのかかなりの広間になっていて、その真ん中には()()が積み重なっている。臭いの発生源はどうやらその何かのようだ。その手前ではローブ姿の人影が二人立っており更に以前、コレットの召喚で見た事のあるトカゲ人間(リザードマン)が四体程、少し離れて立っていた。

 ローブ姿の一人の年老いた男が部屋の中央に積み重ねてある何かに対し祈りのようなものを捧げているようにみえた。というのも、部屋の中央はよく分からない模様とともに簡素だが飾り付けられていて、祭壇のように見えたからだ。その祈りの声が反響し更に不気味さに拍車をかけているようだ。

 よく見るとその傍らにはワイシャツにだぶだぶのズボンをはいた痩せ型の男が辺りを警戒しながら立っている。


「ガイア!……」


 ジャンヌがギリっと歯嚙みする。


「あんな目眩しを使っていたから予想はしていたが、やはりガイアの連中だ。召喚獣がいるからあそこに召喚士もいるとみて間違いない。ソータは対召喚獣戦はコレットで慣れているだろう」


「まぁ、なんとなくだけど」


「それで十分だ。相手がガイアである以上、撤退はなくなった。ここで撃破する。……コレット!」


 普段以上に真剣な顔でジャンヌはコレットに向き直ると僅かに思案したが、次の瞬間には何かが決まったのだろう。迷いなく声をかける。


「遠慮せずにやってやれ。躊躇はいらん、全力で叩き潰せ!」


「全力でいいのね。まかせて!」


 その言葉にハッと何かに気づいたジャンヌが慌ててコレットの手を掴もうとする。


「待て! コレット!!」


 止めるジャンヌの声より早く、パン!と勢いよくコレットは手を組み合わせる。

 その姿はさながら神に祈る巫女の様な神々しさも感じさせる。青い光の柱が立ち昇り粒子が舞い散った後、そこには2m近い鬼が巨大な棍棒を持って立っていた。いつもの事だが絵面と出でくる召喚獣のギャップが強いのがコレットの召喚の特徴の気がした。


「いっけぇー! レッサーオーガ!」


 室内に響き渡る咆哮とともに棍棒を持った鬼が飛び出していく。

 その声にそこに居る者が一斉にレッサーオーガの方を向いた。

 それと同時に戦闘モードを起動させたソータの身体が一瞬淡く光る。


「あのバカ。奇襲という言葉を知らんのか!」


 ジャンヌが悪態をつきながら素早く背中からライフルを取り出すと照準を合わせる事なく腰だめで撃った。

 室内に銃声が響き渡りその余韻が残る中、傍らに立っていたワイシャツ姿の男が素早く手をかざしたかと思うと銃弾がローブ姿の男に届くより早く、甲高い音をたてて淡く光り輝く障壁に遮られる。


「まさかサイキッカーか?!なぜここに!」


 ジョブの中には魔法のような物理法則を捻じ曲げた不思議な力を扱える者がごく少数だが存在すると言われている。言われているというのは、ほぼ存在しないからだがそのスキルは確かに存在していた。触らずとも物体を動かし、視えないものを視、直接人の脳内に語りかける事が出来るなど不可思議な力をもつ人々。サイキッカーと呼ばれたそのジョブを人工的に作り出そうと軍部が動き出すのは当然の流れだった。数々の失敗と長い時を経た今、人工的にスキルの一部を再現出来るようなったサイキッカーが少数ながら存在している事は知られていたがまさか、ここにいるとは思わなかった。


「流石だなマーサ」


「仕事だからな。これは別料金になるぞ。だが、仲間から攻撃されるのは聞いていないが?」


「アレは仲間ではない。とはいえモリガンの僕か」


 ローブ姿の召喚士と思わしき男がマーサと呼ばれた痩せ男に声をかける。話の内容から護衛として雇われているような話ぶりであるが今はそこはどうでもいい。

 サイキッカーがいる事に驚きながらもジャンヌが再度、銃口を向けたがその射線を塞ぐようにレッサーオーガが飛び出し丸太のような棍棒をローブ姿に振り下ろした。

 硬質な音を響かせ棍棒が男の前で止まる。何もない空間にも関わらず、そこには確かに不可視の壁が存在していた。

 二度、三度と打ち下ろされる棍棒は展開された障壁に傷一つつける事なく防がれている。


「コレット!!」


「ゴメン、この子にはまだ簡単な指示しかできないの!」


 図らずとも射線を遮る形となったオーガに次の指示を出しながらコレットが「メンゴ!」とジャンヌに謝りながら少しずつ後退していく。

いくら召喚獣の側にいる方が力が発揮しやすくなるとはいえ、この戦闘に飛び込んでいく程、無謀な訳ではなかった。


「俺は好きにやらせてもらうぞ!」


 ミゲールはそう声をかけると苦無を抜き放ち素早く投げつけると、一体のトカゲ人間の眉間に深々と突き刺さり赤い粒子とともに消え去った。


 その間に祈りを捧げていたもう1人の年老いた男が召喚をおこなったようだ。初めてみるガイアの召喚はコレットとは異なり赤い光を放っていて美しいが何か禍々しいものを感じさせた。

