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25 裏の住人

 あいつらの仲間かと、思わず身構えるが少し違うようだ。

 お世辞にもきれいとはいえない服装でフードをすっぽりと被っており顔は見えないし少しゆとりのある服のせいか体格も判別がつかない。

 一人はジャンヌ程ではないが背が高く、もう一人は逆にソータより低いぐらいと不思議な組み合わせだった。


「あの、あいつらを倒してくれてありがとうございます。でも、死んでないならまた悪さするので……」


 声からして女性だが顔が見えないから分からない。物騒な事を言っているが、確かに、こいつらが目を覚ましたら同じ事の繰り返しになるな。とソータは納得する。


 背の高い方がナイフを取り出すと転がる男達に近づき振りかぶろうとした。

 ソータは思わず、駆け寄り両手を広げてその道を阻む。


「待って。こいつらは然るべき所に突き出すよ。殺さなくても大丈夫」


「ムダです。ここに自警団なんてこない。例え来たとしてもすぐに釈放されます。あいつらはそういうヤツらですから」


 あなただって、ひどい目にあってますよね、とソータの切り裂かれた服装を見て背の高い人は指差した。

 まぁ、確かに傍目には大変な事になっているがケガ一つしてないから殺さなくてもいいんじゃないかな、とソータは思っていた。何より目の前でむざむざ殺されるのを黙って見ていられる程、自分は達観していない。

 蛇の道は蛇って事でこの悪者たちが裏で色々も手を回す事はあるだろうが、こっちは秘密結社ニルヴァーナだ。


「自分はケガもしてないしコイツらを殺す事はないよ。ちょっと知り合いに頼んでみたらなんとかしてくれると思うし」 


「無理よ、この人達多分何も喋らない」


「大丈夫。あの人達なら絶対にうまくいくって」


 ジャンヌやミゲール達ならなんとかしてくれるだろう。秘技、人任せだ。


 そんな会話の最中、目の前の小さい姿がピクっと反応する。


「誰か来るヨ、離れないト」


 こちらは中性的な感じで男女の区別がつかないが年齢は自分達と同じかそれ以下のようにも聞こえた。

 耳をすましてみても何も聞こえず、意識して強化した聴力でようやく何かしらの足音が聞き取れる程度であった。しかし、この音に気付くなんてかなり耳がいいのか勘がいいのか。


 その小さい方が目の前のマンホールを開けて逃げ道を作ろうとしていた。分厚いマンホールの蓋が開けられた瞬間、下から不意に突風が吹きローブを跳ね上げる。


「ファロム!」


 もう1人が慌てて駆け寄りフードを直そうとするが、時すでに遅し。フードが大きく跳ね上がった。


 両手で蓋を持っていた為にフードを押さえる事が出来なかった、その顔があらわになる。


 人と変わらない顔。やや黄色みが強いブラウンのショートヘアだが人とは明らかに異なるモノがついている。


 頭部に獣の耳と同じようなものがそこにあった。


 服は肩紐のついた繋ぎのズボンであり子供のようであり性別の区別はつかないが、明らかに異質な耳、見た目は動物のネコかそれに準ずる生き物のそれがついている人間がそこにいた。


