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27 探索 後編

 ミゲールが手持ちの細長い棒を何本か二つに折ると遠くに投げつける。投げた棒(ライトスティック)はボンヤリとではあるが白い光りを放った。


 近くの瓦礫に身を寄せ合うようして隠れているが、先程の不思議な音の後に続く攻撃が瓦礫の一部を吹き飛ばす。


「ミゲール、どうするの?」


「あの暗さでも敵は正確な攻撃をしてくるから相当夜目が効くようだな。このままでは俺はともかくお前らが不利だ」


 ソータの問いかけに答えながらも視線は前を向けたままミゲールは照らしきれていない暗闇の奥を睨む。淡く光る棒の明かりでは全体を照らしきれておらず、その奥から更なる不可視の攻撃が近くの壁を抉った。


「こいつを使うか。ソータ、コレット! 目を伏せておけ」


 ミゲールは手元から何かを取り出すと全力で遠投する。

 数秒後、投げた塊が弾けると真昼のような明るさが広がり、奥から悲鳴のような叫び声が聞こえた。


「ソータ、いけ!」


「りょーかい」

〈戦闘モード起動します〉


 ソータの身体の各所の黒いラインから淡い光が一瞬漏れ辺りを照らす。

 先程の投擲物は照明弾だったようで、投げた物体からかなりの明るさが広がり暗闇の奥まで照らしていた。直視しなくてよかったとソータは安堵する。

 奥は強い閃光ともいえる眩しさで見えなかったが、すぐにフィルターがかかったようになり周囲を見渡す事が出来た。奥には二つの人影があり明るさで目がやられたのか動けていない。

 よくみると一人は見た事がない人だったがもう一人はファロムと呼ばれたネコのような耳がついていた子供だ。そうなると、その一人は恐らくあの時の背の高い方だろうか、女性のようだ。今回は二人とも無地のシャツと薄汚れたパンツ姿でありローブ姿ではない。


 明かりが徐々に弱まっていくあいだにあと少しの所まで近づける。

 二人も徐々に明かるさに目が慣れたらしく動き出した。


「お前はあん時ノ! やっぱりしゃべったナー!」


 ファロムと呼ばれていた子供がかなり怒っており、それに合わせて頭部の耳のような物体が激しく動いていた。


「ゴメンな、不可抗力なんだ。それより投降してくれないか。悪いようにはしないから」


「何言ってるの。ガイアの手先に投降とかあり得ないでしょ」


 もう1人の女性が睨みつけるようにこちらをみる。


 (はて?ガイア?)

何を言っているのか咄嗟に理解ができず、ソータが固まっていると更に厳しい顔でソータの後ろを指差す。


「しらを切っても無駄です。あの召喚獣はガイアの力ですよね。大方、私達を捕まえて生贄にでもするつもりでしょう」


 (あー、コレットかー! そうだよな、普通はガイアと思われるな)

 おっしゃる通り、とソータは内心で頭を抱える。探索に使った召喚獣が裏目に出たようだ。確かに自分も事情を知らなければガイアが来たと思うだろう。


「お姉チャン、あいつら悪いヤツなのネ!」


「そうよ、私達の仲間の(かたき)よ」


「ちょっと待って。俺達はガイアじゃない!」


「騙されないモン!」


「問答無用!」


 ネコ耳が飛び出し、照明弾を踏み壊す。周囲から明かりが一気に失われてたちまち闇が広がっていき、わずかにライトスティックの明かりが広がるだけとなった。

 コレットは後ろで違う魔物を再召喚しているようで蒼い光が周りを一時的に照らしだす。


 暗がりから素早い動きでファロムと呼ばれたネコ耳が襲いかかる。長く鋭く伸びた爪はそれぞれが鋭利な刃物のように鈍く光っていた。空を切り裂き振り下ろされると掠ったカーボンスーツに傷がついた。防刃、防弾に優れているとソニアが太鼓判を押していたにも関わらず、だ。一度、攻撃を加えるとまた闇の中に溶け込む様に身を隠す。