 その光とともに骸骨兵士(スケルトンウォーリア)が複数体現れる。各々に剣と盾、一部鎧も装備しており、召喚士を守るように展開していく。そのまま年老いた男は祈りのようなものを続けておこなった。


 ジャンヌの追撃が放たれるも盾で弾かれたり、骨の隙間をすり抜けたりと十分に動きを止める事ができず、数を減らす事が出来ていない。ライフル銃との相性は最悪のようだ。


「クソっ!」


 その状況をみたミゲールはソータとともに骸骨兵士に飛び込んでいく。ミゲールが腰から刀を振り抜くも盾に受け止められる。がそのまま流れるように太刀筋が変わり盾に沿った刃が腕を斬り払う。更にソータが胴をなぐような蹴りを入れバラバラに破壊した。


「ソータぁー!」


 コレットの叫び声で振り返ると、さっきのトカゲ人間(リザードマン)がコレットの方に向かっているのが見える。槍を振り回して彼女に攻撃を加えようとしていた。コレットが小さな銃で反撃しているが、普段の練習の成果が出ず明後日の方向に撃っている。振りかぶる槍がコレットに肉薄する。 


「間に合えっ!!」


 ソータは地を踏みつけて跳躍するとコレットに攻撃が加わる寸前に自分の身体を無理矢理、間に割り込ませた。結果的に身体を盾にして庇う形となりソータの背中にトカゲ人間の槍が突き刺さる。

 先の戦闘で切り裂かれたジャケットはもはや防御能力を有していない状態であり容易に服を貫き背中に突き立った。か、その槍がソータを傷つける事はできなかった。

 何かのスキルが発動したような気もするが二回目が成功する気はしない。振り返りざまにスタンナックルをお見舞いすると赤い粒子とともにトカゲ人間が消えていく。


「ソータ、ありがと」


「借金一個返済な!」


 コレットに背中越しに声をかけつつ、コレットを大きく後方に下げていく。とはいえ、後衛のコレットに攻撃される状況を作った事がそもそも反省すべき点であり、後にかなり搾られる事になるのはこの時のソータは知る由もなかった。


 その傍らでジャンヌはトカゲ人間二体の注意をひくためか敢えて接近戦を挑んでいた。繰り出される槍をかわし、銃床で殴りつけると怯んだ相手から距離を取り腰に結えていた小型のショットガンを構え直すと引き金に指をかける。


「バレットレイン!」


 その声とともに強烈な反動とともに無数の弾丸が発射される。発射された弾は散弾なので無数ではあるのだが通常ではあり得ない程の量であり、さながら弾丸の壁が迫る勢いであった。

 当然、その壁に触れたトカゲ人間(リザードマン)の軽装甲などは貫通され全身に無数の穴を開ける、どころか内部から爆発したかのように千切れ飛んだ。砕けた肉片がジャンヌに触れる頃には赤い粒子となって消えていく。


「接近戦ではこの銃が最も強いと私は思うんだがお前たちはどう思う?」


 ソータ達にそう呟いたジャンヌは次の敵に相対すべく装弾をしていた。


 何かを叩き割るような打撃音が室内に何度も響き渡る。コレットのレッサーオーガが痩せ男のサイキッカーに肉薄しつつ棍棒を振り回すが幾度も不可視の障壁に遮られていた。このクラスの召喚獣にはまど単純な指示しかまだ出来ないコレットは敵の排除のみを頼んでいた。結果、狂戦士のように暴れまくる、ある意味オーガらしい攻撃が繰り広げられている。ただ、周りを気にせず暴れる為にサポートは全く出来そうもなかった。


 暴風のように暴れるオーガの攻撃をその障壁で凌いだサイキッカーが手を向けると突然、まるで目に見えない無数の刃で斬りつけられたかのようにオーガの全身が切り裂かれ、たちまちに血だるまのようになる。

