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28 気まずさと気遣い

 普通、帰り道の方が早く感じるものだが今回はそんな事はない。ジャンヌを疑ってひどい事言った気まずさと状況判断が出来ていなかった恥ずかしさとで話しかけづらいソータはしばらく無言で歩いていた。

 捕まえた2人は拘束用ロープでグルグル巻きにして、運搬用の召喚獣(といっても小型のカバのような動物に乗せて荷物のように運んでいるのだが)が運んでいる。

 コレットに頼んだら何故かこんなのが召喚された。あいつのセンスは常人には理解できん。などと、文句を言ったら


「そりゃそうでしょ。私の考えを貴方達が理解しようなど、おこがましいにも程があるもの」との答えが返ってきた。


 黙々と帰路に着く事、数時間。僅かな灯りを頼りにソータ達は歩いていたがまだ、地上には出られていなかった。おかしい、そろそろ着いていいはずだが。まさか、迷った⁈

 ジャンヌに声をかけようかとしたソータだったが気まずさが先にたち。思わず思い留まってしまう。


「なぁ、コレット。俺たち迷ってない?」


 横で石蹴りをしながら遊んでいるコレットに声をかけると、面倒くさそうな顔をこちらに向けた。


「エッ? そうなの。ならアンタがなんとかしなさいよ」


 そんな簡単に出来るなら苦労しな……。そう考えてはたと思い直す。


 (ネマ?この辺りの地図は分かるかな?)


 ソータには便利なAIのケイがついていた。余程の事がない限り、こちらから呼び出さないとあまり反応しないし、頼り過ぎるなとも釘を刺されているが今は非常事態なので仕方ない。


<正確な位置はビーコンなどがなく不明。現存するマップと歩行距離から概算します。……該当するマップがありません。新しいエリアと思われます>


「しまった、横道に逸れてるのか」


 がっくりと首を垂れるソータをコレットは不思議そうな顔でみている。

 暗い事と別の事を考えていたため、ルートを間違えた事にも気付かなかったようだ。ミゲール辺りは気付いていたとしても基本、傍観に徹するつもりと言われており特に口出しする気がなかったようだ。


「コレット、道を間違えたみたいだ。とりあえず来た道を引き返そう」


「むーりー。つーかーれーたー。休憩したいー」


 コレットは駄々をこねるかのようにしゃがみ込んでいる。

 確かにジャンヌも自分もともかく、コレットは普通に子供だもんなとソータは考えたところで、自分が随分と変わった事に今更ながら関心してた。


 休憩をする事をジャンヌに伝え、その辺に各々適当に座る。コレットはカバンから色々とオヤツを取り出して早速食べ始めている。さながらピクニックだ。


「お前のカバンは魔法のカバンみたいだな。何でも入ってるのかよ」


「何でも、は入ってないわよー。入れてきたものだけね」


 なんとはなしに壁にもたれ掛かり休んでいたソータに口をモゴモゴとさせたコレットが徐に手を突き出してきた。反射的に出した手のひらにコレットが小さな黒い包み紙をいくつか落とす。


「とりあえずアンタも食べときなさい。いくらサイボーグでも栄養がいるんでしょ?」


「あっ、ありがとう」


 包み紙を開くとそこには一口程度の黒いチョコレートが入っていた。確かに脳に栄養補給は必要だ。少しかじるととゆっくりと溶けていきほのかに苦さと甘さが広がる。疲れた頭やそんな事はありえないはずだが、身体の隅々まで染み渡る感じだ。


「食べたわね。倍返しでお願いね」


 目を細め微笑んだコレットは金髪を揺らして離れていく。彼女なりにさっきの事になんか気を使ったようだ。

 いやそんな事はないだろう。多分、ホントに倍返しを要求したいだけに違いないとソータは思った。


 それから暫くするとさっきから落ち着かない様子であったコレットが意を決したような表情と微かな焦りを伴った表情を見せ、一人離れようとしていた。この暗闇で一人離れる事の危険性を理解していない訳ではないだろうが、何かを覚悟したようにもみえるその表情が心配になり思わずソータは声を掛けた。


「どこ行くんだ、単独行動は危険だぞ」


「ちょっと奥に何があるか見てくるだけよ。あんたには関係ないでしょ」 


「関係ない訳ないだろ。大事な仲間なのに」


「もうほっといて!」


「一人で何かしようとしてるんだろ。水くさいぞ、俺たちはバディだろ。相談してくれよ」


 その言葉にやや押されたのか、コレットが一瞬言葉に詰まった。何度か口を開けたり閉めたりと何かを言おうとしては戸惑っていたが、やがて意を決したのかソータの目を避けるように視線を下にやると言葉を選ぶように語り出した。