「にゃはは、悪者メ! 覚悟しロ、キャットクロー!」


 再び暗がりから飛び出したファロムによる鋭い斬撃がソータに襲いかかる。咄嗟に腕でガードするもスーツのない剥き出し部分にも攻撃が入った。


 ギンッ!と硬質な音とともに攻撃が弾かれる。

 剥き出しの部分はさすがに無傷とはいかないが大したキズではないようだ。正直、スーツより身体の方が硬いかもしれない。


「なかなか硬い服。でも、これならどうかナ⁈」


 再び、溶けるように闇の中隠れたが、既にマーカーを付けたソータは暗闇に隠れた姿を探すように目を凝らす。

 その時、ソータの耳に何か変な音が聴こえた。羽虫が飛び交うような小さな音だが耳元で唸っている。

 虫?と、思っていると突然、耳元で高音が響きわたった。ガラスを爪で引っ掻いたような音を数百倍にしたような大音量とともに脳が揺らされる。


「ぐわぁっ!」


 あまりの異音に思わず両耳を押さえてうずくまってしまう。


「キャットスクラッチ!」


 その無防備の背中にファロムが飛び掛かると鋭く引っ掻いた。

 スーツはかなり切り裂かれたが完全に貫通した訳ではなかったらしく、かったーいとファロムが言いながら飛びのいていく。


 今のは攻撃か?ソータはズキズキする頭を振って立ち上がる。もう1人を完全に無視していたのはよくなかった。


「ちょっと手伝ってよ!」


「あの程度はお前たちで十分だろ。俺が出るまでもない」


「ソータ、余所見なんかしてるとやられるぞ」


 振り返って抗議してみたがジャンヌもミゲールも壁際に寄りかかり完全に戦線離脱している。


 更に声を上げようとした時、暗がりから妙な風切り音が聞こえた。その音は徐々に早くなり甲高い音に音変わった瞬間、不意に途切れる。


 〈緊急回避を!〉


 ネマの叫びにも近い声が響き、咄嗟に動いた脇腹を掠めて何かが飛来した。真後ろの床が激しい音を立てて爆散する。


 金属の輪が擦れる音とともに、再度脇腹を何かが通ると再び風切り音が聞こえ出した。今度は不規則な音であり時折、チッチッと何が擦られるような音がすると壁や床から火花が散るのが見えた。

 その、一瞬で見えたのは先ほどの女性が何かを持って舞うように動いている姿だった。


 美しく舞うその舞踊のように見えた姿に気を取られた瞬間、ソータは右肩口に激しい衝撃を感じ勢いよく転倒した。

 倒れた背中に再び猫娘ファロムの鋭い爪が突き立ち硬質な金属音が響いた。さすがのカーボンスーツも原型を留めない程に切り裂かれており、布切れと化している。


「ばか!なにやってんのよ!」


「ちょっと油断しただけ。大丈夫だし」


「そんな問題じゃないのよ!」


 すぐ近くで転倒しているソータをみたコレットの叱責が飛び、激しい罵り合いが木霊する。

 そんな子供たちを保護者は生暖かい目で眺めていた。ミゲールにいたってはタバコに火をつけて一服しており、ジャンヌは言い合う二人をやれやれといった表情でみていた。


「さっきのあれ何?見た事ない武器ね」


「恐らく流星錘(りゅうせいすい)だな、珍しい。使い手がいたとは驚いた」


「忍者のあなたが言うぐらいだから相当珍しいのね」


「暗器の一種でな、簡単に説明するなら数メートルの紐やら鎖の先に錘を付けてぶん回して投げるだけの武器なんだが……」


 その言葉に被せるように再び爆音が響き土煙が上がる。ミゲールとジャンヌはそちらをチラッと見るに留めると舞い上がる土煙を手で払う。


「ちょっと俺の知っている流星錘とは違う感じだな」


「何が違うの?」 


「威力だよ。まぁ、流星錘はさっき言った通りの単純な武器なんだが、使い方次第でそれなりにヤバい攻撃力はある。だが、あそこまでは見なかったからな」


流星錘と呼ばれるその武器は数メートル以上はある長い鎖の先に錘や鉄球などをつけた武器になる。遠心力で投擲して錘をぶつけるシンプルな武器だが、その錘の重さと速度によって破壊力は大きく異なる。 