『ガラン!』という蓋が転がる音が響く。先の子供がワタワタと急いでフードを被りなおしている。


「見たナッ!」


 ファロムと呼ばれた子供がやや涙目でこちらを睨みつける。


「えぇ、それなりには」


 なんだか恥ずかしい所を見てしまったようなシチュエーションになっているのはなんでだろうか。


「ボクらの事、誰にも言うなヨ!絶対だゾ!」


 涙目になりながらこっちを指差している。


「ファロム早く行かないと!」


 もう1人の女性がなかば引き摺るようにしてマンホールの中に消えていく。


「絶対だからナァー!」


 ややエコーのかかった叫び声を最後にズシンと重い音を立てて蓋が落ちた。


 〈脅威の排除を確認。通常モードに移行します〉


 ネマの音声が流れる中、足音の主が屋根から飛び降りて来た。やはりジャンヌだ。コレットは見当たらないが恐らくは近くまで来ているだろう。


「派手な戦闘音が聞こえたから来てみればお前の仕業か」


「観光してたら絡まれてここに連れて来られただけだよ。」


 しらっとウソをつくソータ。内心では決して迷子になった訳ではない!とシャウトしている。


「で、これはどう言う事か説明してもらおうか」


 累々と転がる小悪党を見渡しながらジャンヌが言った。


「本当に見ての通りだよ。小悪党が絡んできたからしょうがなく、ね。それよりこいつら、この辺で臓器売買とかに関わっているらしいんだ。なんとかならない?」 


「お前の顔も見られているんだろ。いずれにせよ、犯罪組織と繋がりがあるならこちらで対処する」


 よしよし、秘技人任せ成功だ。


「助かるよ。あの子達も安心するだろし」


「あの子……達?」


 ハッ!しまった。

 ギギギっと固まって首で振り返るソータの顔がガシッと片手で掴まれると万力のように締め上げられる。ギシギシと内骨格(フレーム)が軋む。


「痛い痛い痛い! すみません、ゴメンなさい」


 そんな叫び声をBGMにして周囲の気温が下がったかと思う程の冷たい声が響く


「説明を願おうか、ソータ」


 *****


「なるほどな、ネコ耳の子ともう一人か」


 さっきの出来事を洗いざらい話したソータはジャンヌの前で正座をさせられていた。

 少し遅れてコレットも到着しており、横で「ねぇ、どんなきーもち?」と、歌いながら煽ってきている。

 拳を握りしめるソータだが、言い返したくともこの状況では控えた方がいいだろう。


「そいつらは速やかに確保せねばならんな。」


「なんで?俺の顔見られたから?」


「お前の馬鹿力ぐらいならそこまで気にしなくていい。問題はそいつらは恐らくミュータントであると言う事だ」


「ミュータントって大戦の時に人間を生物兵器に造り替えたやつ、だっけ?」


 ミュータントは簡単にいうと、生物兵器の人間版にあたる。Ωとの大戦の中、スキル持ちがまだ現れていなかった頃に突然現れた異形の人間である。人の姿とかけ離れた外見の代わりに人とは異なる様々な能力や力を発揮していた。その多くはBC(生物・化学)兵器や反応兵器による後遺症影響によるものだと言われているが今となっては定かではない。確かなのは人を超えた力を持つ生物であったと言う事であり、最前線で戦っていたと言う事。


 その後、大戦の激化に伴い超人的な力を持つ兵士として、動物などの遺伝子と人間を組み合わせ造られたものも現れた。当初は見た目も人間と変わらない程度であったが末期では人の姿をした動物のような兵士も造られたとの噂もある。いずれにせよ大戦の負の遺産的な存在となっていた。


「なんでミュータントなら問題なんだ?」


「あんたバッカねぇー。世界的にどれだけ嫌われてる存在か知らないの?」


 コレットが呆れた顔で正座のソータを見下ろしてくる。


「人間はね、自分と違うチカラを持っているものや少数派を差別したがるのよ」


「残念だがコレットの言う通りだ。大戦の際に人類の為に戦ってくれた兵士でもあったが、今では人とはみられなくなった彼らは迫害の対象でしかない。大戦後は色々あって数を大幅に減らし、ほぼ絶滅したかと思っていたがな。彼らの中には特殊な能力を持つ者が混じっていて危険な場合がある。なので、知ってしまった以上は排除または一旦、ニルヴァーナで保護せねばならん」


 確かに索敵能力も高かったし、ファロムと呼ばれた子は分厚いマンホールを普通に持ち上げていた事を思い出す。


「排除はなしで保護にして欲しいけど、どうやって保護するの?場所も分からないのに?」


 ジャンヌに問いかけてそれが愚問だとソータは瞬時に気づいた。ジャンヌの目が笑っている。


「ソータ。コレットもだがお前達に任務をやろう。なーに簡単だとも。迷子のお前を探すより簡単な人探しだ」


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