 流石に応えたのか、攻撃の手を止め数歩後退している。


「お前のような図体だけがデカい相手は楽だな」


 そんな言葉を理解しているのか更に狂ったように殴りつけるオーガの攻撃を再び現れた不可視の障壁が防いでいた。そして攻撃の隙間をみては不可視の斬撃に全身を切り刻まれていく。

 しかし、切り刻まれているはずのオーガの攻撃が弱る事はなく、寧ろサイキッカーの攻撃回数が減り防御に回る時間が増えていた。よく見ると殴られる度に光る障壁には綻びが幾つも見えている。

 そして、全身に刻まれていた傷からはいつの間にか出血が止まっていた。


自動再生(リジェネ)付きのオーガ相手にそんなへなちょこ攻撃なんてきかないんだからね!」


 壁際まで後退しているコレットが勝ち誇ったように腕を組んで高笑いをしている。

 動きが遅いため、連続で攻撃ができないようだが一撃一撃が重く、かつスタミナが桁違いなのか動きが鈍る事がない。対してサイキッカーの男はスキルを行使し続けたせいか徐々にその動きに粗が目立ち、障壁の展開に遅れが見えてきた。

 当初の余裕のある表情は失われ、焦りをみせた男は苛立ち紛れに怒鳴りつける。


「おい、いい加減なんとかしろ!あれは厄介だぞ!」


「モリガンの手のものが邪魔をしにきたのか?しかし我が神の僕の前だ。平伏しろ」


 その声とともに部屋の端に位置していた召喚士の前に赤い光の柱が立ち昇る。血のように赤い粒子が舞い散る中、姿を現したのは五メートルはあろうかというトカゲだった。長く鋭い鉤爪が目を引くがそれ以上に特徴的なのは尻尾の先端にあり半月様の刀になっている。

 トカゲは唸り声とともにその尻尾を振り回すと俯瞰の壁や柱を薙ぎ倒し、時に切り裂いていた。


「今度は刃竜(じんりゅう)か、ならアイツの僕だな。俺がやる!」


 ミゲールが腰の刀をもう一本抜くと二本の刀を構えて刃竜に向かっていく。

 全身が刃のような鱗に覆われている刃竜の呼ばれたこの獣は大きな戦いの場面でたびたび目撃されていた事で関係者には知られている召喚獣の一つである。

 名前の如く、その全身に纏うウロコは鋭利な刃物によって構成されているかのように鋭く、近接戦闘では非常に厄介な存在であった。


 唸り声とともに尻尾が振るわれると轟音を立てて再び壁が破壊される。二度三度と振るわれたその尻尾をミゲールは軽く飛び越え刃を突き立てた。苛立つかのような咆哮をあげ、刃竜はその体躯を震わせる。その咆哮をまるで気にしないかのようにミゲールは刀を振るい続け確実に相手の動きを殺していく。

 対する刃竜も見た目とは裏腹に素早い動きでミゲールに爪を突き立て体当たりでもってその鱗を突き立てようとするが、ミゲールの剣技はその悉くを防ぎきった。

 そして、その均衡が破れる時が来た。刃竜が大きく振るった尻尾の反動で今までとは立ち位置が変わったのだ。


 その隙を見逃さず、ミゲールは跳躍すると両腕を胸の前で交差する。


蓮行(れんぎょう)!」


 ミゲールの身体がコマのように高速回転すると刃竜、ではなくその後ろに隠れるようにいた召喚士に刃が向かった。刃竜がその巨体を盾にして割り込もうとするが立ち位置が離れ過ぎており、半円状の刃のような巨大な尻尾の先端をかざすのがやっとであった。

 二本の刀が高速回転しその刃の尻尾とともに召喚士を無惨に斬り刻む。

 回転が止まった時には召喚士は全身に、深く抉りとるよう傷を負っていた。失血により倒れ伏す召喚士だがその直前にミゲールは胸に刀を突き立てると無理やり引き起こし耳元でささやく。


「お前らガイアは一人残らず信じる神とやらの元に送ってやる。待っていろ」


 突き飛ばす様に刀を抜くと召喚士は血飛沫をあげ仰向けに倒れる。と同時に刃竜と呼ばれた召喚獣が赤い粒子となって消えていく。


「召喚士を倒せばそいつが召喚した奴は消える。あんなの相手にするよりよっぽど楽だ」


 刀を振るい鞘に納めながらミゲールは呟く。実際にはその召喚獣に守られる形となる召喚士を倒すのは複数で相手をしない限り至難の業になるので誰もが取れる手ではない。ミゲールだから出来たという事だろう。

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