「あのね、外に比べたら少しは暖かいけど、まぁ寒いじゃない」


「まぁ、冬だもんね」


「ここに来て随分時間が経ったでしょ」

「うん、そうだね」


「だから、ちょっとだけ一人になる時間と場所が欲しいの」


「えっ、その流れでなんで? 意味分かんない」


 やや恥じらいながら答えるコレットだがいつもの勢いはなく何か煮えきれないものを感じたソータはなおも詰め寄る。

 そんな、ソータに遠慮がちに断りをいれていたコレットだが、しつこく声を掛けるソータにとうとう堪忍袋の緒が切れた。


「デリカシーないわね。お花摘みに行ってくるの!」


「お花摘み? あー、おしっゴォ!」


 最後まで言い切らないうちに特大の石がソータの顔面にめり込んだ。


「ばっか! サイッテー!」


 そんなに変な事言ったかなぁ。生理現象は仕方ないのに。

 ブリブリ怒りながら闇に消えていくコレットを見ながらそんな事を思いつつ服についた石屑を払いのけた。どこかでネマのため息が聞こえた気がした。



 ******



「ちょっとー! みんなー。一緒に来てくれない」


 数分後、足早にコレットが帰ってきた。一人ではやはり怖かったのだろう。


「一人ではムリだから連れションのお願いか、コレット」


 笑顔でよっこいせと立ち上がるソータの前に見た事のない冷たい蒼の眼がソータの身体を貫いた。無いはずの心臓が鷲掴みにされたような錯覚に陥る。


「ソータ。一回死んどく?」


 抑揚のない静かな声で語るコレットに全力で首を横に振った。


「マジ、サーセンでしたー」


「それはともかく、何があったコレット?」


 不穏な気配を察したのかやや鋭い目で周囲を警戒しながらジャンヌが声をかけてきた。


「そうだった! 向こうの穴の奥から呻き声みたいな変な声が聞こえるのよ」


「呻き声?」


「そうなのよ。なんともいえない不気味な声みたいな感じ。もー、わたし怖くて怖くてー」


 細い両腕で自分の胸を抱くように抱えていたが、微かに震えているようにも見える。


「はいはい、それで帰ってきたって訳ね」


「ほんとっ怖かったんだから!」


 やいやいと言い合いをしているもラチがあかない。

 コレットがその声らしいものを聞いたというなら正体を確認すればいい話しだ。既に迷っているんだし、寄り道なんてたいした事ではない。


「とりあえず、コレットの聞いたという声を確認に行ってみるか」


 珍しく動こうとするミゲールの案にのり、探索に行く事になった。

 捕まえている二人は縛り上げている上にスニークスネークの麻痺毒の二度目が入っていた。当分は大丈夫でしょ、とコレット。

 幸い、周りに生き物の気配もないので、申し訳ないがここに置いていく事にする。


 薄暗い通路をゆっくりと四人で進んでいくと少し奥に行った所が行き止まりになっていた。


「ここよ。この壁の向こうから聞こえたんだから」


 壁をペシペシ叩きながら、コレットがその時の様子を再現するように不気味な唸り声を上げているが、ソータにしてみれば失笑ものであった。


「とりあえずなんの音も聞こえないけど」


「さっきは確かに聞こえたんだもん!」


 口をとがらせながら反論してくるが、そもそもその声というのが怪しいのだ。地下通路には幾つもの崩落した跡を含めて狭い所が多く、その為か常に何かしらの風が流れているようだった。だから、こんな奥深くでも特に問題なく探索出来ている。そんな場所だから、急な風で変な音が聞こえてもおかしくはない。


「空耳だろー。怖いって思ってるから風の音がそう聞こえたんじゃないか」


 ソータも壁をゴンゴン叩いてみるが異常なんかあるはずもない。


「待て、ソータ! そこがおかしい」


 ミゲールが壁を叩くその手を掴んで止める。

 壁を注意深くみるが、怪しいといわれもよく分からなかった。しかし、ミゲールは普段になく厳しい顔をするの壁に近づく。


「ここら辺にあるはずだが……」


 そういうとミゲールは壁周りを丁寧に調べ始めた。瓦礫も調べる事、数分。何かを発見したのかその場に固まると何やら両手を複雑に動かしだした。


「幻結開」


 そう呟くと目の前にあった壁が陽炎のように揺らめくとかき消える。その向こうには薄暗い通路が姿を現す。


「何これ? 壁が消えたけど?!」

「やだ、ここ通路だったの?こわっ」


 ソータ達が突然消えた壁に驚きの声を上げている中、ミゲールとジャンヌは顔を見合わせると軽く頷く。


「ここから先はかなり注意した方がいい。予想通りでない方がいいんだが」


「ほーら、やっぱ私の言う事は正しかったじゃない」


 ミゲールは開いた壁の向こうを覗き込むと気配を探っていたようだが振り返ると鋭い目でソータ達をみた。その横で、勝ち誇った顔でコレットがフンスと鼻息荒くソータの背中を突いている。


 慎重にその奥へ進むと人工的な通路であり、幾つもの通路に枝分かれしていた。ただ、その大半が崩落しており進める状況ではなかった。そんな通路を進み出してまもなく、不気味な声が通路を包み込んだ。


「これよ! この声が聞こえてたの」


 確かに気味悪い声だった。声とも音がともつかず、呻き声とも言えなくはない。その声は通路に反響しているせいか余計な不気味に感じた。ソータが分かれ道も覗いてみるが、やや入り組んだいるようで音の発信源を特定するのはかなり大変だと感じた。


「とりあえず片っ端から調べていこう。その方が簡単でしょ」


「あの隠し方はトラップとは全く異なるものだ。何があるか分からない以上、かなり慎重に行くべきだと思うがな」


 ジャンヌがいつになく真剣にソータな顔を見ながら答える。普段ならとりあえず好きにさせて失敗するのも訓練という姿勢なのに珍しくアドバイスを貰えたので少し戸惑いつつも考え直す。


 しかし、このままだと探索に時間かかかるかもしれない。そうすると捕まえたニ人の麻酔が切れる可能性もあるし、万が一、異獣に襲われでもしたら大変な事になる。

 さて、どうしたものか。とソータは思案してポンと手を叩く。


 ネマは探査とかはムリ?

<そのような機能は付属しておりません>


 やっぱムリかー。と頭を抱えていると、ちょいちょいとコレットが手招きする。


「とりあえず、何匹か偵察用のラットを出したから少し待ちましょ」


 コレットの手際の良さに感動するが、ここで褒めたらなんか面白くないのでソータは軽く感謝するに留めた。

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