 夜目の効くミゲールは薄暗く照らされる通路の奥をジッと見つめた。その目には演舞のように流星錘を振り回す女性の姿が映っていた。


「あれでも抑えてるようだな。通路が狭すぎて振り回しきれてない」


「かなり威力あるわよ。ちょっとしたライフル並みじゃない」


「広い所ならあんなもんじゃないだろう。アレは面白そうだな」


 不敵に笑うミゲールを見てジャンヌはため息をつく。


「また悪い顔してるわね。アレを上手く駒にしたいんでしょ」


「よく分かったな」


「付き合いが長いものですから、大尉殿」 


 その言葉にミゲールは苦笑いで返す。

 澄ました顔のジャンヌは戦況を確認するべく子供たちに意識をまわした。


 暗がりから襲いくる銃弾のような塊とその隙をついて襲い掛かる鋭利な爪にソータ達は攻めあぐねているようだった。

 飛来する塊を弾こうヒートナイフを使った所、柄の部分から巻き取られて何処かに飛ばされている。


「暗くて見えにくい。なんとかならないか、コレット!」


「ちゃんと仕事はしたわよ。そこ!」


 何処からか水が噴射されるような音がすると暗闇の中、一際明るく光るものが移動するのが見えた。


「スニークスネークのイルミネートブレス。よく見えるはずよ!」


「サイコーかよ! コレット」


 保護色と体温変化によりほぼ風景に溶け込む事の出来るスニークスネークは召喚獣の中でも隠密性がかなり高く発見が困難なタイプになる。各種毒液など持つが、イルミネートブレスはその名の通り、発光する液体を噴射し、相手の位置を特定させる。


 その液体がかかった女性は暗闇の中でも明るく発光しており暗闇の中ではひどく目立った。手に持つ武器にもかかったのか何かが高速で動いているようで美しい光の軌跡が闇の中に照らされていた。

 ゆっくりと見ていたい気もするが、あれが砲弾のように飛んでくるのだからそんな訳にもいかない。


「何これ? 取れない!」


 見えていれば捕まえるのは難しくはない。

 暗闇に美しい円を描いていた光の軌跡は突然、点に変わる。同時に以前聞いたアラーム音が頭の中に響いた。ジャンヌに散々狙い撃ちにされた時に聞いたあの音だ。ネマが何も言わなかったのにサポートをしてくれたようだ。


「フレームカット!」


 そのタイミングで考えるより先に反射的にスキルを発動させる。あの時、ジャンヌに散々狙い撃ちされた訓練は確かに身についていた。

 飛来する塊は繋がっている鎖も含めて暗がりの中、明るく光って目視しやすくなっていた。

 それはは六角推の形であり細い鎖に繋がっていて、かなりの速さを伴っていたようだ。フレームカットでようやく視認できる速度だったそれを横目に、何なく避けると一足飛びに近づくと同時にフレームカットが終了する。


 引き戻される前に一気に距離を詰めると足下にタックルの様にして転倒させる。


「離せ!」


 バタバタと暴れているが、組み合ってしまえばそこまで強くはなさそうであった。あとは縛り上げてしまえば問題ない。最悪スタンナックルを打ち込む事もとソータは考えたが出来るだけ手荒な事はしたくない。


 だが、戦場ではそんな判断は致命的な時もある。


 また羽虫が唸るような音が耳元で響く。今度はやたら近い。ふとソータが顔を上げるとその女性は口を大きく開いてこちらを睨みつけていた。

 音源はまさにここのようだ。


「ヤバっ!」


 同時に硬質な異音がソータの頭に響く。脳が大きく揺らされたのか周りが歪んで見え、姿勢を保っていられないぐらい平衡感覚が狂う。

 しかし、まだ倒れていないソータをみて女性は驚いたような顔をしたが追い討ちをかける為か再び口を開けた。


「パラライズファング!」


 コレットの声が響くと女性は一瞬、固まるとダラーっと脱力したように倒れる。

 よく見ると風景に溶け込むかのような保護色のヘビが肩口に牙を突き立てていた。さっきのスニークスネークと言われた蛇であろう。


「感謝しなさいよあんた。貸し一つね」


 コレットの声が後ろの方から聞こえると腕を組んだ彼女がふんぞり返って鼻息荒くソータを見下ろしていた。


「助かったよコレット、ありがとな。今度アイス奢るから」 


「トリプルで」


「ダブルまでで、トッピングあり」


「ぢゃ、それで」


 ふらつく頭を押さえながら、ソータはコレットに答える。ここはしっかり交渉しておかないと後が大変だからだ。


「よくもお姉チャンヲー!」


 その油断している所をネコ耳の子供が襲いかかる。ソータの背後から完全な不意打ちであり頭が揺れたソータは咄嗟に反応できなかった。

 が、銃声が轟きわたるとネコ耳は数歩歩いたあとパタリとその場に倒れると動かなくなる。


 少し離れた所に狙撃銃をぶら下げたジャンヌが立っていた。銃口からうっすらと白煙が上がっている。


「さすがに時間切れだな。お前たち、油断し過ぎた。特にソータ、お前は二回はやられてるぞ」


「ジャンヌ! 保護するって言ったじゃないか!」


 ソータは倒れた少女を抱き抱える。背中を撃たれたみたいだが急げばまだ助かるかもしれない。


「ムダなことはするな」


 ソータが教本で習った応急処置の準備をしているのをみてジャンヌが言う。


「ムダって、まだ間に合うかもしれないじゃないか!」


「当たった時点でもう決まっている」


 その言葉を背中にソータは慣れない手つきで救急キットを開く。


「ジャンヌ! あんたって人は。なんて事を……」


「ねぇ、ソータ?」 


 うるさい、コレット!ジャンヌがこんな事をするなんて。


「ソータぁ」


 くそくそ。もっとうまく対処できていれば。


「ソータってばぁ」


 ………………。



「返事しろぉ!クソータぁー!!」


 コレットの渾身の鉄パイプによるフルスイングがソータの首を後ろからもぎ取る勢いで炸裂すると、頭の形に鉄パイプが歪んだ。

 不意の衝撃に頭を抱えながら涙目でコレットを睨みつける。


「危ないだろ、コレット! 俺じゃなきゃ死んでるぞ! ってか、それ、どこから出てきたんだ」


「その辺に落ちてたのよ。大体、あんただから殴ったに決まってるでしょうが!それより、人の話を聞きなさいよ!」


「んだよ、今それどころじゃないんだよ」


「何をそんなに焦っているのか知らないけど、このニ人連れて帰るんだから手伝いなさいよ」


 一瞬何を言っているのか分からなかったソータが怪訝な表情でコレットをみつめる。


「あんたが何を考えるのか分かんないけど、ニ人とも麻酔が効いているうちに運ばないと面倒くさいじゃない」


「ん? 麻酔? だって。」


「私のスニークスネークの麻酔は普通の人間なら丸一日は動けないでしょうけど、ミュータントにどれだけ効くか分からないじゃない」


「じゃあ、この子は?」


「あの人が麻酔弾で寝かせてたじゃない。あんた私達に貸しだらけだからね」


 麻酔弾、そっか。死んでないのかよかった。

 ホッと安堵しているソータにミゲールが声をかける。


「とりあえず、縛り上げておけ。施設に戻り次第調べる」


 やばい、勢い余って勘違いでえらい事をジャンヌに言ってしまった。状況判断がちゃんと出来なかったバツの悪さに項垂れるソータを後目にジャンヌは淡々と準備を整えている。コレットが運搬に使えそうな召喚獣を用意しようといていた。

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